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ドーンオブスレイヤー  作者: チュン
一章:魔獣討伐の旅
59/94

第059話 「シードリット」

「陛下、少々お耳をお貸しください」


 傍に居た小柄な男が、クーガーに何やら耳打ちをする。


「む。なるほどそうであるか。ならばそうしよう」


 するとクーガーは背負った鞘を手に取り、よっこいせと大剣をしまった。 


「儂の宰相であるジェイコの忠言を信じよう。こやつは頭が良いからな」


 暴走する馬の如き勢いが止まり、ロジャーは安堵のため息を漏らした。


「して、お前等は何者だ? 信用に値するかどうか、まずは言い分を聞こう」


 多分だが、聞いた台詞を丸のまま出してきた感がある。クーガーは動物に例えると猪みたいに真っ直ぐした性格であろう。 

 

「僕達は魔物狩り(スレイヤー)です」


 ロジャーは説明した。ウェスティア王国からの要請で、最近ここいらを荒らし回っているというキマイラを討伐しに来た事。

 それで森の中を彷徨い、今朝の冷え込みで暖を取る為に火を焚いていた事。

 元々ここウェンドリドで、自分の師匠と合流する手筈だった事など。

 全てを丁寧に説明していった。その間クーガーは意外にも大人しく聞いていた。


「以上が事の経緯です」


 ロジャーが説明を終えると、クーガーは宰相ジェイコに向かって尋ねる。


「つまり・・・・・・何なのだ? 敵ではないのか?」

然様さようで御座います、我が君」


 一体この人は話を聞いていたのだろうか。ロジャーは疑問に思った。


「ならば良し!」


 見ればジェイコさんも安堵した様子であり、この人が普段どれ程の苦労をしているかが垣間見える。


「ジェイコ! 彼等は客人として扱う! 丁重に持て成せ!」

「ははっ!」


 ロジャー達は崩れた家屋の中でもまだ使えそうな家をあてがわれ、そこで休むようにと指示がなされた。

 ジェイコが差し向けてくれた近衛兵だという兵士が案内をしてくれて、案内の最中に色々な事が聞き出せた。

 この軍隊はノースシルヴァン国の軍である。

 国といっても他国には認められていない。大森林とその周辺に存在する複数の部族をまとめ上げるような形で、エルフが上に立って発足した共同体だ。

 ノースシルヴァンは故郷の森の大樹が真の国王であり、女王が森の意思を受けて統治しているのだという。

 その森の意思が、クーガーを国王として選んだ。動けぬ大樹である自分の代役として、クーガーをその位につけよと命を出したのだ。

 エルフにとって森の意思は絶対である。反対する者は無く、クーガーは国王となった。

 そんな訳で今はクーガーが女王と共同の国王として振る舞っている、との事だった。

 彼等は大森林の遥か北西からここまで進軍してきていた。進軍の目的はキマイラの討伐である。


「それなら僕達と目的が一緒ですね。心強いです」

「こちらも魔物討伐の専門家が同行してくれるなら助かる。お互い助け合おう」


 近衛兵は好意的な返事を返してくれた。


「ロジャー君。軍隊まで出てきたのなら、キマイラとてひとたまりもあるまい。これなら我々にやる事は無いのではないか?」


 ケイオスが口を挟んだ。要するに手を引きたいという事だ。彼らしいもっともな意見である。

 すると近衛兵がそれに対して答えた。

 

「ああ、さっき国王陛下と会って分かったと思うんだが、陛下はああいう人なんだ」


 進軍の目的は元々キマイラの討伐であったはずなのだが、一向に見つからぬキマイラにクーガーは業を煮やしている。

 このまま行くと八つ当たりのような感じで、ウェスティア王国との戦争になってしまうかも知れないのだという。


「錬金術で作った合成魔獣を放つなんてウェスティアがやったに違いない、とか言い出してな。私は遺憾なのだが、王がそう言えば軍はその通り動かねばならないのだ」

「なんつー迷惑な話だ。あんた等も大変だな」


 アーロンが呆れた声を上げる。


「だから何としてでもキマイラを見つけ出して、王に留飲を下げて頂かなくてはならない。君達は魔物退治の専門家だろう? 何とか全力で捜索して欲しいんだ」


 強引な上司を持つ部下の切実な思いであった。


「もちろんです。まだ若輩ですので、力になれるかどうか分かりませんが」


 ロジャーは近衛兵に誠意ある言葉を返した。

 


□■□■□■□■□■□■□■□■



 この日、ロジャー達を持て成す宴が先程の広場で開かれる運びとなった。

 即席で空き家となった民家から椅子や机を引っ張り出してきて、そこに突貫工事的に作られた料理が並べられる。

 日暮れになると気温が下がってしまうので、まだ日が沈む大分前から宴会は開始された。


「皆の者! 魔物狩り(スレイヤー)が来てくれたぞ! この幸運に乾杯!」


 クーガーが遠くまでよく響く大声で、乾杯の音頭を取った。彼が勢いよく杯を煽ると、エルフの兵士達もそれに倣う。

 料理には新鮮な肉や魚がふんだんに用いられ、何とも豪勢な宴であった。彼等の精霊魔法による冷凍保存技術で、食料品を腐敗させずに携行出来るのだ。

 エルフの軍隊は輜重隊しちょうたいが食料や水、その他軍需物資を豊富に持って来ていた。

 平常時は然程食事を必要としないエルフだが、戦の行軍など力が必要とされる場面には人間と同じ様に食べねば素早く動けないからだ。酒も戦の景気付けの為、大量にある。 

 普段節約されたそれら飲食物は、まだ数か月消費しても無くならないだけあった。

 このような宴の機会はそうあるものではない。兵士達が喜びの声を上げて酒を飲んでいる。


「わははは! 飲め飲めーい!」


 クーガーは上機嫌だ。

 ロジャー達はすぐ横に用意された木製の椅子に座らされ、落ち着かない気分で周囲の様子を窺っていた。

 するとクーガーの横に座っていた女性が、声を掛けてくれた。


「御免なさいね、この人強引だから。歓待の宴なんて仰々しいわよね」

「あ、いえそんな、ありがたい事です」


 上品な物腰は大人の女性を思わせる。だが見た目はとても若々しく、まるで少女のようだ。

 ピンと美しく伸びた耳。エルフの特徴である。森に住むこの種族は皆が美形だ。その顔を見てロジャーは一瞬で惚れた。


「あっ、あの、お美しいですね」

「え? あぁ。ウフフ。エルフを見るのは初めてかしら? これでも大戦よりずっと前から生きているお婆ちゃんよ」


 聖魔大戦は三百年前に起こったとされる戦争だ。それ以降は各国がある程度手を取り合う事になった為、小競り合いこそあれ大きな戦は起きていない。


「大戦というと三百年前の? ・・・・・・若輩の身からは想像もつきません」


 ロジャーは驚いた。エルフは不老不死であると師匠から教わった事があるが、実際に目にすると永遠の若さはあまりに輝かしい。


「ご結婚はされていますか?」


 一目惚れしたロジャーは、とりあえず尋ねた。今のところ彼にはこれ一本しか恋愛トークスキルが無かったのだ。 


「あっははは! やだもう! 失礼、笑っちゃった……クーガーの妻です」


 当然ながら女王である。

 国王の隣に座っている人物が、そこいらの一般人であろう筈が無い。ロジャーの隣に座っていたケイオスがそれを聞いて、当たり前だろうと眉間に手を当てた。 

 

「ロジャー君。恥ずかしい質問は止めたまえ」


 ケイオスは軽蔑した顔で言った。ロジャーはたちまち赤面する。


「い、いや、聞いてみなきゃわかんないし!」

「そんな事も判らないのは君だけだ」


 国王の隣に居るんだぞ、とケイオスはロジャーを窘める。


「面白い子ですね。人妻を口説こうとしたのかしら?ウフフフ!」


 返す言葉も無く顔を赤らめて俯くロジャーに、女王は優しく自己紹介した。


「女王シードリット・シルヴァン=フリューゲルです。宜しく」


 微笑んだその顔はまるで花が咲くようで、ロジャーは思わず見惚れてしまった。


「おう! 何だ小っこいの! 儂の妻に惚れたか? ガッハハハ!」


 すると今までジェイコと談笑していたクーガーが立ち上がり、二人の間に歩いて来た。

 大きな身体は筋骨隆々としていて威圧感がある。初老を過ぎて老人に近い顔立ちだというのに、鍛え上げられた身体であった。

 この夫婦は見た目の年齢的に不釣り合いな印象で、まるで老人が少女と一緒に居るように見える。


「あ、いやそんな、恐れ多いです」


 ロジャーは慌てて否定したが、王はニヤリと笑う。そんな些末な事を見咎めるつもりは無いようであった。


「キャッ!」


 クーガーはシードリットの肩に手を回すと抱き寄せ、いきなり口づけをした。


「んっ?! ンンーッ!」

「ぷはっ! 残念だがこれは儂の女だ! ガッハッハッ!」


 再び強引にキスをするクーガー。シードリットはクーガーの胸を拳で叩いているが、分厚い胸板を華奢な拳で幾度打とうと全く効かない。


「儂とシードの愛は永遠なのだ! ガハハ!」

「やめてアナタ! 皆の面前ではしたない!」


 バチーン! 派手な音を立てて頬を張られるクーガー。


「下品な真似をするなら、私は席を外させてもらいます!」


 女王としての威厳を損ねる行為に、シードリットは怒り心頭で席を立った。

 そのまま去って行く。

 クーガーは頬に赤い手形を残しつつ、その様子を見守る。


(えっ?! これ、大丈夫なの?)


 ロジャーは自身がきっかけとなってしまったハプニングにハラハラしたが、何も口を挟む事が出来ずオロオロしていた。

 ケイオスは冷めた顔で料理を口にし、アーロンは指をさして笑っている。


「よし、行ったな」


 シードリットの姿が完全に見えなくなってから、クーガーはニタリと笑みを浮かべるのだった。




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