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ドーンオブスレイヤー  作者: チュン
一章:魔獣討伐の旅
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第077話 「錬金術師ゲスティア」

「ゲスティア様! お逃げ下さい! グフッ!」


 魔族兵が長衣の男を庇うようにして勇者の斬撃を受けた。

 そのお陰で攻撃を外した勇者は、空中を大きく旋回して遠くまで飛んで行った。


(どうやら小回りは利かないようですねぇ)

 

 すぐに続けての攻撃は来ない。男はそう判断して言った。


「逃げるですって? 何故? 私が負けるとでも言うのですか?」


 返事は無い。魔族兵は既に死んでいた。


「凡人が天才に意見するなど、身の程をわきまえなさい!」

 

 ゲスティアはさも不愉快だというように、自分にしなだれ掛かるように崩れ落ちる死体を蹴りつけて退かした。

 部下が死を賭して忠告したが、この男は全く意に介さない。遠くを飛ぶ勇者を見て、不敵な笑みを漏らした。


「考えようによっては、これは好機です。光の勇者を討ち取れば、私の格が上がるじゃないですか」


 舌舐めずりをしてじっと見つめる。

 大分数は減らされたとはいえ、まだ魔族兵は数多く生き残っていた。

 勇者は光の翼の効力が切れたのか、地上に降りて魔族兵と戦い始めている。ゲスティアはその戦いを観察した。


「まあまずは分析です。勇者の力を見せてもらうとしましょう」


 一方、ロジャーは入り口付近で様子を見ていたが、その内に気づかれて数人に囲まれていた。

 魔族兵達が数人で一斉にロジャーを攻撃してくる。

 しかしロジャーは全ての攻撃を完全に見切って回避し、反撃に転じていた。そうやって一人、また一人と魔族兵を討ち取っていく。


(やっと覚悟を決めるっていう意味が分かったような気がする。戦うって、命を掛ける事なんだ)


 もちろんロジャーは今まで、命を掛けて戦ってこなかった訳では無い。

 だがそれは仙術流派の時の神眼と心眼による全方位への知覚によって、偶然ではなく必然的に勝利する戦い方であった。

 どの方向からどんな攻撃が来るか、全て分かっている。そしてどんな攻撃も確実に回避出来る。そう出来て当然の技をもって勝利してきたのである。

 しかも今までの敵は魔物で、知能は総じて人間より低かった。フェイントや搦め手など使ってこない。全て想定の範囲内の動きしかしなかった。


「くっ・・・・・・! 危なかった!」


 ところが今戦っている相手は全てが違う。恐ろしい事に、こちらの手の内をある程度読んでくる知性がある。

 こちらが回避を得意としている点や、背後から攻撃しても全て対応出来る点。それらを踏まえてフェイントを掛けてくるのだ。

 どうしても避け難いタイミングに魔法攻撃を合わせてきたりもした。

 今はまだ何とか被弾せずに戦えているが、癖を見抜かれればその内にやられてしまうかも知れない。


(知性ある敵と戦うのが、これ程大変だったなんて。一瞬のミスが命取りだ)


 覚悟を決めるという事は、危険を恐れず受け入れる事である。

 今まさに少年は戦いの中で一つ段階を上がった。甘えを捨てて勇気を振り絞り、つたないながらも奮い立っていた。

 勇者を観察していたゲスティアが、ロジャーのその様子へと目を移す。


「フム。勇者はやはり手強いですね。後で魔獣にやらせるとしましょう。まずは弱そうなゴミから片づけますかねぇ」


 それまで高みの見物を決め込んでいたゲスティアが動き始めた。

 ゲスティアが円盤のような物を投げる。かなり遠距離にも拘わらず、円盤はフワリとした軌道でロジャーの背後まで飛んだ。

 足元には既に同じ円盤が置いてある。それを踏んだゲスティアが、ロジャーの背後に落ちている円盤上に瞬間転移した。

 完全にロジャーからは見えていないはずの位置だ。ゲスティアは顔を歪めてほくそ笑んだ。


「フヒヒヒヒ! 喰らえ!」


 ゲスティアは緑色の短剣を構え、ロジャーの背中を突き刺そうとした。

 だがロジャーにはその動きが心眼で感知出来ている。すんでの所で体をひねって短剣をかわした。

 ゲスティアは勢い余って、魔族兵に短剣を突き刺してしまう。


(今のを避けたですって?!)


 刺された魔族兵は傷口からドロドロに溶けていったが、ゲスティアはそちらを気にも留めない。どこまでもクレバーに思考する。

 そして今ので気づいた。


(コイツ、後ろが見えていますね)


 どういうカラクリかは分からないが、攻撃を見て回避している。そうでなければあんな動きをする訳が無い。ゲスティアはそう推察した。


(つまりこの短剣など、軌道が分かり易い武器で攻撃を続けても埒が明きません)


 ゲスティアは短剣をしまって、鞭を取り出した。普段は魔獣を躾ける用途の物だったが、熟練していて戦闘にも使える。

 同時にロジャーから少し離れた。鞭は広い間合いが有利だ。更に遁走も考えて、すぐに円盤を踏める位置を取っている。

 十分なリスクヘッジを取ってから、再び状況を俯瞰した。

 眼前の少年は部下の魔族兵がまだ取り囲んでいる。こちらはまだ優勢とはいえ、少年は不気味な程に全ての攻撃を回避する。

 これは楽観視出来ない。恐らく普通に攻撃すると、想像以上に苦戦するだろう。

 光の勇者はと見ると、魔族兵を大半倒し終えていた。もうすぐこちらに加勢してきそうな状況だ。


「どいつもこいつも使えないですね! 魔獣を放ちます! 死にたくなければ下がりなさい!」


 押されていると判断したゲスティアは円盤を踏んだ。瞬間転移して元の場所に戻る。

 丸太を縛って作られた、木製の檻を開ける為だ。中には二匹の魔獣が入っている。


「二号、三号! 戦いなさい!」


 ゲスティアが命令すると、二匹の魔獣が檻から飛び出した。


「人間など魔獣の強さと比べればゴミ同然です。ゴミはゴミらしく片付けてあげましょう」


 不敵な笑みを浮かべるゲスティア。


「魔獣が二匹?!」


 エリクがそれを見て驚く。


(拙いな。地上で遭遇した個体よりサイズは小さいようだけど、一遍に二匹は倒せないぞ。ディバインチャージフォーメーションを残しておくんだった!)


 自分一人ならどうとでもなる自信はあった。だがロジャー君が危険に晒されるのは避けられそうに無い。エリクは苦い顔をした。

 幸い魔族兵は魔獣が出てくると退いていく。巻き添えを避ける為だろう。

 像程の大きさがある魔獣がエリクの前に立ちはだかった。形状は以前戦ったキマイラと変わらない。サイズが小さくなっている分、早く倒せるはずではある。


(こっちは大丈夫だけど、早く片付けてロジャー君を助けないと)


 エリクは魔獣と戦いを始めた。

 ロジャーも小型のキマイラと対峙する。


(前のと比べて格段に小さい。大丈夫、今度は竦まない!)


 ともすれば恐怖に支配されてしまいそうな、自分を鼓舞して戦いを始める。

 ロジャーは小柄だ。対するキマイラは小型とはいえ、大人の身長より大きい。大型のヒグマのようなサイズである。

 本来ならとても戦いになる体格差ではない。一方的に蹂躙されてお終いだ。加えて魔獣の背には山羊と蛇の頭があり、これが独立してそれぞれ攻撃してくる。

 だがそれでもロジャーは懸命に戦った。

 紙一重で獅子の噛みつきを避ける。山羊の放つ氷弾の魔法を掻い潜って、蛇の牙に剣をぶつけてはじいた。


「フウッ! ハッ! ヤアッ!」


 流石に攻撃に転じる事は出来ていないが、それでも徐々に回避が上達していた。


(勇気を出すんだ! 僕は負けない!)


 ロジャーが戦っている間に、ゲスティアが再び背後へと移動する。


「フヒヒ! これでも避けてみなさい!」


 今度は距離を取った鞭での攻撃だ。変則的な動作をする武器を避ける難易度は高い。

 ロジャーが時の神眼を発動して超高速の世界を視認出来ていても、音速を超える鞭の先端をかわすのは至難の技であった。

 この時は振るわれた鞭の狙いが一撃目で甘かったせいか、たまたま回避出来た。

 それは良かったのだが、その代わり魔獣が横殴りに振るった前足での攻撃を避け切れなくなってしまった。


(避け切れない・・・・・・! 硬気功でガードしないと!)


 超高速の世界で、ゆっくりと迫り来る魔獣の前足が恐ろしかった。幸い腕をガードする位置まで回せたので、とにかく全力で硬気功を発動して防御する。

 前足が触れた瞬間、時の神眼の集中が切れた。

 もの凄い衝撃が全身を貫く。魔獣の太い前足での薙ぎ払いをまともに喰らってしまい、ガードしたとはいえ体重の軽いロジャーは吹っ飛ばされていく。


「ヒャハハハ! ばぁーかめ! ゴミの癖に調子に乗るからですよ!」


 ゲスティアが嘲笑を上げる。


「食べて良いですよ三号。餌が少なかったから丁度良い。ヒャーハハハ!」

 

 魔獣がロジャーに近づいて行くと、ロジャーはガクガクと立ち上がった。生まれたての子鹿のように膝が震えている。


「負けない・・・・・・自分に、負けない・・・・・・!」


 立ち上がりはしたものの、こんなダメージを受けた状態ではこれから苦戦が予想された。

 そうてなくとも元々、仙術流派は大きな相手を苦手としている。絶望的な状況だった。




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