第052話 「日輪の剣」
(ケイオス視点)
鬼哭き村を目指す道中を思い出す。
あの時、私はロジャー君によく説明した。
「どおぉ~してもそいつ等だけには捕まりたくないのだよ」
ロジャー君は私が役立たずだと思っているようだが。
この擬態を解いて旅をしようものなら、奴等が必ず嗅ぎつける。
ヴァンパイアハンター。吸血鬼の天敵だ。
偏執的なまでに吸血鬼を追って殺す連中で、吸血鬼と見ればどんな事情があろうと無慈悲に抹殺する。
恐らく組織立った洗脳教育でも行われているのだろう。
そうとしか考えられない程に奴等はしつこく、海を渡り地の果てまででも追ってくる。
「変態的で残忍な奴ばかりだ。私みたいな吸血鬼が傷つき、苦しみ、悲鳴や苦悶の声を上げると喜びを覚えるのだと聞く」
「そうですか。それは怖いですね」
私はロジャー君に説明するのだが、あまり分かってくれているように思えない。
所詮他人事という訳か。こっちは命が掛かっているというのにな。
「もし捕まればありとあらゆる拷問を受け、仲間の居場所を吐けと強要される。そして答えようが答えまいが、死ぬまで苦しめられて殺されるだろう」
奴等の手口は残忍で狡猾である。
奴等は吸血鬼の魂を捕らえて、式神という名の使い魔として行使する。
式神の作り方はこうだ。
拷問など苦痛を与える事で強い恨みや悪感情を抱かせ、強い負の感情で死後も魂を現世に留まらせる。
そして魂を呪と呼ばれる魔法で縛って封印し、影として利用できる形にしたものが式神となる。
故に、式神にされる者は凄惨な死に方をした上、死んだ後も魂の一部を縛られて永久に眠る事は出来ない。
永遠に続く憎悪に身を焦がしながら、その力を利用され続けるのだ。
あまりに凄惨な末路を迎える為、吸血鬼からは恐れられている。
「そんなにヴァンパイアハンターっていうのは話の通じない人達なんですか?」
「・・・・・・そうだ。まともな奴等じゃない」
私は山道で息を切らしながらそう答えた。
「まあ事情は分かりましたから、今は歩きましょう。・・・・・・体力はつけた方が良いですよ」
聞き流している。ロジャー君はやはり理解してくれないようだ。
私は軽い憤りを覚えた。
本来の私の力があれば、何不自由無いというのに。
体力など必要無い。ヴァンパイアは元から無敵に近い存在なのだ。
人間に擬態さえしていなければ。私は悔しく思った。
だがそれでも。
泥を啜ってでも奴等に出くわす訳にはいかない。
ヴァンパイアハンターにだけは。
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「おやおやおやおや~? ここらに麿の大好物の臭いがするでおじゃる~」
不気味な白塗りの顔をこちらに向けて、奇妙ないでたちの男が近寄ってきた。
大分近くなったところで二人が気づいてそちらを見る。
「なあ、あれ眉毛を描いてるよな?」
「あ、ほんとだ。クスッ」
アーロンが小声で言うと、ロジャーが呑気に笑った。
確かにその男の眉毛は不自然な位置に黒く塗られたものだった。珍妙な化粧を見て二人共、声を殺して笑う。
(止めろ、奴を刺激するな!)
ケイオスだけが額に汗を浮かべながら心の中でそう叫んでいた。
幸い、男は何も気づかない。近くまで来て立ち止まると、クンクンと鼻を鳴らして周囲を見回す。
「見ぃ~つけた!」
突然大きく目を見開いて、嬉しそうに男が叫んだ。
ビクッ!! とケイオスが仰け反る。
おもむろに男は袖口から短剣のような物を取り出した。果物ナイフ程度のサイズで、金属製に見える。
しかしナイフではない。緻密な装飾の成された模造短刀のような代物だった。武器にしては小さ過ぎる。
それを筆を持つような感じで構えた。
「唵!」
すると、その切っ先から光が伸びた。まるで光の剣だ。
「ヒ、ヒィッ!」
その光を見てロジャー達の向かいのテーブルに居た青年が、弾かれるように席を立ち上がる。
勢いよく振り返り、背を向けて逃げ出そうとした。
「ひょお~っ!」
先程まで緩慢とも見えるたおやかな動作だった男が、残像を残し一瞬で距離を詰める。
普通の動作ではない。ほとんど瞬間移動だ。何らかの魔法的な移動としか思えない動きであった。
「ぬん!」
青年の背中に光剣を突き刺した。
「ぎゃあああ!」
光に貫かれた青年が絶叫する。背中に刺さった光剣からブスブスと煙が上がった。
「ぬんぬんぬんぬん! ヒョォーッ! フヒャハハ! ヒャーッハハハハ!」
男が連続で素早い刺突を繰り出した。更に筆で絵でも描くかのような手首の動作によって、青年をバラバラに斬り刻んでいく。
実体のある剣ではなく、重さの無い光剣だからこそ可能な剣さばきであった。手首の角度だけで高速の光剣が振り回されるのだ。
斬られた青年は驚くべき事に、断面から小さく発火して一瞬で燃焼する。
そうして煙を上げながら、蒸発するように空中で消え失せていく。
「キャーッ!」
衝撃的な出来事に悲鳴が上がった。店内が騒然となる。
人が一人殺されたのだ。男の周囲から人々がワッと逃げて遠ざかった。
「ほぉっほっほっ!」
こんな騒ぎを起こしておいて、男は何を考えているのか分からぬ不気味な笑みを湛えて鷹揚にしている。
その様子を、ケイオスは震えながら窺っていた。
日輪衆対吸血鬼殲滅装備『日輪の光剣』
金剛杵と呼ばれるアーティファクトから術式により光の剣を展開する。
この光剣は吸血鬼ではない者が触れても軽い火傷を起こす程度だが、吸血鬼には致命的な武器となる。陽光の力があり、吸血鬼はこの光に触れただけで蒸発するように接触部分が破壊される。




