第048話 「再会」
ロジャー達はサイモンの元へと戻った。
邪悪な悪霊を全て倒したと伝えると、サイモンは大変喜んだ。
「おお・・・・・・! それは本当か?! 良かった! 素晴らしい! ゴホッゴホッ!」
喜びのあまり咳き込んでしまい、傍らに居た執事が背中をさする。
「ゴホッ! お前達にはゴホゴホッ! 相応の、礼をせねばならんなゴホッゴホッ!」
執事が薬湯を飲ませ介助しているが、サイモンの興奮は収まらない様子だ。
その大変な喜びようを見て、ロジャーは嫌な汗をかいた。
「い、いえ。先の取り決め通り、報酬を払って頂ければそれで構わないのですが・・・・・・」
「それはもちろんだ。だがお前達は予想より上手くやってくれたからな」
サイモンからするとロジャー達に期待していなかったのだ。実のところ今回の件は解決出来ないだろうと思い込んでいた。
悪霊を全て倒したなど思いもよらない結果であり、報酬を弾むと言い出した。
「いえ! 結構です! それよりちょっとご報告したい事が・・・・・・」
情けないような笑顔でロジャーは説明した。
アーロンが石像を破壊した事。カーテンを引き千切ってしまった事。
あの場ではすぐに気が付かなかったが、バタバタやっている間に他数点の美術品が壊れてしまっていたので、それもサイモンに報告する。
「なにィィィ?! 壊しただとォォォ?!」
「ヒィッ!」
それまでの和やかな雰囲気が一気に吹き飛ぶような激昂だった。
ロジャーが思わず悲鳴を上げる。
「あそこにあった物がどれほど高価な代物か、分かっとるのか!」
弱々しい病人のイメージが、全くしなくなったサイモンが怒鳴り散らす。今やまるで猛犬のようだ。
「あの石像は500ゴールド以上もしたんだぞ! どうしてくれるッ!?」
額に人差し指を突き付けられる。その勢いに圧倒されてロジャーが縮こまった。
「ゴホッ! ゴホッ! ゴホゴホッ!」
そこでサイモンが激しく咳き込み発作を起こし始めたので、ロジャーは咄嗟に彼から離れた。
執事が彼を助け起こしている間に、ロジャーは急いで言うだけの事を言った。
「今回の報酬はその損失に充てて下さい。と、とにかく悪霊は居なくなりました。僕達は仕事はこなしましたんで、これで失礼させて頂きます!」
サイモンが咳き込んでいる間に一方的にまくし立てる。ケイオスとアーロンを引っ張って、逃げるように彼の部屋を出た。
「待てーッ! 話は終わっておらんぞーッ! 弁償だ! 弁償しろッ!」
背後にサイモンの声が響き渡る。こうなってはもう報酬どころではない。
サイモンは弱っているので追いかけては来ないだろうが、それでも急いで館を出た。
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参ったな、とロジャーは内心頭を抱えた。
師匠に報酬を受け取れなかったと報告したらどうなるだろう。しかし悩んだところでもうどうしようもない。
師匠は先行している。報告は後日だ。ロジャーはとりあえず頭の中から嫌な考えを取り払う事に専念した。
重い足取りで少し歩き始めたところで、背後の遠くから物音がする。
一瞬ビクッとして三人とも振り返った。
館の扉は閉まっている事を確認して安堵した。サイモンが追いかけてきた訳ではないようだ。
音の出所はどこだろう?三人はしばらく館の様子を眺めていた。
すると二階の窓がギイッと開き、そこから人が出てきた。
随分と小柄だ。灰色の服はフードが付いていて、上半身はすっぽりと覆われたよ
うないでたちをしている。褐色の細い足が見える。女か子供のようだ。
何者かがパンパンになった袋を背負い、屋根を降りて行く。
「何あれ?」
「何だろうな?」
「・・・・・・盗人ではないか?」
ロジャーとアーロンが訝しんでいると、ケイオスが答えた。
ハッとなってロジャーが走り出す。その後をアーロンが追う。
あの窓は位置的に美術品が安置されていた部屋だ。恐らくサイモンの美術品を盗んだ盗賊が、逃走しようとしているのだ。
タイミング的にまさかとは思う。ロジャー達がサイモンの部屋で会話している時に、既に盗賊が入っていた事になる。
(これってもしかして、取り逃がしたら僕等が盗んだ事にされるんじゃ……)
走りながらロジャーは考えた。これは逃がす訳にはいかない。
石像一つであの怒り方だったのだ。袋一杯の美術品が盗まれたら、サイモンがどれほど怒り狂うかは想像に難くない。
恐らく冷静な判断などしてはくれないだろう。ロジャー達が盗賊とグルだと思われるはずだ。
しばらく走って行くと小柄な盗賊の背中が見えた。
幸いにも盗賊はまだロジャー達が追いかけている事に気づいてはいない。
しめたと思い走って近づくと、その音に気が付いた盗賊が振り返った。
「やべっ!」
女だった。慌てたように走って逃げだす。
意外と俊敏で、あんな荷物を持っているのにロジャー達より足が速い。
しばらく走っている内に、アーロンが遅れてはぐれてしまった。
ロジャーも段々と距離が離されている。このままでは取り逃がしてしまう。
咄嗟にロジャーは仙術流派の技を使った。
「あっ!」
たちまち女盗賊が転ぶ。背負っていた袋が落ちてバサッと開いてしまい、道にバラバラと美術品が転がった。
念手払いを使ったのだ。不可視の念動力の手が、彼女の足を払って転倒させた。
ロジャーが駆け寄って盗賊の姿を確認する。
美しい小柄な娘であった。
褐色の肌で華奢な体型。黒髪をフードで覆っている。
「痛ったぁ~・・・・・・」
転んだ時にあちこち擦りむいたらしい。膝からは血が出ていた。
「大丈夫?」
盗人とはいえ女の子だ。ロジャーは可哀想に思った。
「ゴメンね乱暴な事しちゃって」
褐色の美少女は、無言で擦りむいたところの砂利を払っている。
その顔をよく見たところで、ロジャーは驚いて目を見開いた。
「君は、昨日酒場で会った!」
あの美しい娘だったのだ。
娘もロジャーの顔をジロッと見た。そして顔を伏せて言った。
「・・・・・・カネなら無いよ。使っちまった」
「え? あ、うん・・・・・・」
驚くべき再開だった。こんな数奇な運命があるだろうか。
幸か不幸か。会えた事は幸運だが、こんな再開の仕方は不幸だと言える。
ロジャーは複雑な心境で何と言ったら良いのか分からなくなってしまい、しばし沈黙した。




