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ドーンオブスレイヤー  作者: チュン
一章:魔獣討伐の旅
42/94

第042話 「衛兵」

(ロジャー視点)


 その後も僕は挑戦を続けた。

 もう数えきれない位の女性に声を掛け、その全てに振られている。流石に堪えるものがあった。

 だけど今まで受けた拷問のような肉体改造に比べたら、まだまだイケる。ナンパというものは辛いけど、気を抜いたら死ぬなんて事は無いんだ。

 この程度の失敗なんて大した事は無い。僕は諦めないぞ。

 そう思って決意を新たに次の女性に話し掛けようとした時、誰かに後ろから肩を叩かれた。


「おい、お前!」


 僕は振り向いた。

 そこにはいかつい顔をしたおじさんが立っていた。


「真っ白な白髪頭の変質者というのはお前だな!」


 それはスケイルメイルを纏い鉄兜を被って、短槍で武装した衛兵だった。

 

「変質者? 何の事ですか?」 

「お前の事を言っているんだ! ここいらで女に声を掛けまくってるだろ!」

「あ、はい。ナンパをやっています」

「通報が複数あった。今すぐ止めろ。さもなくば捕縛する」


 驚愕の事実が明らかになった。

 僕はどうやら変質者として通報されていたらしい。だからさっきから、声を掛けた人全員に避けられていたのか。

 一体誰がそんな根も葉も無い嘘を。酷い話だ。


「変質者だなんて! 僕は何も悪い事はしていませんよ」

「知らん。とにかく止めろと言っている。抵抗するのか?」


 衛兵は厳しい顔つきだ。

 僕が抵抗したら本気で捕らえるつもりなのが見て取れた。


「飛んでも無い! 従いますよ。えーと、ところでどういった事をしては駄目なんですか?」

「全部だ。女に声を掛けるな。触れるな。目を向けるな」


 横暴だ、と僕は憤慨気味に言い返した。


「流石に目を向けるなっていうのは、無理なんじゃないですか?」

「それが出来ないのならここで縄を打ち、牢に入れる事になる。それで良いか?」


 衛兵は完全に威圧する構えだ。うわー。素直に従うしかなさそうだな。


「分かったら立ち去れ。道の隅を歩き、他人と目を合わせるな」

「・・・・・・ハイ」


 うぅ、そこまで言わなくても。これじゃまるで悪人じゃないか。

 でもこれ以上何か言い訳をしたら多分捕まる。

 僕は仕方無く、すごすごとその場を去った。



□■□■□■□■□■□■□■□■


 

 いや、でも困ったぞ。

 その後あてどなく道を彷徨った僕は、成果の全く上がっていない状況に焦燥感を覚えた。

 お昼過ぎから半日もあれば、少なくとも一回位は上手く行くと思っていたのだ。

 まさか衛兵に止められてしまうとは思いもしなかった。

 どうしたものか。夕暮れまではまだ時間がある。このままこうして何もせずに居れば、きっと後で後悔するだろう。


「場所を変えれば上手く行くかも知れない。よし、再チャレンジだ」



□■□■□■□■□■□■□■□■



 今度は商店街にやってきた。

 人通りがまばらな時間帯のようだけど、女性はそれなりに見つけられる。これならまた次々チャレンジできそうだ。

 僕はそれからまた暫くアタックを続けた。

 何度も何度も当たって砕けてを繰り返す。精神的に疲労していくけど、手応えは感じ始めていた。

 夕刻が差し迫ってくる。

 まだ成果の上がらない僕は、なるべく粘るようにした。

 断られてもしつこく食い下がり、隙あらば食事でもどうですかと誘った。

 ところがどういう訳か上手く行かない。頑張れば頑張る程、泥沼にはまっていくような感じだった。

 その内、露骨に避けられているのが分かってきた。

 夕暮れに差し掛かり、商店街は人通りが増えてきたんだけど、僕の周りだけ人が避けて行く。

 おかしい。これじゃあまるで先程と同じだ。露骨に僕は避けられている。最初は気のせいかと思っていたけど、たった今確信した。

 こちらを遠巻きに見ている女性数人が何やらヒソヒソ話をしていた。そして僕と目が合うとサッと逃げて行ったのだ。


「くっ! 逃がすか!」


 躍起になった僕は、今逃げた女性の内一人を心眼で追跡した。

 仙術流派の技から逃げられるものか。

 人ごみの中をすり抜けるように移動して、女性の腕をつかむ事に成功する。


「こんばんは。何故逃げるんですか?」

「キャアアア!!」


 挨拶しただけなのに叫ばれてしまった。

 思わず手を放して謝罪する。

 しかし女性は腰が抜けて座り込み、泣き始めてしまった。


「おい、何をやっている!」


 ヤバい、さっきの衛兵だ!

 そんなバカな! 大分場所を移動したはずなのに、何でここに?!

 とにかく捕まったらまずい。僕は全力で逃げた。


「貴様! さっきの白髪だな!」


 うっ! この髪の色は目立つ! 遠目でもすぐ僕と判別される。特徴的な見た目をしていると、こういう時に損だ。


「待て! 捕縛する!」


 衛兵は叫ぶが、日々の修練で鍛えた僕の素早さには追い付けないようだ。

 いやー、鍛えておいて良かったな。

 僕は衛兵を撒いて裏路地に入り、胸を撫で下ろした。

 危なかった。今度は騒ぎにならないよう注意しなければ。

 思うに僕の身のこなしは仙術流派の特徴から言って、もっと狭く薄暗いこんな路地裏が向いている。

 自分の得意なフィールドで挑めば、ナンパという交渉の勝負にも有利なんじゃないか。

 つまり、声を掛けて薄暗い路地裏などに誘い込んで退路を断ち、それからナンパ交渉をすれば有利という事だ。

 中々良い戦法を思い付いたぞ。



□■□■□■□■□■□■□■□■



 それからの僕は道を歩き回り、大通りから路地裏に続く道筋を丹念に調べ上げながら女性を探した。

 丁度良い感じの人は居るのだが、狙うなら独りで歩いているのが良いだろう。

 まるで人さらいのような思考になってきたが、それで正解に違いない。

 戦いも交渉も、始める前から始まっているのだ。これまで読んだ書物にはそう書いてあった。

 僕が目を皿のようにして周囲を見回しながら歩いていると、衛兵が前方から歩いてきたので咄嗟に路地裏へと身を隠した。

 衛兵は二人組で、何やら会話をしながらこちらには気づかず通過していく。


「この辺らしいぞ」

「白髪の若い男だったな」

「ああ。シラミ潰しに行こう」


 その時偶然会話が耳に入った。

 ヤバい。完全に手が回っているじゃないか。

 とりあえず僕は衛兵に見つからないようその場を後にした。


「もう夕暮れか・・・・・・」


 日が沈みかけた街並みは誰もが家路を急いでいる。人通りも少なくなった。

 今日は失敗だ。

 僕は肩を落として宿屋へ帰る。

 まさかこんなにナンパというものが難しいとは。少し考えが甘かった。

 もう少し強引に行くべきだったのだろうか。

 経験は積んだけど、まだ全然どうすれば良かったのか分からず終いだ。

 僕は肩を落とし、宿屋へと帰るのだった。 




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