第039話 「師匠との再会」
憂鬱な朝だった。
ロジャーはあまり眠れない夜を過ごし、早朝からアーロンとケイオスの部屋を訪れていた。駄目元でケイオスに金の普請をしてみる。
ところがというかやはり、ケイオスは金銭を一切持っていなかった。
「生憎だが所持していない。この旅に参加する時点で、薬の材料を買うのに手持ちは全部使ってしまったからな」
「これからどうしよう・・・・・・もうここの宿代も払えないよ。何とかしてお金を用意しないと・・・・・・」
ロジャーが嘆く。しかしこの場の誰にも解決策などありはしない。
「何だ、こんな時間に三人で集まって。何をしとるんだね?」
沈黙を破って現れたのはコネリーだった。たまたま彼の部屋はすぐ目の前で、早朝から声がするので気になって出てきたのだ。
ロジャーはこの際、商人であるコネリーなら頼めるかも知れないと考えて話をしてみた。事の次第を話し、なんとかお金を貸してもらえないかと相談する。
「ありゃ~。タイミング悪いな。昨日商品の仕入れに使っちまったばかりだわい。自分の宿代しか残ってないぞ」
運が悪かった。すっかり手詰まりとなり、ロジャーは頭を抱える。
「夜遊びした上、財布を盗難に合った大失態は君達に責任があるんだからな!」
ケイオスが文句を言う。
彼は空き時間に錬金術の研究を続けており、他に時間を割きたくなかったのだ。
君達二人でどうにかするべきだ、などとブツブツ言い続けている。
ロジャーは考えた。
今日は師匠と会う日だ。正直に相談したらどうなるか。
師匠はウェストリコにどれくらい前に着いたのだろうか。まず出会うなり遅いと叱責を受けそうだ。陰鬱な気分になる。
こんな状況でお金まで無くしましたとは報告したくない。何に使っても良いとは言われていたが、全部無くしましたとは。
だが、黙っていてもいずれ事態は露呈するだろう。
金額が金額だけにうやむやには出来まい。
後になって事が明るみに出た場合、非常に宜しくない。この件の報告をしない分罪状が増え、量刑が重くなりそうである。
そもそもそんな本で読んだ裁判みたいに、公正な判断の師匠ではない。感情次第ではメッチャクチャにされる。もみくちゃのボッコボコにされるだろう。
それでも正直に相談するか? ロジャーは呻いた。
「ダメだ・・・・・・言っても言わなくても殺される」
いっそ逃げてしまいたかった。一瞬、本気で考える。
いや、仙術流派の感知術、追跡術から逃れる事は難しいだろう。まだロジャーが知らない技も沢山ある。
逃走して捕まった場合は、考えたくも無い。
「仕方が無い。師匠に報告して助けを乞おう」
どっちみち、もはや処刑台に立たされているようなものだ。正直でいれば地獄の裁判官にも慈悲はあるかも知れない。
ロジャーは一縷の望みに賭けてみる事にした。
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冬の朝は日の出が遅い。明るくなるのを待ってから、ロジャーとアーロンは不満を言い続けるケイオスを連れて外へ出た。
冷え込みがきつく人通りの少ない通りを抜け、街の入り口付近にある大きな宿屋へと向かう。ここに師匠が居るはずだ。
「頼むよ二人共。師匠は暴力が服を着て歩いているような人だから、お行儀良くしていてね」
ロジャーは二人に、機嫌を損ねたら身の安全は保障しかねるからね、としつこいくらいに言い聞かせた。特にケイオスは危ないと判断しての事だ。
「失敬だな君は。目上の人物への礼儀くらいは心得ているよ」
一番心配なのに限ってまともそうな事を言う。ロジャーは顔を顰める。
不安だが腹を決めるしかない。宿屋のドアを開けて中に入った。
カウンターの店主に待ち合わせだと告げ、台帳で師匠の泊っている部屋を教えてもらってそこへ向かう。
師匠の部屋をノックすると、しばらくしてドアが開いた。
「遅かったじゃねえか! 待ちくたびれたぜ! ・・・・・・まあ、入れよ!」
ロジャーはその声だけで肩がビクッとした。
久しぶりに再会した師匠は変わりなく元気そうだ。
「長旅だからな。徒歩じゃ多少の遅れも仕方がねえ。良しとしよう」
部屋に入ると適当な所に座れと師匠に指示されて、三人はベッドを椅子替わりにそこへ座った。師匠は椅子と机を引きずって持って来て、三人の前に座る。
「あー、座ったままで良いぜ。俺は仙術流派の魔物狩り、アイザックだ。えぇと、そっちの二人の名を聞こうか」
「鬼神一刀流アーロン」
「フム。で、そっちは?」
「闇流派ケイオス・アインドルフ・ルノーゼスファウンゼン・フォン・ジュノーシュタット・リヒテンハイドだ」
「あー? 何だ?」
「ケイオス・アインドルフ・ルノーゼスファウンゼン・・・・・・」
「はあ?」
「・・・・・・ケイオス。ケイオスだ。宜しく」
「おう、宜しくなケイオス」
ロジャーはそのやりとりをハラハラしながら見守っていた。




