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ドーンオブスレイヤー  作者: チュン
一章:魔獣討伐の旅
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第058話 「クーガー」

 その晩は特に冷えた。

 ケイオスが結界を張った為に凍える事無く夜明けを迎えられたが、早朝からとにかく火を大きくせねばと、枯れ木を集めては焚火にくべた。


「堪らないなこの寒さは。結界を張らなければ凍死していたんじゃないか?」

「そうだね。北は寒いって聞いてたけど、予想以上だよ」


 焚火に木をくべながら、ケイオスとロジャーはガタガタと震えている。それを見ながら、アーロンだけは平気な様子で大剣の手入れをしていた。


「お前等寒がりなんだな。これじゃ日が昇るまで動けないか」


 鬼族の体温は常に高く、この寒さでも平然としている。


「この寒さじゃ無理だよ。もう少し暖かくなるまで待とう」


 ロジャーは枯れ木をどんどんくべていった。

 辺りは白く霜が降り、森はしんしんと冷えている。

 結局この日は昼前までその場に留まる事になった。日が十分に高く登り、気温が何とかまあマシなくらいに上がってきた頃だった。

 

 ドドッ! ドドドドッ! ドドドドッ! ドドドドッ!


 何か大型の動物が走って来るような音が聞こえてきた。


「何この音?! 何か来るよ!」


 音からすると馬ではない。もっと重たい、地響きのする音だ。それが複数の群れで近づいている。

 見回すと遠くの方から、木々の間を縫って疾駆して来る何かが見えた。

 それは大型の猿のようだった。 

 ロジャー達はこの広い世界の遥か南方に生息している、ゴリラやオランウータンといった大型の類人猿種を知らない。この猿のようなクリーチャーは丁度そのゴリラに似た風貌をしていた。

 似てはいるが、まるでゴーレムのように体が土と岩石で出来ている。一目で普通の生物ではないと分かった。

 それらがナックルウォークで走って来る。

 四、五・・・・・・目視で六体は確認出来た。


「大物だな。あれはヤバそうだ」


 アーロンが大剣を手に取り立ち上がった。

 近づいて来るにつれ、その大きさはアーロンより一回り大きいようだと判った。かなり大型だ。そして俊敏な動作である。普通の人間がかなうものではない。

 

「どうする? 逃げる?」


 逡巡するロジャー。


「俺は戦う。あの速さだ。逃げられるとは思えん」


 確かにそうであった。敵は逃げ切れる速さではないように見える。

 アーロンが大剣を抜く。いつでも使えるよう肩に担いだ。


「私に出来る事は無さそうだな。後は頼んだぞ諸君」


 ケイオスはいそいそと周辺に配置してあった守り貝を拾いにかかっている。恐らく自分だけ隠れるつもりだろう。

 そうこうしている内に距離が詰まった。

 岩猿達は30フート程(約9m)離れた所まで来て、ロジャー達を半円形に取り囲む。

 どの個体も人間より大きい。包囲されると凄まじい威圧感がある。

 その内の一体が前へゆっくりと進み出た。

 来るか、とアーロンが身構える。 

 するとその岩猿の頭部が引っ込み、顔が出てきた。


「お前等は何者だ! ここで何をしている!」


 唐突な詰問にアーロンは面食らった。


「あ、えぇと。焚火、です」


 ロジャーは間抜けな返答をした。



□■□■□■□■□■□■□■□■



 走ってきた岩猿と見えたものは兵士が地霊の力で武装した姿だった。自分達は地霊騎兵だと名乗った。

 彼等は耳が長い。エルフだ。精霊魔法を自然に扱える種族で、通常は深い森の中に住んでいる。人間の居る人里では珍しい存在だ。


「これからお前等を、現在我等が駐留しているウェンドリドに連行する」


 三人は彼等の背に乗せられ、元より目的地であるそこに向かう事となった。

 この地霊騎兵は凄まじい速さで走る。藪などものともしない頑強さとパワーだ。


(こんなものと戦ったら一瞬でやられてしまうところだった)


 ロジャーは戦慄した。

 その上で彼等は藪こそへし折るが、森の木は傷つけないよう器用に避けて走って行く。よくもまあこれ程と思う位に柔軟な走行である。

 ロジャーは彼等と敵対せず済んで良かったと息をついたものの、連れていかれた先でどういう扱いを受けるかは心配であった。

 

(どうせ戦っても勝ち目は無いし、逃げてもすぐに捕まっちゃうだろうな)


 本当にどうにもならない。

 おまけに地霊騎兵の背はロジャー達が事故あるいは故意であっても、落ちないようにガッチリと土石が固まってホールドしている。これでは脱出は無理だ。

 あれこれと考えはしたが何も答えは出ず、そうこうしている内にウェンドリドに着いたようだった。


「着いたぞ。降りろ」


 地霊騎兵達に連行されて村の中に入れられる。

 ウェンドリドは木製の柵と自然の木々や藪に覆われた村で、門のようなものは無かった。

 入口に高い木がある。そこが見張り櫓になっていて、上から歩哨が弓に矢をつがえてこちらの様子を窺っていた。  


「武器はこちらで預かる。その背中の荷物も全部だ」


 三人は言われるままに武器と荷物を預け、村の中心部へと連れて行かれた。

 歩いて行く途中周囲を見回すと、ウェンドリドの村は荒らされた形跡があり、居るのは武装した兵士ばかりであった。

 驚いた事にほとんどの者の耳が長い。これはエルフの特徴だ。寒さに厚着している為あまり露出していないが、帽子や巻布から長い耳がのぞいている。

 長短あるサイズは人間とエルフの混血の結果だろう。

 ここには純粋な人間がほとんど居ない。

 村の中心部に近づくにつれて、そんなエルフの兵士達が増えてきた。皆がこちらを見て何かを口々に話し合っている。


「こいつ等が?」

「いや、三人程度じゃないだろう」


 そんなきな臭い雰囲気の中、中心部の広場に立たされた。

 周囲には兵士達が集められており、ロジャー達は大勢に囲まれる。皆がざわめいていて、これからどうなるかと不安感が一層大きくなった。

 

「皆静まれーぃ! これから儂が話を聞く!」


 大喝し群衆を掻き分けて登場したのは、熊のような巨漢であった。金髪のブロンドと勇壮に生えた豊かな髭を蓄えている。顔の皺から外見は五十代位。

 耳を見るにハーフエルフのようだ。となるとその年齢は見た目通りではないだろう。

 巨漢の男はその手に抜き身の巨大な大剣を持ち、巨躯をユサユサと揺らしながらこちらへとやって来た。


「儂の名はクーガー・シルヴァン=フリューゲルである!」


 声が豪快で、凄まじい迫力だ。ロジャーとケイオスは少し仰け反った。


「問おう! ここウェンドリドを荒らしたのは、お前等か!」


 は?! とロジャーは狼狽した。


「森の中で盛大に火を焚くとは! 火計を企てたか!」

「い、いやいやいやいや! 何の話ですか?!」


 クーガーは大剣を振りかぶって続けた。


「正直に答えるならばよぉーし! さもなくば!」


 ドカッ! と大剣を地面に振り下ろした。剣は半ばまで埋まった。


「ぶち殺ぉす!」

「えぇ……?!」


 ロジャーはあまりの勢いに気後れしてしまい、一瞬呆然となった。




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