第040話 「サブクエスト発生」
師匠は北のスティリア砦から北西方面の調査を、既に終えていると言った。
流星の如く空を駆け、感知術を駆使して虱潰しに回ったという。魔獣は北西方面に居ない、と師匠は言い切った。
「何にせよ今回の仕事は期限が無くて有るようなもんだ。急がんとな」
「無くて有る・・・・・・?」
「それがなあ。ウェストリコのお偉いさんが喚いてんだよ。遅くなって魔獣の被害が拡大した場合、そのツケは俺達に払わせるんだと」
「何ですかそのツケって。何をされるんです?」
「処刑だ。責任をとらされて首だよ首。北方部族の目につく場所に晒される手筈になっているらしいぜ。被害者の溜飲を少しでも下げるんだと」
その首が解雇を意味するものではない、と理解してロジャーは青ざめた。
「まぁ俺はやられる気は無いがな。そうなったら領主と戦うまでだ」
「やめて下さいそんな!」
「だからそうならんようにするんだろうが。頼むぞお前等」
結局これだ。師匠の持ってくる話はいつも危険と隣り合わせである。聞いてないですよそんな話、とぼやいたところで無駄なのだ。
ともあれ今後は師匠が北を調査するので、ロジャー達には北東方面を行くよう指示がなされた。
「北東にはよ、勢力に変化が無けりゃあウェンドリドって部族の村がある。そこで落ち合うとしよう」
師匠は地図を指し示してそう言った。
「攻撃されそうになったら魔物狩りだと言え。俺達は中立扱いだ」
魔物を退治してくれる存在は、どの勢力からも頼られている。争いが度々起こる危険地帯ではあるが、魔物狩りである事を伝えれば何とかなるはずだという。
「まあ最悪戦闘になったら腹を決めろ。理屈の通じねえ奴等には力だ」
結局最後は物騒な話になった。アーロンがそれに応える。
「それなら得意とするところだ。むしろ簡単で助かる」
師匠がニヤリと笑ってアーロンの方を見やった。
「フン。頼もしいじゃねーか。期待してんぞアーロン。お前等が来てくれたお陰で楽になりそうだ。助かるぜ」
師匠は機嫌良さそうに言った。
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今後の大まかな指示を終え解散の雰囲気になった時、師匠がロジャーを手招きして耳打ちした。
「なあ、ロジャー。それはそうと金は使ったか?」
「えっ?! あっ、はいっ! 使ったっていうか、無くなったっていうか・・・・・・」
ロジャーは狼狽えた。
「どうだった? 楽しんだか?」
師匠はニヤニヤして聞いてくるのだが返答に困る。
「い、いえ。実はそれが・・・・・・アーロンと酒場に行きました」
「おう。良いな。まずは景気付けに飲んだか」
「や、僕はお酒が飲めないので、アーロンだけ・・・・・・」
「何だつまらん。それで、その後は?」
ロジャーは言い辛くて俯いた。しかし聞かれた以上は答えなければならない。
「・・・・・・気が付いたら巾着が切られていました」
財布を盗まれた事を話した。
「あぁ~? どういう事だ?」
「今思えば怪しい女でした。酒場で近づいてきて、その」
色香にたぶらかされたとはどうにも説明し難い。
「なるほど。どうせ色仕掛けにかかったんだろ」
「何で分かるんですか?!」
「マジか! 当たり? 弱いねーお前は!」
師匠はカマを掛けたようだ。それが当たってしまい笑っていた。
「・・・・・・その後は酒代も払えなくなっちゃって。深夜まで皿洗いをしてました。今は泊っている所の宿代も無くて困ってます」
「はははは! そりゃ酷ぇ。どれ、しょうがねぇな」
師匠は懐から財布袋を出すと、中から金貨を取り出した。
「ほれ。また十枚くれてやる。持ってけ」
「ええっ! これは! あの・・・・・・良いんですか?」
ロジャーは心底驚いて困惑した。
まさか師匠が追加でお金をくれるなどとは、思いもしなかったのだ。
「無駄遣いしろとは言わん。だがお前はもう少し女に慣れろ。これは師匠命令だ。分かるな? 一発キメてこい」
「えっと・・・・・・はい!」
きつく叱られるかと思っていたのに許されたので、ロジャーは感動して肝に銘じた。
(師匠の言いつけ通り、しっかり女の人に慣れなきゃ。よし、覚悟をキメるぞ!)
心の中で誓う。
「そうだ、丁度良い。その金をやる代わりに、やってもらいたい仕事がある」
師匠が懐から依頼書を取り出して、ロジャーに渡した。
「この依頼を片付けてくれねぇか」
ロジャーは依頼書に素早く黙読で目を通す。
依頼主:サイモン・アーチドロワ・ゴルドローテ・デ・スティリア・ウェストリコ。
ウェストリコ公爵家の四男である。彼は美術品を収集する好事家で、とある絵を買ってから怪奇現象に苛まれていると書かれている。
夜な夜な悪夢にうなされ、使用人達が廊下で足音を聞いたという。中には幽霊を見たと言い出す者も居た。
その内おかしくなってしまう者も出始め、次々と使用人達に暇を出した。今は人がほとんど居なくなってしまい、この貴族も病床に伏せているらしかった。
依頼はこの現象の解決を望んだ内容となっている。
「俺がここに泊まっているって、どうやって調べたんだか。まあ面倒な野郎だよ。忙しい時にどうしようかと思っていたんだ。お前等に頼むぜ」
今は魔獣の探索調査でそれどころではないのだが、ウェストリコで数日待つ間に使者がやってきて、師匠の元に依頼書を置いていったのだそうだ。
「俺はもうコイツの相手はしたくないんだ。やたら細けぇーんだよ。俺は押し問答をしていると気分が悪くなってくるんだ」
師匠は依頼主と古くから関係があり、そして性格が合わないのだという。
ウェストリコ公爵家はここスティリア地方を治める大貴族であり、今後の事を考えると断り辛い。
ロジャー達にやらせるのは妙案だと師匠は考えたようだ。
するとそれまで黙っていたケイオスがロジャーに言う。
「すまない、ロジャー君。私は今日は駄目だ。済ませたい用事がある」
「え、じゃあ・・・・・・仕方無いな。今日は僕達だけで当たってみるよ」
師匠が、んん? と口を挟んだ。
「それは困るぞケイオス。その依頼は、魔法使いのお前が適任なんだ。お前が今日都合が悪いというなら、明日お前が行けるようになってから一緒に行ってやってくれ」
「アイザック師、今の私では付いて行っても足手まといになりそうだが?」
ケイオスが反論すると、師匠は眉間に皺を寄せて言い返す。
「ロジャーには、まだ霊体を攻撃する技を教えてねーんだよ。魔法攻撃できるヤツが居ないと駄目だ。その依頼は急ぎだが、明日取り掛かってくれればそれで良い
ロジャーは思った。師匠はまだケイオスが役立たずである事を知らないのだ。強力な魔法使いだと思っているのだろう。
「師匠。あの、実はケイオスは薬を使っておりまして。今は何の力も出せないんですよ」
「何? どういう意味だ?」
ロジャーが師匠に説明しようとすると、ケイオスがそれを手で制した。
「待ちたまえ。今、霊体と仰せられたか? 詳しく内容を聞かせてくれ。私の魔術でどうにか出来そうだ」
急に自信溢れる口調になったケイオスに、ロジャーは少々驚いた。
「でもケイオス、さっき足手まといになりそうって」
依頼書を手に取って暫し黙読したケイオスは顔を上げて言う。
「これなら私の得意分野だ。任せて頂こう」
不敵な笑みを浮かべている。
ロジャーとアーロンは怪訝そうに顔を見合わせた。




