第082話 「帰還の祝い」
ウェンドリドの村までは魔物が出る訳でも無く、無事に帰還出来た。
そもそも冬の枯れ野にそう何か出るものではない。
捕虜だったエルフの人達は、全員が精霊魔法を使える。風を操って追い風にする魔法で、草原を楽々と越えた。
「これ凄っ! ほとんど飛んでる!」
ロジャーが跳躍して風に浮きながら興奮すると、サーネリアが答えた。
「シクラメア姫ならば、本当に空を飛ぶ事も出来るくらいだぞ! 風の精霊と仲が良いからな!」
ロジャーもエルフも全員夜目が利く。ウェンドリド手前の森も、すり抜けるような速さで通行が可能だった。
流石は森の民エルフ、といったところか。
アーロンだけ散々木に激突していたが、本人が頑強過ぎてノーダメージなので問題無い。
お陰で細い木々をへし折り、なぎ倒しながら追随する形になった。
エルフの人達に嫌な顔をされたが、監禁生活からやっと解放された人々は、とにかく早く帰りたかった。
森の木々を傷つけてしまうのは批難するところなのだが、今はお目こぼししてくれたようだ。
そんなこんなで、朝日が昇るまでには村に着いてしまった。行きは一泊二日掛かった行程を、大幅に短縮した形である。
「よくぞ! よくぞ戻った! ああシクラメア! 儂の可愛い娘よ! うおおお!」
「ああああ! 良かった! 生きてた! もう駄目かと思ったのよ! うぅ~っ!」
村に戻るとクーガーとシードリッドが大変な喜びようであった。親子で涙を流し抱き合っていた。
それを見るサーネリアも目頭を熱くし、周囲のエルフ達も泣きながら歓声を上げ始め、大騒ぎになった。
「サーネリア、シクラメアを助け、護ったそうだな! 大儀であった!」
「勿体無きお言葉! それは救出に来てくださった、この方々に掛けて下さい!」
喧騒の中でも全員に聞き取れる声の大きな二人が、ロジャー達の功績を称えた。
「魔物狩りよ。よくやってくれた! お前達は英雄だ!」
いや英雄だなんてそんな、と言うロジャーの声は大歓声に掻き消される。
この日は朝からシクラメア姫の帰還を祝う宴会となった。
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宴が始まってしばらく経つ。
エルフの兵士達は飲み続けていた。歌う者、楽器を持って来て音楽を奏でる者、踊り騒ぐ者。大勢がお祭り騒ぎだ。
「魔物狩りよ。お前達の武勇伝を聞かせてくれ!」
クーガーが上機嫌で訊ねる。
「あ、いえ、僕達だけの力じゃなくて・・・・・・」
ロジャーは恐縮しながらも、勇者一行に助けられた事などを話した。
だがクーガーは酒をたらふく飲んでいて、あまり話の内容が分からないようであった。ジェイコ宰相が隣でクーガーに分かり易く説明している。
だが細かい話をしても意味が無かった。
クーガーはとにかく娘が無事で嬉しいのだ。大変な喜びようで、話を聞いているのかも分からなかった。
そんな折にシクラメア姫がサーネリアを伴って近づいてきた。
お父様、お伝えしたい事が・・・・・・とクーガーに声を掛ける。
無論、声が通らないのでサーネリアが大音声を上げた。
「国王陛下! 姫様からお伝えしたい事があるそうです!」
「おぉ! サーネリアか! 何だ? 申してみよ!」
この二人が話すと、喧騒の中でも普通に広場の全員に声が聞こえる。
「こちらのロジャー殿を、姫様がお慕いしておられるとの事です!」
ザワザワザワザワ!
周辺が大勢のざわめきで埋め尽くされる。
ロジャーは顔を顰めた。
(うっ! 何も衆目の面前で言わなくてもいいのに・・・・・・)
皆の注目が集まってしまい、シクラメア姫が耳まで真っ赤になってサーネリアの背中を叩いていた。
「何ィィィッ!」
「ひいっ!」
それを聞いたクーガーが大声を上げた。ロジャーは思わず悲鳴を上げる。
「それは良い! お前達! 夫婦となって結ばれるが良いぞ!」
ワァァァァ!
大歓声が上がる。めでたやめでたやと大騒ぎになった。
ロジャーはガッシリとクーガーに肩を組まれて、オロオロするしかない。
「こりゃあめでたいわい! 帰ったら結婚の儀を行うぞ! わははは!」
まるで濁流に流されるかのように、話がどんどん進んでしまう。
(えっえっ?! 何これどうなっちゃうの?)
心中で狼狽えるロジャーとは対照的に、周囲のエルフ兵士達は喜びのムードだ。
ピィーッ! とつんざくような指笛が鳴り響き、万雷の拍手で場が満たされる。
ワァアアアアアアアアアアア!
満場一致での賛成に、ロジャーは驚いた。
人間の自分が、エルフにこんなに受け入れられるものなのか。
「国王陛下、万歳! 女王陛下、万歳!」
「王女殿下ぁーっ! おめでとうございまーす!」
「将来の王配殿下に! 乾杯ィーッ!」
反対する者は一人として居ない。全てのエルフが諸手を挙げて二人を祝福しているようだった。
喜びの熱狂に気圧される。何かおかしいくらいの勢いだ。
だがこうも祝われては悪い気はしない。ロジャーは困惑しつつも、あははと笑顔になった。
そんな時、シクラメア姫がロジャーの服をちょんと摘まんで引っ張ってきた。
「・・・・・・ませんか」
相変わらずポショポショ言っているが、この騒ぎの中では全く聞き取れない。
「あちらで・・・・・・」
「え、何ですか?」
ロジャーが聞き取れずに居ると、姫ももどかしそうにしている。
草花が語り掛けて来るとしたら斯くや、という奥ゆかしさだ。
するとサーネリアが姫の脇に来て声を上げた。
「あちらで話しませんか! との仰せだ! 国王陛下、宜しいでしょうか!」
「良いだろう! 逢引きを許す! サーネリア、お前が護衛に付き、何かあれば知らせよ!」
王とサーネリアが広場中に聞こえる大声を出すので、どよめきが広まった。
ピューィ!!
誰かが指笛を吹くと大勢が囃し立て、完全に注目の的となってしまう。
二人は恥ずかしさに顔を赤らめて、逃げるようにその場を後にした。




