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ドーンオブスレイヤー  作者: チュン
一章:魔獣討伐の旅
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第080話 「シクラメアとサーネリア」

「ヤツが逃げるぞ!」


 エリクがゲスティアを攻撃しようとするが、少女の触手が阻む。

 この触手は無視出来ない強さを持っている。どうしても対応はせざるを得ない。エリクは舌打ちをしながら触手を斬った。

 ところが今度はしつこい。少女は泣きじゃくりながら触手を伸ばしてくる。斬られて再生した触手をまた伸ばす。

 ゲスティアにそう命令されたからである。従魔として錬金術で造られた彼女は、マスターの命令に逆らえないのだ。


「ひぎぃっ! いだっ! うわぁぁん!」


 エリクは少女が伸ばしてきた触手全てを斬った。

 そして考えた。可哀想だと。だからもうこれ以上苦しませないよう、ひと思いにとどめを刺そうとした。

 ガキィン! と金属音がする。

 エリクが振り下ろした聖剣の下に、ロジャーが滑り込んで受け太刀をしていた。


「これは何のつもりだ。君は魔物狩りだろう? 何故助ける?」

「痛がってるじゃないか。止めろ」


 いつになく真剣に真っ直ぐ目を見てくるロジャー。

 静かだが怒気を孕んだ声に、エリクはほんの少しだがたじろいだ。弱気なようだった少年が、随分違って見えたのだ。


「ん? 分からないな。魔物が痛がっているから、止めろだって?」

「そうだ。か弱い女の子じゃないか」


 本気で言っているのか、とエリクは驚いた顔をした。


「それは分かる。だがこれは魔物だぞ? 可哀想だからといって、人類の敵を助けろと君は言うのか? そんな感情的な振る舞いが、正義だと言うのか?」


 エリクが問い詰めると、ロジャーは眉間に皺を寄せて叫んだ。


「分からないよ! でもそう思うんだ!」

「よし、もういい。コイツの相手は君に任せた。親玉が逃げる。僕はあっちを追うよ」


 埒が明かないと判断したエリクは、一秒も惜しいとゲスティアを追いに走った。

 ロジャーはこれが正しかったのかどうか、自分でも判らず懊悩おうのうした。自分は勇者の足を引っ張ってしまったのではないか。


「あ、ありがとうございます・・・・・・うっ! うっ!」


 だが足元で泣き崩れる魔物の少女を見ると、これは間違いではないと感じるのであった。


 一方その頃。

 一部始終は壁際の牢屋から見えていた。

 勇者エリクの光の翼も、魔獣とロジャーの死闘も。そして魔物の少女がロジャーによって救われたところも、牢の中から見ていた人々が居た。

 シクラメア姫は大変大人しい性格で、内向的であった。

 暴力などとは無縁のお姫様であり、この日初めて戦いを目にしたのであった。

 彼女は魔族兵が血を流して死ぬ度に息を呑み、恐ろしいと身体を震わせていた。

 それが敵か味方かは関係無く、強者が弱者を殺す現実を見て恐怖したのである。


「流石勇者ですね! これで我等は助かりますよ」


 護衛兼御付きの者サーネリアが喜びの声を上げたが、シクラメア姫は浮かない顔であった。

 ぼそぼそ、と何事か言うシクラメア姫。いつも付き従っているサーネリアだけが姫が何を言っているのかを理解出来る。


「殺し合いは怖い、ですか。そうですね。申し訳ありません。喜びを抑えきれませんでした」


 ぼそぼそ。


「はい? あの娘は魔物ですよ。勇者が倒そうとして当然ですが」


 ぼそぼそ。


「分かりません。光の勇者は有名ですが、あの少年は誰でしょう?」


 シクラメア姫はロジャーの行いを熱い視線で捉えていた。

 そのような所作を見ると、ずっと仕えてきたサーネリアには分かる。あの少年を姫がお気に入りになったようだと。

 普段から内向的過ぎて、姫は感情の機微がほとんど外に現れない。繊細なお方なのだ。

 その姫がここまで分かり易く興味をお持ちになっておられる。これは余程の事だとサーネリアは心に留め置いた。



□■□■□■□■□■□■□■□■



 その後、勇者エリクが戻ってきた。


「最奥部に魔法陣があって、転送ゲートになっていた。とりあえず魔法陣を破壊はしてきたよ」


 ゲスティアには惜しいところで逃げられてしまった、とエリクは悔し気に話した。


「それで、この娘はどうなってるのかな?」


 魔物のメイド少女はロジャーの腕にすがりついて、エリクから隠れるようにしている。

 ロジャーが頭を掻きながらあははと力なく笑った。


「何か、懐かれちゃって。あの後・・・・・・」


 少女の触手が再生した時、もうゲスティアは大空洞から姿を消していた。

 すると途端に少女が大人しくなった、とロジャーは言った。結果として戦わずに済んだのだ。

 それが命令だったからである。ゲスティアが逃げるまでの間戦い続けろと命令されていたので、指示内容をこなし終えた為に行動が止まったのである。

 命令の呪縛が終わった少女はロジャーに泣きついて命乞いをし、その後はずっとくっついている。

 見た目は可愛いメイド娘なので、ロジャーはすっかりデレデレになっていた。


「君は本当に魔物狩りか? 魔物狩りっていうのは、魔物に対してもっと冷酷なものだと思っていたよ」


 エリクが問い詰めるが、ロジャーは苦笑いしか出来なかった。


「今後も女の魔物が出てきたらどうするの? こんな調子じゃいつか痛い目を見るよ」

「あはは・・・・・・」


 魔物娘に腕に組み突いて寄り添われ、鼻の下が伸びている状態では言い訳も出来ない。


「君は本当にしょうがない奴だな」


 エリクも段々ロジャーの性格が分かってきて、笑ってしまった。


「おぉーい! こっちだ! 牢を開けてくれー!」


 そんな三人に女の声が掛かる。

 壁際の牢屋を開けてみると、七名のエルフが見つかった。

 シクラメアとサーネリアが前へと進み出る。


「こちらはノースシルヴァン国、シードリッド女王のご息女、シクラメア・シルヴァン・フリューゲル姫様にあらせられる」


 二人の身分が姫と側近である事が分かった。

 シクラメア姫はフード付きの長衣ローブを着ており、フードを目深に被っている。

 サーネリアも同じ服装ではあったが、こちらは被りを取り、やや赤毛の金髪が見えていた。

 ウェーブ掛かったショートボブに、エルフ特有の長い耳が目立つ。

 目の色は両者とも青。これもエルフの特徴である。

 ロジャーも軽く自己紹介して、エリクが勇者であると伝えた。


「勇者エリク並びに魔物狩りロジャーよ、姫様の救出、大儀であった。後に王から褒美があるだろう!」


 サーネリアは大きな声で胸を張って述べる。

 救出された者としてはどうにも尊大でおかしな態度であった。

 だがこれが彼女のであるようだ。王族に付いている内に、そういった所作しょさが染みついてしまっているのだろう。

 つんつん。

 シクラメア姫がサーネリアの背中を指で突く。ポショポショとほとんど聞こえなような声で言った。

 ロジャー様は独身、いえ、その、心に決めた方はおられますかと聞いて。と。


「ロジャーとやら! 想い人はあるか!」


 サーネリアが大音声だいおんじょうでロジャーを名指しする。

 姫がその後ろでサーネリアの背中をワチャワチャとグーで叩いていたが、頑強な背中にはまるで効いていなかった。


「はい? 僕ですか? いいえありません。どれだけナンパしても振られ続けていまして。ははは・・・・・・」


 ロジャーは恥ずかしそうに頬を指で掻いた。

 その様子を見て姫がサーネリアの肩をぱしぱしと叩いてコソコソと何事か言う。

 その魔物の娘とは懇意じゃないですよね、と聞いて。と。


「お前! その魔物娘は好いておるか! 嘘偽りなく申せ!」


 サーネリアの声帯はおかしいくらいの音が出る。ほとんど威圧といってもいい。

 やはり姫が全力でサーネリアを殴っているのだが、姫が華奢過ぎるせいで何の痛痒つうようも感じていないようだ。

 ロジャーは一瞬ウッと怯んだが、毅然きぜんとした態度で答えた。


「好きだとかじゃありません。でも、魔物でも女の子です。助けてあげるべきじゃないでしょうか」


 感動の面持ちで姫がロジャーを見る。

 こういう殿方を求めていたのだ。

 小柄な体、威圧感の無い優しい顔と心。むやみな争いを嫌い、女の子を守ってくれる男の子。

 シクラメアは荒々しい父とその周囲に馴染めず、男など粗野で乱暴で下品なのしか居ない、と絶望していたのである。

 そんなところへ現れた理想の男子だ。シクラメアはロジャーを好きになった。

 普段他人に一切興味を示さず、声も出さないせいで声の出し方を忘れて咳き込む程の彼女が、ここまで喜色満面にするのは珍しい事であった。

 しかし普段からお世話をしているサーネリアにしか、その微妙な差が分かる者などこの場には居なかった。




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