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ドーンオブスレイヤー  作者: チュン
一章:魔獣討伐の旅
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第075話 「弛み」

「シッ! 前から人が来ます」


 咄嗟にロジャーは岩陰に身を隠した。ところがエリクは隠れなかった。


「うん。まあ敵かどうか聞いてみよう」

「え、あ、ちょっと!」


 ロジャーの制止も聞かず、平常通りの口調で話しかけながら近づいて行く。


「やあ。こんばんは。僕はエリク。ビノラオスから来た勇者だ。君は何者?」

「・・・・・・!」


 相手は返答せず、短い呪文を唱えて火の玉を飛ばしてきた。

 だが、エリクは全く避けようともせずに歩く。

 火の玉がボファッ! と音を立ててエリクの胴体に直撃した。

 しかし彼には何の痛痒つうようも無いようであった。魔法抵抗レジストにより、勇者に下位の攻撃魔法は効かないのだ。


「敵か。まあでも、話くらいは出来ないかな?」


 エリクは何事も無かったかのように両手を広げて近寄っていく。

 すると、敵は剣を抜いて構えた。


「交渉の余地は無さそうだね」


 エリクが剣を抜く。と、次の瞬間には敵が斬られていた。

 あまりにも速い。距離的にも一足一刀というにはまだ間があったが、それを一瞬で詰めての一閃だった。

 普通の人間には対応不可能な速さである。余程の剣の達人でも不覚を取りかねない。

 その手並みの鮮やかさに、ロジャーは感服した。

 

「魔族兵か。闇の陣営・・・・・・光の神の使徒たる僕とは、完全に敵対関係だ」


 死体を調べたエリクが言う。

 ロジャーも師匠から教えられた事があった。

 魔族は地底の異層空間、魔界と呼ばれる所に住んでいる闇の種族だ。魔界はマナに満ちた世界で、魔族は魔法の扱いに長けているという。

 通常は地上に出て来ないが、三百年前の聖魔大戦の折は魔王に従えられて、何万もの大群が押し寄せたと伝えられている。


「これが魔族・・・・・・初めて見ました」


 魔族の肌は灰青はいあお色をしている。頭髪は銀色で光沢があり、長く伸ばして後ろで結んでいた。

 防寒具の上に黒塗りの軽装鎧を着ている。色は違うが、エリクと似たような装備だ。


「最近ちょくちょく見るよ。戦争の前触れじゃないといいけど」

「そうですね・・・・・・聖魔大戦でも闇の尖兵というと、魔族兵だったそうですし」


 闇の軍勢にはオークや人狼などの亜人種も数多く居たが、先だって偵察や情報収集などするには向かない。

 亜人種は血の気が多過ぎて繊細な作戦行動が出来なかったり、すぐに統率が乱れて烏合の衆になり易かった。

 個々の能力が如何に高くとも、集団戦となると頭脳が必要だ。魔族はそうした闇の軍勢の中で、統率が取れた作戦行動をしていたという。


「きっと奥にまだ大勢居るだろう。僕が片付けるけど、ロジャー君も気を付けて」

「はい。敵を発見次第伝えます」


 緊張しているロジャーを見て、エリクが笑う。


「固いなぁ。肩の力を抜かないと、いざという時に実力が出せないよ。ははは」

「は、はい」

「敬語が堅苦しいな。君、歳はいくつ?」


 十五歳だと答えると、エリクは表情をほころばせた。


「同い年じゃないか! じゃあ敬語やめちゃおうよ」

「えっ、そんな。勇者様に・・・・・・いや、えっ、同い年です?」


 ロジャーは驚いた。超人的な強さの凛々しい青年然としている勇者様が、まさか自分と同じ年齢の少年だとは思わなかったのだ。

 大人びた印象を持っていたが、言われてみれば確かに若々しい顔立ちをしている。


「僕達、友達になれるかもね」

「お、畏れ多いなぁ」


 ぎこちない返事を返しながらも、ロジャーは内心嬉しくて笑顔になった。



□■□■□■□■□■□■□■□■



 一方その頃。

(マデリン視点)

 アタシは白い毛玉に魔力を与え、拳大こぶしだいに大きくしては回復させるのを繰り返していた。


「これ後何時間掛かるんだろ? 疲れた~!」


 どうにも効率が悪い。何でなの? アタシ程の魔力量を持つ魔法使いが、ここまで疲弊するくらい魔力送り込んでんのよ。

 なのに目の前の患者の腕は一向に全快しない。一部分治しても、すぐ色が悪くなってしまう。

 後何回白い毛玉が回復魔法を掛ければ治るのか、杳として知れない。


「これ、魔力こぼれてんじゃね?」


 ちょっと調べてみると、やっぱりだ。

 毛玉のサイズが小さい内に魔力を注ごうとしても、大部分が受け止め切れずに外へとこぼれていた。


「あぁんもう! ムカツク!」


 要するに今までアタシは、無駄な魔力をドバドバこぼしてたってワケ。


「もっと大きくし続ければ良かったんだ。そうすれば受け止め切れるはず」


 そこからは毛玉を大きくし続ける事にした。

 拳大になって飛ぼうとする毛玉を、はしっとつかんで更に大きくし続ける。すると、明らかに効率が良く膨らんでいった。

 こうして毛玉はスイカ程の大きさになった。


「あー! でももう限界。ちょっと休憩」


 とりあえずマナがすっからかんだわ。少し休憩を取ろう。

 でも理由が分かったから、後は時間の問題ね。マデリンちゃん天才だわ。


「・・・・・・アタシ何やってんだろ」


 ふと素になってしまった。

 ビノラオスの魔法大学に入った後、大学院に入って修士と博士課程修了。それで今やっているのがこれだ。

 大魔法の実戦での効果と新たな発展を研究する為に、勇者に同行して色々やってるんだけど。

 かれこれもう二年になる。今年で二十九歳だよ。周りの同期はもう皆結婚して子供を作った。

 ・・・・・・勇者について回ってる場合なのかな。こんなところで研究と関係無い作業をやらされていると、ついそう考えてしまう。

 でも自分は魔道を志したのだ。魔法に魅せられて研究者になった。

 国へ帰ればラボでの研究が待っている。冒険して得た知識を大魔法の研究に生かすのだ。国から研究支援金も毎年下賜かしされる、栄誉ある仕事だ。

 一般の人が羨むような立場ではある。

 これでいい。これでいいのよ。

 だけど・・・・・・このまま一人で孤独に生きていくのかな。

 彼氏も出来ず、子供も作れない。

 まあ今は子供なんて欲しくも無いよ。だって子供が居たら研究どころじゃなくなっちゃうじゃない。研究者としての責任もある。これを放り出す訳にはいかないわ。

 でもこのままいくと、老後は一人になっちゃう。家族が欲しい時に、アタシは一人ぼっちだ。最近そう考える時がある。

 おかしな話よね。秀でた才能を持つ人間が、人並みな幸せをつかめないなんて。

 ううん、焦ってるだけ。分かってる。まだ焦るのは早いって。落ち着いて構えるのよマデリン。いつかきっと運命の人が・・・・・・。

 でもアタシが幸せを手にするのって、一体いつになるの・・・・・・。


「ん・・・・・・ハッ?!」


 取り留めも無い事を考えている内に、一瞬眠ってしまっていた。

 毛玉が居ない?!

 アタシは咄嗟に辺りを見回した。居ない。何処にも居ない!

 取り乱して周辺を手でバタバタ探るけど、そんな事をしても出てくる訳も無かった。

 毛玉! 毛玉! 毛玉! どこ行ったあの毛玉ー?!




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