第034話 「素晴しい仲間」
「う・・・・・・ここは・・・・・・ここはどこだ・・・・・・」
「ここはウェストリコに向かう荷馬車の中だよ」
アーロンが目を覚ましたので、ロジャーはそう答えた。
「うぐッ! げぇっ! がはっ! 何だこりゃあ! 何を飲ませたッ?!」
アーロンは車内で吐き出した。相当に薬が効いたらしい。
鬼の類は毒に強い耐性を持つと学んだ事があるが、ケイオス特製のフィーバーポーションはその上をいく効力があるのだろう。
「ぐあああ! 酒だ! 酒を持って来い!」
水ならまだ分かるが、この期に及んで酒を欲するのだからよっぽどである。
「まだそんな事を言っているの? ここには無いよ、そんな物」
ロジャーは冷たく言い放った。
「アーロン。もう厳しい任務に戻る時が来たんだ。思い出して」
僕らは飢餓状態で山を歩き回っただろう、とあの時を思い出させる。
「もうシェナビアは遠く離れたんだよ。現実に戻るんだ」
シェナビアの街を出発してから既に丸一日が経過していた。
「ンンーッ! ンーッ!」
アーロンと一緒に縄で縛ってあったケイオスが騒ぎ出した。
「縄を解いて欲しい? 二度と任務を忘れないと約束したら解いてあげるよ」
「分かった! 分かったから! 頼む! 胃が焼けるように熱い! 水をくれ!」
「ンーッ! ンンーッ!」
「・・・・・・駄目だね。もっと反省するんだ」
ロジャーはすぐに縄を解かなかった。
縄はコネリーが持っていた特製のアラクネ縄で、アーロンの力を持ってしても引き千切る事は不可能であった。
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昼の間は荷馬車が進むに任せ、夜が来て野営する時になってやっと二人は解放された。
普段は大人しい奴を怒らせると怖い。身に染みた二人は態度を改めた。
「はぁ、はぁ、まだ胃がおかしい」
大分時間が経ってもアーロンはまだ辛そうにしている。
ロジャーはそれを見て、流石にちょっとやり過ぎたかな、と少し心配になった。
するとコネリーがアーロンに薬を渡す。
「辛そうだなァ。この薬を飲んでみな。楽になるよォ~」
コネリーは錬金術の熟練者で、こういった薬を作るのは得意技だという。
アーロンは助かったとばかりにそれを飲んだ。
しばらくするとすっかり調子が良くなったようだった。
「おお! 本当に楽になったぜ! 恩に着るぞ爺さん」
それを見てケイオスが驚嘆する。
「やるじゃないかご老人。あのフィーバーポーションの反動を抑え込むとは、大した腕だ。素晴らしい。是非その薬のレシピを知りたいものだ」
「へへっ。ワシの錬金術は死んだ奴でも蘇らせた事があるんだぜぇ。ちょっとした腹痛ぐれえ一発で治せるさ、ヒェヒェヒェ!」
嘘か真か判らない事を言いながら笑う。コネリーは持ち上げられて得意気だ。
この二人は今後良い研究仲間になれそうである。
ロジャーもコネリーを頼もしく思った。もしかしたら良い人と仲間になれたのかも知れない。
その後、皆で夕食を取った。
ロジャーが夕食の後、コネリーに訊ねる。
「後どのくらい行くとウェストリコに着きますかね?」
「そうさなァ。もう二、三日ってとこだァ。明日はもうちょっとブッ飛ばしていくかァ!」
確かに道は平坦であるし荷馬車で移動出来るので、これまでとは格段に楽な旅路だ。これならもうすぐだとロジャーは安心した。
ところで先程から気になっているのだが、コネリーはどうも何だか様子が変だ。
元々、こんな明るさの突き抜けたような人だっただろうか? まるで酒に酔ったような話し方だ。
「コネリーさん、酔ってます?」
「あァ? いんやァ? 酔っちゃあいねぇよ?」
完全に返答が酔っ払いのそれである。
おかしい。今回は用心して水は大量に持って来たが、逆に酒は一切積み込まないよう注意を払ったのだ。
アーロンがあまりにも酒浸りだったので、酒の気を断つ事を第一に強く決めたはずだった。
だが思い返してみると、コネリーは夕食前からずっと酔っ払ったような感じだった気がする。
「あのー、コネリーさん。何か隠している事ってありません?」
「あー、これ使ってるからかなァ? 自作のハッピーポーションだァ」
ロジャーが訝しんでいるとコネリーは小さな薬瓶を取り出した。
「何ですこれは?!」
「コイツを飲めば百歳のジジイだってギンギンだァ! ヒャヒャヒャ!」
コネリーは完全にキマッており、妙なダンスを踊り始めた。
「酒より悪いわ!!」
ロジャーは薬を取り上げて捨てた。
「ああっ! ワシの傑作を! 何すんじゃあ!」
もしかしたらこのパーティにはろくな人間が居ないのかも知れない。少年は暗鬱たる気持ちになった。




