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ドーンオブスレイヤー  作者: チュン
一章:魔獣討伐の旅
54/94

第054話 「天才の向こう傷」

 穂村麿がロジャー達の周辺を嗅ぎまわり、ついに歩を止めた。


「う~む、臭いがはっきりせんでおじゃる。じゃが・・・・・・」


 苦虫を噛み潰したような表情でケイオスを凝視する。


「お主、こちらを見よ」


 ケイオスは必死で顔を背けていた。


「麿は目をよく見れば、より完璧に吸血鬼を見抜けるのじゃ。こちらを見よ!」


 この状況で聞こえない振りをするのは無理がある。ケイオスはそれでも自分が呼ばれているとは気づかなかった体を装い、他所よそを向いていた。

 穂村麿は苛立って、やにわにケイオスの顔を両手でつかんだ。グイッと自分の方を向かせる。


「何を怯えておる? さてはお主、吸血鬼ではあるまいなぁ! ぬふ! ぬふふふ!」

「ひいぃっ!」


 恐怖の対象と強制的に目を合わせられ、悲鳴を上げるケイオス。穂村麿の顔面白塗りによる不気味さとも相まって恐れ慄いている。

 しかし顔を固定され逃げられない。ただでさえ血色の悪いケイオスは、顔面蒼白を通り越して真っ青になった。


「ほれ、麿の目にかかればたちどころに・・・・・・ぬ? ぬぅ?」

「あ、ああ……! あああ!」


 恐慌状態に陥って叫ぶケイオス。


「これは、吸血鬼ではない、だとぉ?! 唵!」


 穂村麿が懐から金剛杵を取り出し、光の剣を伸ばした。


「ぎひぃいいい!!」


 ケイオスは顔面を引きつらせ、死を意識した声音で悲鳴を上げる。

 次の瞬間、光剣がケイオスの額に突き立てられた。


「ぎゃあああ! 熱ッ! あっつッ!」


 ほんの数秒であったが、ケイオスはもだえ苦しんで横倒しに倒れる。


「滅せぬ・・・・・・確かに吸血鬼ではない。かような事があるのか……」


 すっかり意気消沈した穂村麿が呆然と呟いた。


「ケイオス! 大丈夫?!」


 ロジャーとアーロンは倒れたケイオスの元で屈むと、つかんだり揺さぶったりした。ケイオスは額を押さえヒィヒィと涙混じりに嗚咽している。

 光剣を当てられた額は丸く赤い痣が出来ていたが、特に酷い傷ではないようだ。


「怯え過ぎじゃ! そんなに麿が怖いか。気を持たせおって、腹が立つ!」


 穂村麿はケイオスが怯える様を見て、コイツは吸血鬼だろうと当たりをつけていたのだ。

 それが外れた事に自尊心を痛く傷つけられたようだ。憤懣ふんまんやる方無い様子で地団太を踏んだ。


「お主も目を見せい! お主も! ・・・・・・お主もじゃ! ぬうッ! 麿の勘が外れるなどありえん!」


 穂村麿は手当たり次第に周囲の者につかみ掛って、目を合わせて回り始めた。


「なあ。あんた。こんな事しておいて謝りもしないのか?」

「ばっ! ちょっ! アーロン!」


 アーロンは仲間を攻撃された事に苛立ち、向かっていきそうになっていた。それをロジャーが慌てて止める。

 運よくケイオスの擬態が見破られなかったというのに、下手に歯向かって目を付けられては堪らない。

 それにあの式神とかいう得体の知れない影の魔物が居る。戦えば危険である事は明らかである。

 ロジャーがアーロンを羽交い絞めにしようとしたところで穂村麿が振り向いた。二人が騒いでいるのを怪しみ、近づいて来る。


「目を見せよ!」


 その剣幕に負けてしまい、アーロンとロジャーは順に目を見られた。


「・・・・・・」


 静かな緊張が走る。

 半人半鬼のアーロンが心配になったロジャーだったが、穂村麿が何か言う事は無かった。その鑑定眼は、吸血鬼の判別にのみ特化しているのだろう。

 二人を見終えた穂村麿はまたも外れを引いたといきり立ち、他の者へとつかみ掛かって行った。

 その間ずっと、アーロンをなだめ抑えるのにロジャーは苦労させられた。

 

「ぬぅ~~~っ! 腹立たしい! 臭いからするともっと居るものと感じたのじゃが、たったの一匹しか見つからんとは!」


 穂村麿は周辺の全員を見て回ったが吸血鬼は見つからない。

 悔しそうに言い放つ。


「吸血鬼が居らぬ以上これまでじゃ。皆の者、邪魔をしたな。これにて失礼するでおじゃる」


 若干肩を落とした様子で穂村麿が出口へと向かって行った。酒場のドアを開けて出ていくのを、その場の全員がただ黙って見ていた。

 


□■□■□■□■□■□■□■□■



 嵐が過ぎ去った。酒場の店内が徐々に再び喧騒で満たされてきている。

 恋人を失った女性は先程までの体験を近くの者と話し込み、まさか吸血鬼なんて、と心中を吐露とろしていた。

 あのバンパイアハンターの話で、誰もが興奮している。

 そんな様子を見ながら、ケイオスが額に出来た痣を痛そうにさすりつつ言った。


「私の擬態薬は完璧だ。完全に身体が人間となっているせいで、光の剣も効かなかった。また一つ私が天才である事が、証明されたようだな」


 尊大な台詞を吐くが、その声は震えていた。


「でも完全に火傷してるぞそれ。大丈夫か?」


 アーロンが怪訝そうな顔で訊ねる。


「痛い。こんな時こそ使い魔のグウェインを使役しよう。グウェイン、来い」


 この程度の軽傷であれば、魔法だけで癒せる。

 ケイオスの使い魔であるケセランパサランは、騒動の間も我関せずというように料理にかぶりついていた。今は机の上でうつ伏せ? に転がっている。


「グウェイン。主の傷を癒せ」

「・・・・・・」


 返事は無い。

 しばらくすると寝息のようなものを立てているのが聞こえた。


「お腹が一杯になって、寝ちゃったみたいだね」

「ぐぬッ! 使えんッ!」


 ぴーちゃんはころんと寝返りを打った。グッスリと眠っている。


「流石天才様の使い魔だな。食ったら寝たぞ。わははは!」

「ぐぬぬ・・・・・・!」


 煽るアーロンにケイオスが青筋を立てた。

 思わず指で弾いて起こそうかと考えたが、既にもうロジャーが愛おしげに抱えて離さない態勢であった。

 結局ケイオスの火傷は忘れ去られ、後日自然治癒するまでそのままとなった。




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