第070話 「決意」
(ロジャー視点)
薬を飲んでしばらくすると、アーロンは意識を取り戻した。
その後は超回復能力が働いて、ほぼ全快したようだった。
左腕が無い以外はだけど。
胡坐の姿勢で座っているアーロンに謝る。
「ごめん、アーロン。僕に勇気が無かったから、また足を引っ張った」
謝ったって許されることじゃないと思う。死ぬ程苦しいってこういう事だと思った。いくら反省しても足りないって。
地面に両手をついてうなだれる。顔を直視出来ない。
「・・・・・・大丈夫だ。気に病むなよ」
アーロンは残された右手で、涙ぐむ僕の頭を優しく撫でてくれた。
「村じゃこういう誰かを庇って受けた傷は、名誉の負傷だって言われるんだ。誉れだってな。誇らしい事なんだぜ」
鬼族は超回復能力がある。だから治らない傷はとても目立つ。
それ故に傷を負った理由は重視される、ってアーロンは教えてくれた。
アーロンは嘘は言っていない。その話が僕を少しだけ楽にしてくれた。
だけど、そんな事言ったって。
・・・・・・剣士の彼が左腕を失ったんだ。辛くない訳が無いよ。
「うう~ッ! あああぁ~ッ!」
僕が負い目に苛まれないようにって。
自分が一番辛いのに、仲間を思いやってそう言ってるんだアーロンは。
「うっく! うっく! あああぁ~ッ!」
僕はアーロンに抱き着いて泣いた。申し訳無くて辛くて。堰を切ったように。目から止めど無く涙が溢れ出た。
「・・・・・・大丈夫。大丈夫だ」
僕を胡坐のまま抱えて、アーロンは相変わらず頭を優しく撫でてくれた。
師匠を思い出す。僕が修行していた時に大失敗をして泣いていると、よくこうして慰めてくれた。あの時と同じだ。
本当に強い人って包容力がある。アーロンには頼れる師匠と同じ包容力を感じた。
そんなアーロンに対して、僕はまた申し訳無い気持ちで一杯になる。胸が張り裂けそうだった。
なんて情けないんだ、僕は。
これで魔物狩りだなんて、とても胸を張れない。誰かに助けてもらって、泣く事しか出来ないだなんて。
それが悔しくて、僕は泣いた。ひとしきり泣きじゃくった。アーロンは僕が落ち着くまで慰めてくれていた。
その後、僕は落ち着きを取り戻す。
本当に泣きたいのはアーロンの方だっただろう。
僕は陰鬱に押し黙っていた。
すると、急にアーロンがある一方向を向いて呟いた。
「ん? これは・・・・・・!」
アーロンは、何かを感じ取ったみたいだった。
「俺の左腕、まだ死んでないぞ!」
「え?!」
左腕の感覚がまだあるんだとアーロンが言いだした。
「駄目元でやってみたんだが、霊体が繋がってるぜ。まだ動かせる!」
精神集中すると左腕の感覚や、それがある位置まで分かるんだと。
集中しなければそれは感じられないから、痛みに気づかなかったとアーロンは言った。
「え、痛いの?」
心配になった。
「ああ。焼けるようにな。動かすと激痛がする」
事も無げに言うアーロンに、僕は顔を顰めた。
「まだツキがあるみたいだぜ。よし、左腕を取り返しに行く」
えぇっ?! と僕は驚いた。
「いや、でも! あんな大きな魔獣・・・・・・それに片腕じゃあ」
「俺は鬼族だぜ。大物狩りは得意だ。右手一本でもやってやる。勝算はあるさ」
アーロンは軽く笑ってそう言う。僕はそのしぐさに痺れた。
だって恐ろしい魔獣と不利な状態で戦うのに、笑うんだよ。器が違う。そう思った。
「俺は自分の腕を取り戻しに行くんだ。お前は無理について来なくていいんだぜ」
そう言われて、思わず口を突いて出た。
「僕も行くよ」
アーロンはきょとんとした顔をした。
「アーロンの腕がそうなったのは僕のせいだ。行くよ。僕が片腕の代わりに戦う」
「お、おう」
ちょっと面食らっているアーロンに、僕は続けた。
「それにこれは僕の問題でもあると思うんだ。この先、強大な敵とも戦えるようにならなきゃいけないから」
僕は恐怖と戦おうと思った。強くそう決意する。
「良い顔つきになったな。戦士の面構えだ」
「怖くて怯えてたら、魔物狩りなんてやっていけない。僕は戦うよ。自分の弱い心と!」
それを聞いてアーロンはニヤリと笑う。
「そうか。頼むぜ相棒」
相棒なんてそんな、と一瞬思ったけど、いやいやそれじゃ駄目だと思い直した。
片腕になるなんて僕が言い出したんだから。相棒でなきゃならないんだ。
僕は力強く返事を返した。
「うん!」
思うに僕は臆病者だった。
これじゃあどんなに技術があっても駄目だ。実戦では使い物にならない。
必要なのは技じゃなくて勇気だ。恐怖に負けない強い心なんだ。
僕は回避にだけは自身がある。怯えて竦みさえしなければ、とんな攻撃も見切って躱せるはずだ。
次は竦まない。どんなに怖くても。
自分に負けない。




