第037話 「浮かれ過ぎている」
二人は酒場のカウンター席に座っている。
まずは酒場で一杯やって温まり、そこで娼館が何処に在るか聞こうというのだ。
酒を飲む習慣の無いロジャーにしてみれば酒場に行くのは気が進まなかったが、情報収集は酒場で行うのが早いとアーロンが言うのでついて行った。
「おっ、酒が来たぞ。まずは乾杯だ」
給仕娘が飲み物を持ってきた。アーロンはエール酒だったが、ロジャーはただの水で形だけ乾杯につき合う。
「アーロン、聞かなくて良いの?」
「バカお前、この娘に聞けってのか? 変な顔されるぞ。ほれ、乾杯だ、乾杯」
それはもっともである。ロジャーは顔を赤くした。
「浮かれ過ぎだぞお前。周りも見えてねえ」
「うっ、浮かれてないよ!」
完全に浮かれていた。今夜どんな大冒険が待っているのかと思うと、期待が膨らみ過ぎて、酒も飲んでないのに酔ったようになっている。
ロジャーは水を飲んで気を紛らわそうとしたが、気管に入ってむせた。
「ゴホッ! ゴホッ!」
「あーもう。この童貞野郎。ちょっとは落ち着け」
辺り一面ビシャビシャである。
アーロンが懐から布切れを出して渡した。ロジャーはそれでカウンターを拭く。
この布は彼が剣を拭く為に持ち歩いている物だ。拭き終えてロジャーは礼を言いながらそれを返した。
「ゴメンありがとう」
「要らねえよそんなの。使い捨てだ」
布切れは雑貨屋に行けばいくらでも手に入る。わざわざ使用後の物を取っておく必要は無い。
コイツ完全に舞い上がってるな、とアーロンは少し呆れていた。
「ゴメンね。あー、ダメだ。ちょっとおかしいよ僕。楽しみ過ぎる。・・・・・・娼館ってどんなんかな?」
「どんな所かって、俺もまだ行ったこたあねえからな。人に聞いた知識だけだ。まあでも、やる事は一緒だろ」
アーロンも街に出たのはこれが初めてだ。性の経験はある彼とて、実はまだ見ぬ魅惑の世界を期待している。
二人は胸中に思い描く夢を語り合った。
ロジャーの願望は割と普通であった。初心者であるから当然である。だがアーロンは折角ならいつもやらない事をしたいと熱く語った。
「ええっ、それ汚くないの?」
「知らないのか。すげえ良いらしいぜ。最初に沐浴するって聞いた事があるから、そこで洗っとけば問題ないだろ。お前もやってもらえばどうだ?」
「出来ない。僕には出来ないよそんな!」
「じゃあ普通で良いだろ。俺はやってもらうけどな」
そこへ給仕娘が料理を運んできた。
「えー! 僕も舐めてもらいたい! やってもらいたいよ!」
「あっ、おいちょっと黙れ!」
アーロンがロジャーの口を手で塞いだが遅かった。
給仕娘は眉をひそめながら料理を置き、足早に去って行った。
「チッ! 聞かれたぞ今のは。完全に変に思われただろうが!」
タイミングが悪い。
「お前なあ、頼むぜマジで」
「ゴ、ゴメン」
給仕娘にはアーロンの予想よりも悪い勘違いをされたのだが、本人はそれに気づかなかった。




