表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドーンオブスレイヤー  作者: チュン
一章:魔獣討伐の旅
38/94

第038話 「理想の娘」

 しばらくすると次々料理が運ばれてきた。

 何せ軍資金なら使い切れない程にある。空腹だった二人はカウンターに乗りきらない程の料理を注文してしまっていた。

 

「こりゃあ手狭だな。やり過ぎたか」


 大都市であるウェストリコには、ここでしか食べられない料理が沢山ある。ついつい注文をし過ぎてしまったようだ。

 丁度テーブル席に空席が出来たのを店員に薦められ、二人は四人掛けの丸テーブル席に移動する事になった。


「ねえ、そろそろ例の場所を聞かないと」

「おぉ。そうだな。じゃあちょっと聞き込みをしてくらあ。ついでに厠へも行ってくるから、少し待っててくれ」


 すっかり当初の目的を忘れていたのを思い出した。ここへは娼館の場所を聞き込みに来たのだ。移動する為、席を立ったついでにアーロンは聞き込みに行った。

 ロジャーが独り席に残される。もうほとんどお腹が一杯でする事も無く、手持ち無沙汰だが待つしかない。

 そうして暇を持て余していると、突然後ろから声を掛けられた。


「おにーいさん♪ 一緒に飲みましょうよぉ」


 ロジャーが振り向くと女が背後から椅子越しに抱き着いてきた。

 その勢いのまま、ほっぺたに軽くキスしてくる。ロジャーはうわずった声を上げた。


「うわっ! 何?」

「あはは! 初心うぶね! かっわいー!」


 美しい小柄な娘であった。

 褐色の肌をしていてスレンダーな体型。黒髪は短く綺麗に切り揃えている。服装は簡素な麻の服。酒場の店内は暖かいから良いが、冬の季節にしては随分と薄着だった。

 膝上がよく出た服装で、日焼けした健康的な脚を強調するかのようだ。なんともエキゾチックな艶がある。南方の出だろうか。

 身長の低い事も相まってかなり若く見える。ロジャーの好みのタイプだ。

 その娘は隣の椅子に座り、ロジャーの左腕に腕を回して密着してきた。


「ね、おにーさん童貞?」

「な、な、なんなの君は?! いきなり・・・・・・」


 ロジャーは顔が真っ赤になった。

 思わず右側にる。しかし腕にしっかりと抱きつかれているので、ピッタリとくっつかれたままだ。

 娘はしなやかな身体を押し付けて離れない。


「アタシが良い事してあげよっか?」


 思いっきり顔を近づけてきたのでロジャーは狼狽した。

 

「わっ! ちょ、ちょっと!」


 そのまま数秒経過する。


「あれ? やっぱり迷惑だった? ごめんなさいね」


 すると、娘は腕を放し席を立って去って行った。

 何とか立ち直ったロジャーが周りを見回すが、娘の姿はもう無い。


「何、今の・・・・・・」


 放心していたらアーロンが戻って来た。


「聞いてきたぜ。ここを出てすぐにあるってよ・・・・・・おい、どうした?」

「いや、今凄く可愛い娘が居たんだ・・・・・・」


 間違いなくロジャーにとってタイプの娘だった。

 肌の色は白い方が好きだと考えていたが、たった今の出来事で価値観が変わる程にロジャーは惹かれていた。

 褐色の小柄な美少女。新たな属性がロジャーの性癖に追加された。


「あの娘はどこに行ったんだろう? 僕、あの娘が良いな・・・・・・」

「おい、しっかりしろ。幻でも見たのか?」


 ロジャーは立ち上がって尚も見回すが、やはり酒場の中に先程の美しい娘の姿は見つからなかった。


「まあお前好みの娘はこれから探せばいいさ。もういい、ここを出ようぜ」


 アーロンに促されて食べきれない料理に別れを告げ、会計を払いに席を立つ。

 ロジャーが腰の巾着袋からお金を取り出そうとして手をやるが、そこにある筈の感触が無かった。


「えっ? あれ? あれ?」


 見れば巾着の紐が切られていた。袋ごと無い。

 慌てて体の色んな所をはたいたが、無駄である。

 完全にやられた。有り金全部を持って行かれたのだ。



□■□■□■□■□■□■□■□■



 それから二人は酒場で皿洗いをする羽目になった。

 散々飲み食いした金額はそれで帳消しにならない額であったが、無一文となってしまった二人を店主が憐れみ、それで許してくれた。

 仕事が終わったのは深夜である。

 二人はペコペコと頭を下げ、酒場の店主に気の毒がられながら、閉店後の真っ暗な酒場を後にした。

 

「あーあ、最悪だぜ!」


 冷え切った夜道でアーロンが悪態をつく。


「注意しておくべきだったな。街には手癖の悪い連中が多いって聞いた事はあったけどよ・・・・・・まさかやられるとはな」

「あの娘、凄く可愛かった。ああ・・・・・・」


 ロジャーは落胆していたが、思い返すと惜しむように言った。


「まだそんな事言ってるのか? 騙されたんだぞお前は! 次に会ったら取っ捕まえてやれよ!」

「うん・・・・・・もう一度会いたい」


 その様子を見てアーロンはダメだこりゃ、とばかり額に手を当てた。


「とにかくこれからどうするか、だな」

「どうしよう。もう今泊っている所の宿代も払えないよ」

 

 冬の夜気が二人の身に染みる。頭を抱え込みたくなる状況であった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ