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ドーンオブスレイヤー  作者: チュン
一章:魔獣討伐の旅
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第045話 「ダメだこの男」

(ケイオス視点)

 今、壊した彫像から形の無い何かが彷徨い出て消えて行ったのが見えた。

 周囲の温度が急に下がっていく。

 ギ・・・・・・ギギ・・・・・・ギギィィ・・・・・・。

 魔導書ネクロギアが微かに軋むような音を立て、周辺から霊の気配を知らせている。

 我が師デニスの禁書庫より盗み出したこの本は、死霊術の最高位魔導書だ。手にしているだけでも所持者に霊能力を付与してくれる。


「騒がしくなってきた」


 ヒソヒソと引っ切り無しに囁き声が聞こえる。それが何を言っているのかまでは聞き取れない。

 だが思念のようなものが伝わって来て、感覚的に内容が理解出来た。

 彫像を壊された霊が嘆いているのだ。

 嘆きがまた新たに霊の眠りを妨げ、連鎖してヒソヒソと囁き合う声が周囲に充満していくのが分かる。


「何? 何も聞こえないよ?」


 ロジャー君が不安気な声で返した。

 

「いや、何でもない」


 説明が面倒だ。

 この声が聞こえないようでは、君が現状において無能だとよく分かった。

 少し黙っていてくれると助かるよ。

 ・・・・・・とは言わないでおいてやった。


(ネクロギアよ・・・・・・!)


 私は無言で精神を集中し、魔導書の力で怪しいと思われる物を探す。 

 辺りの美術品そのひとつひとつに霊の気配を感じる。

 芸術家が情熱を注ぎ込だ名品には、霊的なものが宿る事があるのだ。


「・・・・・・うっ!」


 ここの物品のほぼ全てには大なり小なり何かが住み着いているのを感じ取った。

 いくら何でも数が多過ぎて吐き気を催す。 

 気持ちが悪い。

 良いじゃないか。気に入ったぞ。

 過密過ぎてこんなのは見た事が無い。

 何が起こるか分からん。気を付けて探索せねば。


「これは相当澱んでいるな」


 思わず口を突いて出た。気づけば私は肩で息をしている。この部屋に満ちる霊圧は相当なものだ。

 くだんの死霊が出現し襲われた場合、霊的な防御が無ければ命の危険があるだろう。


「なあ、何立ち止まってんだよ。真っ暗だ。窓は無いのか?」


 アーロンが、ずかずかと部屋の奥に進んでいく。全くの無警戒でだ。

 私は内心苛立った。あまりにも無防備過ぎる。


「何だこりゃ。窓に布を掛けてあるのか」


 まあ良い。この男に何かが祟ったとしても、私の知った事ではない。

 そう思い直して私はただ眺めていたが、嫌な予感がした。


「やめろ、引っ張るな!」


 ブチブチブチブチッ!

 遅かった。

 この脳筋はカーテンも知らんのか。それはその方向に引っ張るものじゃない。

 脳筋の剛力で遮光カーテンは無残に引きむしられて床に落ちた。 

 日の光が差し込み、陰鬱な部屋が照らし出される。


「よし、これでちょっとはマシになったな」

「な・・・・・・!」


 何がだ。もっとマシな行動をしてくれ。

 確かに日は差したが、私の目にはより一層、日の当たっていない影の部分が濃くなるように感じられた。

 この部屋の霊達が憤る感情が、魔導書を通じて伝わって来る。

 お怒りはごもっともだ。私はこめかみを押さえた。

 

「おー。透明な板だ」


 それは窓ガラスだ。


「さわ」


 触るな。そう言いかけた。だがもう遅い。


 ミシッ! パリーン!


「おぉ?! 割れたぞ!」


 この脳筋! コイツは物を壊さずにはいられないのか!

 矢継ぎ早な暴挙に心底呆れる。

 

「やめろ! 霊の住処を荒らすなと言っているだろう。触る物全てを破壊していくんじゃない」

「ヘヘヘ。悪ぃ悪ぃ」


 脳筋が苦笑いしながら頭を掻く。これではまだ無能の方がマシだ。 


「ロジャー君、彼を止めていてくれ。このままじゃ全部壊される」

「あ、うん」


 私は無能に指示を出し、脳筋が動かないように監視させた。

 そうこうしている間にも周囲の囁き声が次第に大きくなり、怒りの感情が流れてくるように感じられる。


「アーロンは僕が押さえておくけど、とにかく絵を探さなきゃ」

「おいおい、大袈裟だな。もう壊さないから勘弁してくれよ」


 脳筋と無能は全然この状況を分かっていない。

 

「待て。絵を探すどころではなくなった。霊達が怒っている」


 正直なところ、最終的にこの私さえ無事ならそれで良い。

 魔導書がある限り、私の安全は保障されているようなものだ。

 しかしどんなアホ共とはいえ一応は仲間なので、目の前で死なれては寝覚めが悪い。

 不服だが、最低限の守りくらいはしてやるか。

 私は背負っていた荷物から塩の小瓶と皿を二枚取り出した。

 皿に塩を平らに盛り、そこへ呪文を唱えながら指で模様を描いていく。


「二人共、これを。描いた呪文を崩さないように持っていたまえ」


 脳筋と無能にそれを渡す。

 これは塩で出来たお守りだ。描かれた呪文が消えない限り、所持者を霊体から守る。


「何だこりゃ? 塩か?」


 脳筋が渡された直後から塩を舐め、皿を傾けて呪文を完全に崩した。


「何をやっている! 皿を傾けるな!」


 実に腹立たしい。バカに腹を立てていると思うと、より一層腹が立った。

 私は憮然としながらもお守りを作り直し、アーロンに与えた。


「悪ぃ。傾けたらダメだって最初から言ってくれりゃあ良かったのに」


 脳筋がヘラヘラと笑いながらそれを受け取る。

 コイツはいっぺん痛い目に合わないと分からないだろうな。

  

「これ持ってれば安全なの?」


 無能が不安気に皿を両手で持っている。

 歳相応の恐れ方だ。そうしていれば可愛いじゃないか。


「完全ではない。特にその呪文を崩されれば効果は消える」


 私が答えると無能は心配そうに皿を抱え直した。


「まだるっこしい。さっさと絵を回収してぶっ壊そうぜ」


 脳筋が言う。もうコイツは霊に襲われても助けたくないな。

 ともあれ、これでアホ共には最低限の霊的防御を施したぞ。

 私はため息をつきながら再び精神を集中した。魔導書の力で件の絵画を探そうと試みる。


「・・・・・・よし、こっちだ」


 部屋の奥に一際ひときわ異様な霊圧を出しているものがある。

 私はそちらへとアホ共を導いた。

 今度は足を引っ張ってくれるなよ。




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