第061話 「最北のパラディン」
ザワッ! と周りの兵士達が騒ぐ。決闘だ、命を懸けた戦いだ、と皆が口々に興奮して話している。物騒な事になってきた。
「もし儂を負かせば、北の英雄を倒した者として世に誇るが良い!」
大音声を上げるクーガーに、アーロンが応える。
「歴史に名を残せるとは光栄だ。その決闘、受けるぜ!」
クーガーは鋭い眼光で不敵な笑みをこぼした。
「フン。儂に勝てるつもりか。ここでその命、潰えるやもしれんぞ?」
ロジャーは思わず絶叫した。
「ねえ! 今、決闘って言った?! 違うでしょ! 練習試合でしょこれ! ねぇ!ちょっとォォォ!」
だが二人は全く聞き入れない。もう二人だけの世界に突入している。
何とかしなければ、とロジャーはオロオロして周囲を見やった。
宰相ジェイコは頭を抱えている。周りでは近衛兵達が武器を構え、いざという時は加勢するべきかどうかと話し合う声。
既に精霊騎兵が岩石の鎧を身に纏い、緊迫した雰囲気で事の次第を見ている。
もしもアーロンが国王を殺してしまいそうになった場合、ロジャー達はただでは済まないだろう。
「剣士として死するなら本望だ。鬼神一刀流アーロン、参る!」
「よし、ならば来い! 儂はクーガー・シルヴァン=フリューゲル! 最強の王だ!」
両者改めて名乗りを上げると、戦いが再び始まった。
アーロンが連打し始める。鬼神一刀流奥義、鬼神連撃だ。ガンガンと右腕一本で大剣を軽々と扱って打ち据える。
鬼気迫る勢いとはまさにこの事だ。あまりの迫力に誰もその場を動けず、固唾を飲んで決闘を見守るしかない。
クーガーは防戦一方に立たされた。乱打に次ぐ乱打でどんどん追い詰められる。
ついには受けきれずに、次々と身体に鋭い打撃が打ち込まれていく。
「ぐッ!!」
完全に急所である頸動脈や腹部、その他複数の致命傷になりかねない部分に打撃が叩き込まれていった。
「ぐッ! ぐはッ! がああああ!」
飛び散る鮮血は傍から見て勝負ありで、これは死んでしまうのではないかと周囲が騒然となった。
「ねえええ! やめてえええ! 王様がッ! 北の英雄がッ! あああ殺しちゃダメェェ!」
ロジャーは声を枯らして絶叫したが、もはやどうにもならない。
ああ、ああ、と意に反した声が口から漏れ出た。
「フウウウ・・・・・・!」
アーロンの鬼神連撃がやっと止まった。クーガーは血塗れとなってうずくまっている。
完全にやるところまでやってしまった。
ザワザワッ!
兵士達が騒ぐ。やり過ぎだ! 最初から殺す気だったんだ! ウェスティアの回し者めー! などと殺気立った声が聞こえる。
周囲の兵士がアーロンとロジャー達を取り囲み、槍の穂先が向けられた。
「ギャーッ! 何でこうなるの! もうやだあああ!」
ロジャーは泣き叫びながら両手を挙げた。
「おぉい! 儂に恥をかかせる気か! 手を出すでない!」
クーガーの声に兵士達は驚いてそちらを見る。
うずくまっているように見えたクーガーは片膝をついて手を組み、祈りの姿勢で目を閉じていた。
その全身が淡く光を放つ。
「儂は森の神シルヴァーナの加護を受けておる。……ほれ、この通り治ったわ!」
クーガーはすくっと立ちあがり、大剣を肩に担いだ。あれ程の大怪我が嘘の様に治っているようだ。ピンピンしている。
「儂はこう見えて聖騎士でな。祈ればたちまち傷を治せる。最北のパラディンとは儂の事よ!」
兵士達から歓声が上がる。流石は我等の国王だ、神の奇跡だと囃し立てている。どれ程打たれても絶命に至らぬタフネス、そして治癒。なるほど最強の王である。
「まさかもう終わりだとでも思ったのか? 儂はまだまだいけるぞ! 一発で死にでもせん限りな! ガハハハ!」
それはもはや人間の水準を超えていた。でたらめな耐久力特化の化け物だ。どう打ち据えようと、並大抵の事では倒せないだろう。
そんな怪物を前にしてアーロンが奮い立ち、大剣を構え直す。
「じゃあ一発で殺せばいいんだな? 大物狩りは得意だ。いくぜ!」
「もうダメェエエエ!!」
ロジャーが叫んだ時、女性の甲高い声が辺りに響いた。
「アナタ! 何をやっているの!?」
女王シードリットであった。
「シードリット?! 何故ここに居る!」
「やめて! 娘を失い、アナタまで失ったら私は自ら命を絶ちます! ああああ!」
女王は走ってきてクーガーの胸に飛び込むと、号泣し始めた。
「こっ、これは違うのだ! そう、練習試合だ! 安全な!」
「嘘よ! 殺し合いだわ! こんなに血が出ているじゃない!」
クーガーはしどろもどろになって弁明するが、傷は治せても身体についた血はごまかせない。
「アナタは永劫の時を生きる私の、数少ない希望のひとつなのですよ! 今アナタと死に別れたら私、耐えられないわ!」
「ま、まあ、儂もハーフエルフになったのだからな。まだ長生きはするわい。ははは・・・・・・はは」
困った顔で髭をいじるクーガー。
「私から見れば短いのよ! ずうっと一緒に生きていきたいのに、アナタは先に逝ってしまう定めじゃない! 危険な事はしないで! せめて寿命までは生きてよ! うあああ!」
感情が爆発し、堰を切ったようにまくし立てる女王。こうなってはもう決闘を続けられる雰囲気ではなくなってしまった。
「あ、あー。儂が悪かった。すまん。だから泣くな・・・・・・あぁもう。儂は湿っぽいのは苦手だ。泣かないでくれ。頼む」
女王はクーガーの胸に顔をうずめて、バカバカと言いながらその胸をゲンコツで叩いていた。
思い切り打っても何の痛痒も無い分厚い胸板だったが、それはまるで破城槌の様にクーガーの心を打ちつけた。
「う、う~む。アーロン。引き分けだ。すまんが、引き分けで頼む」
「女に泣かれちゃ仕方が無いな。女の勝ちだ」
先程までとは打って変わって意気消沈したクーガー。アーロンは同情し、快くそう答えた。




