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ドーンオブスレイヤー  作者: チュン
一章:魔獣討伐の旅
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第060話 「練習試合という名の殺し合い」

 女王が宴の席から去ると、クーガーがアーロンを指差す。


「お主、中々の身体をしておるではないか。名を何という?」


 アーロンは一瞬ぽかんとした後、短くアーロンだ。とだけ答えた。


「その体格、戦士であろう。どうだ、余興に一戦やらんか?儂は猛者を見ると戦ってみたくて仕方が無いのだ」


 それを聞いて少し考え込んでから、アーロンは口を開いた。


「俺は構わないが、間違ってアンタを殺しちまった場合の責任は取れないぜ」

「ガッハッハッハッ!」


 クーガーが大笑いした。


「豪気ではないか! 気に入ったぞ! ジェイコ、刃引きの剣を持って来させろ!」


 宰相ジェイコは呼び掛けに応え、部下に何やら命令をした。すると兵士が重そうな大剣を二振り、小走りになって持って来てクーガーに渡す。


「やっと小うるさいのが居なくなった。アレが居るとこういう事は出来んでな」


 クーガーは不敵な笑みを浮かべながら、刃引きした大剣を片方アーロンに差し出した。

 どうやらこれが狙いで、先程はわざと女王を怒らせて退場させたようである。 


「アーロン! 危険だからダメ! 王様と戦うなんてまずいって!」


 アーロンが武器を受け取りそうになったので、ロジャーが慌てて声を掛けた。

 クーガーは国王だ。練習試合とはいえ、勝敗がつくものをやる相手として宜しくない。

 負けるならまだしも勝ってしまったら、ろくな事にはならないだろう。

 するとその様子を見て、クーガーが懇願するような声を出した。


「この老いぼれの我儘わがまま、聞いてくれんかな? 戦い、腕を競う事だけが人生の楽しみなのだ」


 アーロンがクーガーから視線を移すと、ロジャーは首を横に振っている。


「あー、儂が怖いのか。それなら仕方が無いが。刃引きの剣だぞ?」


 大剣は確かに刃が潰されており、斬れはしない物であった。それでも重量はあるので、鈍器としては十分な殺傷力がある。

 ロジャーがダメダメと必死でアーロンにジェスチャーをしていた。


「まあ、余程の臆病者なら無理には頼まん。弱者と戦っても意味は無いしな」

「やろう」


 それまで黙って聞いていたアーロンであったが、ここで食い気味に答えた。剣士としての誇りを侮辱されては看過出来なかったらしい。

 

「アーロン!」


 ロジャーが声を上げるが、アーロンは聞きはしない。まんまと挑発に乗った形である。

 彼は大剣を受け取り、中央の広い場所に移動した。大きな焚火の側で、二名の巨漢が睨み合う。


「よくぞ逃げずに儂の前に立った。誉めてやろう」


 クーガーはアーロンを少し見下ろす程の体格であった。


「無理するなよ爺さん。手加減してやる」


 お互いに挑発し合い、ギリッと奥歯を噛み締める。二人は似た者同士のようだ。

 ロジャーが心配そうに見守る。

 既視感があった。あの鬼哭き村の宴席での事を思い出す。

 

 ガァン!


 特に合図も無く打ち合いが始まった。両者の大剣がガンガンと打ち合わされる。

 その音は凄まじく、例え刃がついていなくとも当たれば大怪我である事は想像に難くない。

 ロジャーがハラハラしながら見ていると、アーロンの胴体にドカッと一撃が入った。血飛沫が上がって周辺に飛び散る。


 「うわっ!」


 思わず叫ぶロジャー。周囲もザワッと色めき立った。


「おっと! 大丈夫か? 胴が甘かったんでつい……」

「浅いな。もっとぶった斬るつもりで来なきゃ、鬼は斬れないぜ」


 クーガーの大剣はアーロンの胴にめり込んでいたが、大剣を引くと見る間に傷が塞がった。

 クーガーはそれを見て暫し驚いた顔をしていたが、その内に笑い出した。


「・・・・・・フッフッ! 鬼か。初めて目にしたわい。ならば次はしっかりとトドメを刺さねばならんな! ハッハッハッ!」

「今のは手加減してたら入っちまっただけだ。あまり調子に乗らない方がいい」


 再び両者が戦いを始める。アーロンが猛攻を受け、捌き、激しい剣劇の音を立てて打ち合う。

 十合、二十合。もはや嵐の如き打ち合いを、誰も止める事は出来ない。

 その内に今度は、アーロンの大剣が袈裟懸けにクーガーを捉えた。分厚い胸板に重たい一撃が深々と突き刺さる。


「陛下!」


 宰相ジェイコが血相を変えて叫んだ。

 だが、クーガーはジェイコに向かって人差し指を立て横に振った。チッチッチ。大丈夫だから止めてくれるな、という意味である。

 クーガーがアーロンを挑発する。


「フン! 貴様の剣こそ軽いではないか。刃引きしていなくとも、これでは儂を斬れんぞ?」


 見ればクーガーの身体は損傷を受けていない。酒を飲んでパンプアップした筋肉が、全ての衝撃を吸収しきっていた。


「フッ! 面白い爺さんだな。流石に刃があったらアンタ今ので真っ二つだぜ?」

「女の剣かと思ったわ。腰が入っとらん。野菜を切るには丁度良いかも知れんな」


 それを聞いて、アーロンはこめかみに血管を浮かせた。


「・・・・・・じゃあもう手加減は要らないな。本気で打ち込ませてもらうぞ!」

「ジェイコ! 酒を持って来い! 面白くなってきたわ!」


 お辞め下さい陛下! とジェイコが止めようとするが、クーガーは止まらない。


「エェイうるさいわ! なら酒はもういい! アレを持って来い!」

「本当にやるのですか?」


 ジェイコは顔を歪めた。信じられないという様子で、眉間に皺を寄せる。


「儂は本気だ! 早くしろ!」


 クーガーに怒鳴られ、ジェイコが諦めたように下がった。その後、羊皮紙の巻物を一つ持って来た。


「これは誓約書だ。今から行う練習試合において、儂が死んでも決して我が国は報復しない、という内容になっておる!」





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