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ドーンオブスレイヤー  作者: チュン
一章:魔獣討伐の旅
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第081話 「帰途」

 先程紹介を受けてから、放っておかれているエリクが手持ち無沙汰にしていた。

 いつもなら勇者と知られると注目を受けるのだが、何故かロジャーばかり相手にされ、自分がのけ者のようになっている。エリクはこのような体験は初めてだった。


「ゴホン! 宜しく。君の名は?」


 エリクはサーネリアに向かって手を差し出した。

 少し不自然に割り込んだ形かも知れない。だが彼の承認欲求は限界だった。無視され続ける状況に、黙っていられなかったのだ。


「従士サーネリアだ」


 サーネリアがその手を握り、ガッシリと固く握手をした。

 たった一言しか返って来ない。全く興味が無いかのようであった。

 シクラメア姫は顔を背けている。フードを被っているせいで、角度的に表情が見えない。

 

「・・・・・・その、お姫様は?」


 顔を背けたまま、反応が無い。

 エリクはこんな失礼な対応をされた事が無かった。


(まさか嫌われている? いやいやそれは無いはず。王族の高貴な人物だ。相当な理由が無ければ握手などしないのだろう)


 まあ勇者であるから、例外的に握手を求めて来る王族も今までにはあった。少しは姫が食いついて来るかと期待するも、残念ながらご興味無いらしい。

 エリクは差し出した手をすぐに引っ込めた。すると、シクラメア姫が長衣のフードを外した。

 途端に、息を呑む美貌が露わになる。

 金髪のストレートヘアが、束ねられた絹糸の如くしなやかに背中へと垂れ下がった。

 青く深い色をした大きな目は宝石のよう。まるでサファイアだ。

 日焼けの無い美白の肌には張りと艶があり、今まで監禁されていたにしては、あまりに瑞々しい美肌であった。

 今この瞬間、ほぼ全員の視線がシクラメア姫に集まった程である。

 輝く美貌を湛えた姫が自分に微笑むかと思い、エリクは表情を作った。思わず惚けそうになるところだが、気を引き締めて待つ。

 ところが姫は見向きもせず、ロジャーの方にすっと近寄って行った。


(・・・・・・あれ?)


 姫がロジャーを見つめる。

 彼の衣服はベッタリと付いた魔獣の血が乾いて、所々がバリバリだ。普段なら白く象牙色の髪も、赤黒くまだら模様。お世辞にも清潔とは言えない有様だった。

 姫はおもむろにそんなロジャーの手を取った。

 大事そうに胸の前まで持って来て、両手で大切に包み込むように手を握り直す。


「あっ・・・・・・汚れますよ!」


 ロジャーは驚き、戸惑った。汚れた衣服を高貴な人に近づけたくなかったのだ。

 三か月以上捕らわれていたはずの御姫様の方が、衣服の汚れが無い。

 しかし姫は汚れなど気に留めなかった。宝石のような瞳で、ロジャーの顔を見つめる。

 サーネリアが驚愕の表情で絶句していた。内向的な姫がこのように積極的な行動を取る事は、過去に一度だって無かったからだ。


(なっ・・・・・・! 勇者の僕を差し置いてだと?!)


 エリクのプライドにヒビが入った。

 己の人気に絶大な自信を持っていたのだ。自分がないがしろにされるなど、勇者になってからは一度も無い。

 魔族兵が四、五十人居たのを、ほとんど全部倒したのは自分だ。

 魔獣だって大型のを倒した。

 目覚ましい活躍をしたのは自分の方なのに、この差は何なのか。

 そう思いながらロジャーを見ると、左腕に魔物娘。右手は姫にぎゅっと握られている。その顔はすっかりだらしなくニヤけていた。


「あ、あの。僕、何かしちゃいました?」


 ロジャーは周囲をキョロキョロ見回しながら、困惑した様子で気恥ずかしそうに言った。

 間近にある姫の顔が、美し過ぎて直視出来ないのだ。こんな貴人に好かれる理由も分からない。

 この台詞がまた、何故かどうしようも無くエリクの心をさざめかせるのであった。

 理由など分からない。妬みなどという感情を、彼は今までの人生でほとんど抱いた事が無いのだ。

 しかしここで動揺を悟られては、余計に精神的なダメージを受ける。エリクは何とか冷静を装った。


(ま、まあどんな姫様か知らないが、人を見る目が無いな。たまたまロジャー君が気に入ったんだろう。どこを好きになったのか分からないけど)

 

 そう考えて心の平静を保つ。

 別に、この場の全員から称賛を受けられなくとも良いのだ。光の勇者である自分は、国へ帰れば人口に膾炙かいしゃする英雄なのだから。

 逆にここに居る人達は、有名人である自分の価値が分からない、可哀想な人達だ。エリクはそう思う事にした。


「・・・・・・す」


 姫は聞き取れないような声で、ロジャーに何事かを告げる。


「はい?な、何ですか?」

「す・・・・・・す」


 最初と最後しかはっきり聞き取れない。すると従士サーネリアがやってきて、大きな声で伝えた。


「シクラメア姫様は、お前を慕っておられる! 光栄に思うが良い!」

「えっ?! 何で?! 何でですか?!」


 訳も分からず好かれてしまったロジャーは、間抜けな返事しか出来なかった。


「ありがたいんですけど、訳が分からないです!」


 説明を求めると、サーネリアがどういう経緯でこうなったかを教えてくれた。

 勇者は活躍したが、多くの命を奪った姿が恐ろしいと、姫が怯えてしまった事。魔物の娘を助けた心優しさに惹かれた事などを。

 サーネリアの声は大きく、その場の全員に聞こえる。


(なるほど。荒事は苦手なお嬢様か)


 エリクもそれを聞いて納得した。

 


□■□■□■□■□■□■□■□■



 それからロジャーとエリクは、捕らわれていた人々を連れて崖上に戻った。

 マデリン達と別れた場所まで近くなってきた。すると遠目にも妙だった。白く巨大な魔物が鎮座している。

 しかもその上でマデリンが寝ているではないか。


「何なのこれ?!」


 ロジャーが騒ぐと、ベルドリットが少し遠くの枯草の中から出てきた。


「ぴーちゃん。巨大化した」

「はぁ?!」


 まあまず話にならなかったのであるが、それはさておき。

 岩場に寝かされていたアーロンに声を掛けて起こすと、すっかり全快していた。

 本人曰く、


「何が起こったのか分からんが、調子が良いぜ」


 と大きな白い毛玉を見ながら右腕を回した。

 起きてきたマデリンが、どうしてこうなったかを語った。

 結局、巨大化したぴーちゃんと魔物の娘は、エリク達がウェストリコに連行する事になった。

 ぴーちゃんはどうやら魔王の使い魔である。

 魔物の娘も、今回の黒幕に使えていた従魔であったのがその理由だ。

 王城に着いたら取り調べがあるそうで、それについては誓って乱暴はさせないからと、エリクが約束して連れて行く事になった。


「そういう事なら仕方無い・・・・・・ぴーちゃん、大人しくエリク達について行くんだよ」

「ポェェェ~」


 ぴーちゃんをポフポフと撫でると、悲し気に鳴いた。

 ロジャーとしては別れが辛いが、勇者が魔王の使い魔は放っておけないと言うので、仕方が無いと諦めた。

 まあ今後二度と会えない訳では無いらしい。ロジャーは落ち着いたら様子を見に行く事をエリクに伝えた。

 魔物の娘の方は、ロジャーにはどう扱って良いか分からない。ここで連れて行ってもらうのが正解ではある。

 エリクは魔物を敵視しているので、ちょっと心配ではあった。

 だが、乱暴はさせないと光の勇者が誓ったのだ。光の神々は嘘偽りを嫌う。彼が約束を違える事は無いはずである。


「じゃあ行くよ。ここでお別れだ」


 エリク達はこの近くにある遺跡のゲートで帰るという。そこには古代に作られた転移魔法陣があり、使い方を知る魔法使いであれば、自由に使えるのだそうだ。

 

(なるほど。だから荷物らしい荷物を持っていなかったのか)


 ロジャーは納得した。エリク達はすぐにウェストリコに帰れる。だから普通なら旅に必要な荷物を所持していないのだ。

 彼等は魔獣と黒幕を倒すのが任務で、仕事はここで終わった。最初から素早く仕事をこなして、すぐに帰還する予定だったのだろう。

 洞窟に捕まっていた人達をウェンドリドまで連れて行くのは、ロジャー達の仕事である。


「ぴーちゃん、またね。必ず会いに行くから」


 ロジャーが別れを惜しむようにぴーちゃんに抱き着く。


「ポェ~」


 大きくなったぴーちゃんも少し寂しそうであった。


「大丈夫かなこれ?」

「大人しいから平気よ。もし暴れたら魔法で眠らせるわ」

「暴れない。言って聞かせてある。心配は無い」


 エリク達が心配の声を上げながらも、別れの挨拶をして去って行く。

 後ろを巨大な丸い毛玉がゆっくりとついて行く。その様を遠目に見守りながら、ロジャーとアーロンは手を振った。

 マンイーターもエリク達に連れて行かれたが、こちらは意思疎通がはっきり出来るので問題無さそうだった。

 名前が無いのでとりあえずマコという名前を付けてもらい、喜んでいた。


「僕等も帰ろう。この人達を安全にウェンドリドまで送らなきゃ」

「そうだな。今度は油断しないようにな」


 シクラメア姫とサーネリア他、総勢七名のエルフを無事に送り届けるべく、この先の草原を東へと向かう事にする。

 帰り道ではケイオスが居ない。あのまま行方不明だ。人数は増えても、仲間が居なくなった寂寥感じゃくりょうかんは拭えなかった。

 わびしさを感じながら、ロジャーとアーロンは帰途につく。




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