第041話 「街でナンパ」
(ロジャー視点)
僕は今、ウェストリコの噴水広場に一人で来ている。
目的はナンパだ。ナンパという言葉は、これで使い方が合っているのか分からない。でもそういう事をしにここへ来た。
ケイオスが今日は何か用事があるらしいから、師匠から頼まれた依頼は明日取り掛かる。つまり今日のこの午後一杯は自由時間だ。
師匠が女性に慣れろと命令したのだから、僕はそうしようと思ったんだ。
とにかく話しかけてみようと思うんだけど・・・・・・意識すると緊張するなぁ。
えぇい! 勢いで行こう!
「あの、ちょっとすみません!」
僕は道行くお姉さんに声を掛けた。
「え? あ、はい? 何ですか?」
「愛してます! 交際してください!」
「は?! あたし既婚者ですけど?」
お姉さんは驚いてから苛ついたような顔をして、行ってしまった。
あぁ。一発目からこれか。僕は落ち込んだ。
「でも、師匠の命令通りやるんだ」
僕は一発目の覚悟をキメた。
後はこれを継続するだけだ。全力で女性に慣れるんだ。その為なら何度でも覚悟をキメてやるぞ。
大切なのはとにかくチャレンジする事だ。
何事も試行錯誤を繰り返すのが、一番正解への近道だと、師匠の蔵書にも書いてあった。
今のはきっと運が悪かっただけだ。結婚している人じゃ仕方が無い。
やり方自体は間違っていなかったと思う。この方向性で良いはずだ。
じゃあ次、行ってみよう。
「あの!ちょっとすみません!」
「キャッ!何?!何なの?」
「あぁごめんなさい、ビックリさせちゃいました」
今度はもう少し若そうな娘さんに声を掛けた。
ちょっと失敗しちゃった。声を張り過ぎて驚かれちゃったかな。
でも僕はめげずに話す。
「結婚、されてますか?」
「はい?!」
「結婚してるんですかしてないんですか? どっちですか?」
「えぇ・・・・・・? してないですけど」
「愛してます。僕と交際して下さい!」
「イヤッ!」
娘さんは走って逃げて行ってしまった。
えぇ・・・・・・ちょっと傷ついた。いくら何でも話くらい聞いて欲しかった。
僕は暫く呆然としたが、我に返って冷静になった。
いやいやまだたったの二度目じゃないか。この程度じゃ挫けないぞ。前向きに考えるんだ。
とりあえず今の失敗は、一体どこが悪かったんだろう? 失敗から学ぶのはどんな修練でも大切な事だ。
今の女性は結婚していないと確認した。第一段階はクリアしている。
その上でまず愛してますという言葉が間違っているとは思えないから、これは外さない方が良いだろう。
ここまでが正しいとすると、交際して下さいというのがまずい台詞なのではないか?
もしかしたら相手方の事情を鑑みる事無く踏み込み過ぎていて、厚かましいイメージを抱かれてしまうのかも知れない。
そうなってくると、交際という状態より前段階の言葉を使う必要があるのかな。
う~ん。僕は頭を捻って考えた。
よし、当たり障り無い台詞が浮かんだぞ。
じゃあ次、行ってみよう。
「すみませんそこの娘さん」
「・・・・・・」
可愛い少女に声を掛けた。今度は控え目に優しく声を掛けた。
おかしいな。少女は訝し気な顔をして、無言でこちらを見ている。
何か警戒されてる? いや、怖気づいちゃ駄目だ。
「愛してます。僕とつき合い始めて下さいませんか?」
「キモい」
「え?」
「衛兵呼ぶよ?」
「えぇ?! 何故ですか?!」
フン! と鼻を鳴らして少女は去って行った。
くっ・・・・・・! 今のは中々心に来るものがあったぞ。
何でなんだろう。静かな口調で冷静にキモいと言われるのが、こんなに辛いなんて初めて知った。うう。辛過ぎる。
しかし、これも試練だ。
失敗から学ぶ。失敗から学ぶんだ。
あの少女は流石に結婚していない年齢だと見て、そこを聞くのは止めた。これは正しい判断だっただろう。
その次だ。
愛してます、という台詞は正しいはず。
だけど、ちょっと気取っているように聞こえる言い方でもある。ここがキモいと言われた原因なのかな。
もっと軽く言った方が良いのかも。何か良い言い回しがあれば。
ああ! あった! あったぞもっとシンプルなのが。どうして気づかなかったんだろう。
よし、次こそは大丈夫だ。
丁度前方に綺麗なお姉さんが居る。行ってみよう。
「あのー、ちょっといいですか?」
「はい?」
お姉さんが振り返った。美人だ。年は二十代前半位に見える。よし。
「好きです。少々つき合って下さいませんか」
「・・・・・・は? あの、あなたどなた? 会った事あるかしら?」
おぉ! 落ち着いた感じの良い人だ! これはイケるかも!
初めて第一声で振られなかったぞ。僕は確かな手応えを感じながら会話を続ける。
「ああ、申し遅れました。僕はロジャーといいます。ここへは来たばかりで、右も左も分からない新参者です。貴女とは初対面だと思います」
「はい? それで、何なんです?」
この人は僕の話を聞いてくれる! 僕はそれだけで嬉しかった。
「そんな時、貴女を一目見て好きになりました。僕とつき合って下さい」
「え。ちょっと何言ってるかよく分からないんですけど?」
おかしいな。よく聞こえなかったのだろうか?
「もっと近づいて話せば良かったですかね?」
僕が距離を詰めると、お姉さんは後ずさった。
「あの、ちょっと! 近づかないで!人を呼びますよ?」
「え、誰か呼ぶんですか? でしたらどうぞ。待ってますね」
何故か分からないけど、誰か呼びたいらしい。僕は素直に待つ事にした。
「いや、貴方が変な事をしなければいいんですけど!」
「変な事? しませんよそんなの。僕は貴女を好きだと伝えているだけです」
「それが変な事だと言っているんです! 普通、初対面の人間にそんな事しないでしょう! 気持ち悪い!」
お姉さんが苛立ってきたので、僕は少し焦る。
「えっ? そういうものなんですか?!」
「当たり前でしょ!」
そ、そうだったのか。
「自分の気持ちを正直に伝えたらダメなのか・・・・・・」
僕は独り言ちた。
「そりゃあ、それで良い時もあるでしょうけど。初対面でそれは無いわ」
「良い時もあるんですか。それはいつです? いつなら良いんですか?」
僕はお姉さんに詰め寄った。
「ちょっ!近づかないでって言ってるでしょ! ずっとダメよ! このままじゃ未来永劫ダメ!」
「そんな・・・・・・じゃあどうすればいいんですか?」
「どうしてもダメよ! 貴方おかしいわ。気持ち悪い!」
また気持ち悪いだって。さっきも言ってたけど、具合が悪いのかな?
「先程から仰ってますけど、どこか具合でも悪いんですか? お身体は大丈夫です?」
「大丈夫じゃないわ! 近寄らないで! あっ、触らないでよっ!」
僕がちょっと触れた瞬間、お姉さんはその手を払い除けた。
「背中をさすろうとしただけです。気持ちが悪い時は、背中をさすると楽になるんですよ」
「気持ちが悪いってのはそういう意味じゃない! 次触ったら叫ぶから!」
これはまずかっただろうか。お姉さんは完全に気が立っている。
「落ち着いて下さい。興奮しないで。一体何にそんなに怯えてるんですか?」
「貴方によ! 話が要領を得ないわ!」
僕は成程と合点がいった。
「あー! ここは都会だからですかね? 僕は山育ちなので、言葉の言い回しがどこか間違っていたのかも知れません」
「そういう問題じゃない!」
違ったらしい。という事はこれで良いのか。
「そうですか。言い回しオッケーでした? いやー良かった。じゃあ問題ありませんよね。もう一度聞きますけど、つき合って頂けますよね?」
「どうしてよ?! そうはならないでしょ?!」
ん? 頭がこんがらがってきたぞ。良いのか悪いのか。
「話の流れがおかしいでしょ。何でそんなにグイグイ来れるの?!」
お姉さんが半ば取り乱してそう言うので、僕はにこやかに応えた。
「貴女とお近づきになりたいからです。前向きなのが僕の長所なんですよ」
「私は貴方から遠ざかりたいわ。もう失礼します!」
ツカツカ歩いて行ってしまうので、僕は後を追うようについて歩く。
「ちょっと待って下さい。もっと話をしましょう」
「嫌! ついて来ないで!」
僕は歩きながら謝罪する。
「何か手違いがあって貴女を怒らせてしまったようですけど、話せば分かりますから」
「話したけど分からないでしょう貴方! 頭がおかしいんじゃないのッ?! もうやめて! ああああッ!」
お姉さんが金切り声を上げ始めたので僕は狼狽した。あっという間に周囲の人々の注目が僕達に集まる。
お姉さんはしゃがみ込んで、頭を抱えて絶叫し始めた。
「ちょっ、ちょっと! どうしたんですか?!」
「もう嫌ぁぁぁ!」
こ、これってまずいんじゃないの。身体から汗が吹き出す。
尚もお姉さんが叫び続けそうだったので、僕は堪らず逃げ出した。
暫く走って細い路地に逃げ込んだ。人目を避けてから、ホッと胸を撫で下ろす。
「今のは何が悪かったんだろう。途中まで上手く行ってたはずだけどなぁ」
考えたけど答えは出なかった。
だけどまぁ、まだ時間ならある。挫けずにチャレンジしていこう。
☆評価頂けましたら幸いです。




