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ドーンオブスレイヤー  作者: チュン
一章:魔獣討伐の旅
33/94

第033話 「堕落と成長」

 あれから二日間が経過していた。

 その間アーロンはどんどん人気者になった。この街に残ってくれと言う声もチラホラ聞こえてくるくらいだ。


「はぁ。全く・・・・・・!」


 ロジャーは憤懣やるかたない様子でため息をつく。

 戦いが始まったら空を飛んで逃げただとか揶揄されて、居心地の悪い思いをしていた。

 臆病過ぎて空を飛んだとか、あんな小さいのが魔物狩りだと言い張っているだけ健気で可愛いだとか、色々と屈辱的な事を言われている。

 だがそれはまあ良しとしよう、と彼は考える。そんな事に憤っているのではない。

 ロジャー達には任務があり、その行程は既に遅れているのだ。

 だというのに。


「ガハハハ! もっと酒もってこーい!」


 すっかり居心地の良くなったアーロンは昼間から酒場に入り浸り、民衆から無料タダ酒を振る舞われて有頂天である。

 多少の傍若無人な振る舞いは英雄だからという事で全て許されるし、精悍な顔立ちとたくましい肉体の彼は若い娘にモテモテであった。


「アーロン! ちょっと! 僕等は任務があるんだからね! 明日にはここを出よう!」

「あぁ~? 分かってるよ!」


 ロジャーがうるさく文句を言っても、女の子を片手に抱いたままイチャつくばかりである。


「ちょっとー! 今お尻触ったでしょ~! 嫌だもう~!」

「良い触り心地だ。俺の部屋に来いよ。ガハハハ!」


 その娘もイヤ~ンとか言いながらまんざらでもない様子だ。あははうふふとロジャーには刺激が強い光景を繰り広げている。

 こちらの言う事を聞いているのか聞いていないのか。全く話にならない。

 ロジャーはケイオスの様子も見に行ったが、こっちはこっちで問題だった。

 部屋に篭って鍵を掛け、全く外に出てこようとしないのである。

 ノックすると錬金術をやっているらしく、忙しいから放っておいてくれとの事だった。

 改めてこのマイペースな我儘さには辟易させられる。

 


□■□■□■□■□■□■□■□■



 それからまた一日が経過したが、事態は何の進展も無かった。アーロンは飲みっ放し、ケイオスは篭りっ放しである。


「ケイオス? ご飯ちゃんと食べてるの? ここに置くからね」


 小さく返事がしたような気がする。

 ロジャーは心配してドアの前に食事を置いた。

 しばらく後に部屋の前に行くと、空になった食器が出されていた。


「・・・・・・」


 それにしてもケイオスはともかく、アーロンはあんなに飲んで大丈夫なのだろうか?

 ロジャーの見た感じ、ほとんど寝ずに飲み続けているのではないかと思われた。

 酒を飲んで女遊びをし、少し寝てまた酒を飲んでいる。

 酒場はアーロンだけ特別扱いし、いつでも酒を出す。

 ガデスを倒してくれた事を感謝する住人が、酒場にお金を払っているのである。 

 大勢から集まったお金は予想されるより遥かに多く、酒場の店主は儲かって仕方が無い。

 とまあそんな風なので、アーロンがどんどん増長していく。酷い悪循環であった。


「ガハハハ! もうここでやっちゃうかぁ! ガハハハ!」

「イヤァンバカァもぅ! エッチィ! 部屋まで待ってよキャハハハ!」


 ロジャーは憤慨した。

 思うに、この街の住人にも責任があったのではないだろうか?

 感謝するのは良いがこれほどにもてなしては、どんなに聡明な者でも堕落してダメ人間になってしまうのは当たり前なのではないか?

 もしかしたらあのガデスとて、元は悪人ではなかったのかも知れない。

 それは少し飛躍した考え方ではあったが、当たらずとも遠からずな気がした。


「このままじゃダメだ。僕が何とかしないと!」



□■□■□■□■□■□■□■□■



 次の日。

 ロジャーはついに引き籠りのケイオスを部屋から引きずり出した。

 街の鍛冶屋に頼んで鉄の棒を加工してもらい、尖らせた先端を戸の隙間に突っ込んでテコの要領でドアを破壊したのだ。


「ああっ! 私の研究に触るな! ヤメロォ! 触るなァァ! うわあああ!」

「ケイオス! これはお前の為なんだ! いつまでもここに居ちゃダメなんだよ!」


 その惨状は見苦しい事この上無かった。

 宿中の者が様子を見張る中、赤っ恥をかきながらロジャーはケイオスをふん縛って表に出した。


「さて、次は・・・・・・」


 その後、ロジャーは酒場に向かう。

 酒場ではアーロンが相変わらずご無体むたいな行為を繰り返していた。

 ロジャーはアーロンに近づくと、酒の入った盃にケイオスから奪ったフィーバーポーションをコッソリと危険な量入れた。

 そしてそっとその場を去る。

 数刻後アーロンが倒れたとの知らせが入った。

 介抱するからと街の住人の力を借りて、四人掛かりでアーロンを荷車に乗せて移動した。

 移動した先は、町外れにあるコネリーの荷馬車である。

 既に縛ったケイオスは先刻積み込んである。


「皆さんここまでありがとうございました! アーロンは重体です! 恐らく酒の飲み過ぎでしょう! 急ぎウェストリコに向かい、医者に見せる事にします!」


 シェナビアにも医者は居る。住人達がそれなら診療所へと声を上げたが、ロジャーはそれを遮った。


「万全を期す為、ウェストリコの最新医療で治します! ・・・・・・コネリーさん、出発してください」


 ロジャーは、ほとんどまくし立てるように大きな声を張り上げてそう言った。そうでもしないと街の住人が引き留めてくるのである。

 コネリーが返事をして荷馬車を発進させた。

 すると案の定、住人達が殺到して来る。


「アーロン様! 行かないで下さい!」

「待って! せめてもう少しだけでも!」


 どいて下さい! どいて! と馬車にすがりつく住人達をロジャーが馬車を降りて引きはがし、やっと馬車を動かせた程だった。

 ロジャーは走って動き出した馬車に飛び乗り、逃げるようにして街を出た。

 住人の目が無くなってから、ロジャーは縛ったケイオスとアーロンを背中合わせに縄でグルグル巻きにして、逃げられないようにした。


「ンーッ! ンンーッ!」


 猿轡をされたケイオスが何やら呻いている。


「ふう。やっと何とかなった」


 ロジャーは呻くケイオスを完全に黙殺した。時には荒療治も必要だ。

 少年は心を鬼にする事を学び、成長していく。 




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