第073話 「黒幕の存在」
「えっ、何?! 何やってんのアンタ?」
急に奇行に走ったロジャーをマデリンが奇異の目で見る。
「ぴーちゃんです! 生きてた! 良かった!」
ロジャーはケイオスの使い魔である人造生命体、ぴーちゃんについて説明した。そして自分がぴーちゃんの回復魔法で助かったと話した。
「えっ? ケイオスってさっきの魔王の名前じゃない?」
マデリンが疑問の声を上げる。
「はい? ケイオスは魔王なんかじゃありませんよ。闇流派の魔物狩りで、僕等の仲間です」
ロジャーがあまりにもあっけらかんとしているので、嘘を言っているようには見えない。
エリクは無言で鋭い視線を向けていたが、特に何も言わなかった。
「うーん。まあいいわ。とにかくこの白い毛玉は、魔法生物ね。回復魔法が使えるって事は、聖獣の類か」
ならこういう事も出来るわ、とマデリンがぴーちゃんに手をかざす。
すると、ぴーちゃんがゆっくりと大きくなっていった。マデリンが魔力を分け与えているのだ。
「結構マナを食うわね。休みながらでないとキツイわ」
しばらくして、拳大程の大きさまでぴーちゃんが大きくなった。
するとぴーちゃんは気絶したアーロンの所にフワフワと飛んで行き、薄っすら光を放った。腕の一部が治ったようだ。
「凄い! これ、続けて下さい!」
こうして、ぴーちゃんを介した回復魔法による治療が始まった。
だが効率が悪いのか、マデリンは疲労の色を露わにする。
「う~ん。水がめの水を柄杓で汲んで、メッチャ小さい水筒に入れているような感じだわ。一気にいければ楽なんだけど」
それを見てエリクがため息をついた。
「はぁ。時間が掛かりそうだな・・・・・・」
彼は苦い表情でロジャーに話し掛ける。
「まだ今回の件は解決してないんだ。ここであまり時間を使う予定じゃなかったんだよ」
「え、でも、魔獣は倒したんですよね?」
キマイラを討伐する任務で来ている、とエリクが言っていたのをロジャーは思い出した。
「だがキマイラは錬金術によって創られた人造生命体だ。つまり創造者、黒幕が居る」
「そうか・・・・・・そうですよね!」
よく考えてみれば当たり前の事だったが、精神的に色々あってロジャーはそこに思い至らなかったのだ。
魔獣との遭遇。仲間の大怪我と命の危機。全てが大変な出来事であった。
「魔獣を倒したって、そいつを野放しにしておけばまた創るだろう。いや、もう既に第二の魔獣は創られているかも知れない」
エリクはしばらく思案してから言った。
「ロジャー君、魔獣は何処から現れた?」
「あ、えーと。ここからだと・・・・・・大分向こうにある崖からです。何も無い岩場から急に出てきました」
「そうか。下に洞窟でもあるのかな」
顎に手を当てて再び思案するエリク。
「ちょっと行って、見て来るよ」
「え、一人で行くんですか?」
もう辺りは真っ暗である。崖の岩場に足を取られるだけで危険な程だ。
ロジャーが案ずるのを余所に、エリクは仲間に指示を出した。
「マデリンはこの人の治療を続けていてくれ。ベルはマデリンの護衛を頼む」
「うん」
「分かった」
二人があまりにすんなりと返事を返すので、ロジャーは心配になって訊ねた。
「えっ、あの、大丈夫なんですか?」
「皆いつまでもこんな寒い場所に居たくはないだろう。さっさと黒幕を片付けて、帰れた方が良いんじゃないかな?」
ロジャーの心配など全く意に介していないかのような返答だった。
「止めたって無駄よエリクは。だから勇者って呼ばれてるの。一遍痛い目に合った方が良いくらいだわ」
「エリクは無敵。絶対に死なないから心配無い」
二人の仲間もこの調子だ。呆れた信頼関係である。
「おいおい酷いな。僕だって人間だよ? 人の事をまるでモンスターみたいに」
「あははは。モンスター。言い得て妙だわ」
「エリクが危険になるなら、誰も敵わない。おかしくない。本当の事」
エリクとマデリンは笑い合っている。ベルドリットは真顔のままだ。
どうやら本当にエリクは単独で行くつもりであるし、仲間もそれを止めるつもりが無いようであった。
「じゃ、まあそういうコトで」
軽く別れの手を振りながら、もう背中を見せて歩き始めるエリク。
ロジャーは咄嗟に声を掛けた。
「あの、ぼ、僕! 手伝います!」
ロジャーはエリクに駆け寄ると、自分が探知能力に長けている事を説明した。
「へぇ。それは助かるな。今まで索敵はベルがやっていてくれたからさ。自分で敵を探すのは面倒だなと思っていたんだよ」
女エルフのベルドリットは夜目が利き感覚も鋭く、斥候の役割を担っていたという。更に弓を扱わせたら百発百中の腕前だそうだ。
「僕も戦えます。きっとお役に立てるかと」
自分にも戦闘の経験がある。ロジャーはそう主張した。
「あー、そっちは多分要らないかな。危なくなったら逃げて。とにかく自分の身だけ守ってくれたら良いよ」
エリクは全く頼りにしてくれないようだ。
まあ当然である。勇者は神に選ばれし者だ。敵う者などほとんど居ないだろう。ロジャーは少し残念そうにしたが、そんな勇者を頼もしくも思った。
「アーロンを宜しく頼みます」
「すぐに済ませて帰って来るよ」
二人はこの場に残る女性二人に一時の別れを告げると、岩場の探索に向かった。




