第030話 「ガデス一家」
老人は名をコネリーと言った。齢五十七になるという。
この辺を行商して回る稼業を三十年続けてきたそうである。
「あいつ等は頭目が代わってから、悪党に成り下がったんでさあ」
さっきの守衛達はガデス一家といって、街の守衛をしてはいるがその実態はほとんどならず者と変わらず、恐れられているとの事だった。
以前はゴードンという男が頭目で、名もゴードン一家であった。その時は、今のように傍若無人な行いはしなかったという。
「この街はもうダメだぁ。あんな奴等が牛耳ってたんじゃあ、ここで商売は続けらんねぇやな」
コネリーはここ数年目を付けられて、事ある毎に金銭を要求されてきたらしい。
彼はもうこの街に見切りをつけ、ここで商売するのは辞めにすると言い出した。
「町外れにワシの荷馬車があるんだ。ここを出る時声を掛けてくれたら、あんた等を乗せて行くよ」
ロジャー達と話す内、ウェストリコに行く事を話すと、コネリーは同行を申し出てくれた。
コネリーにとっては良い護衛代わりになるだろうし、ロジャー達も歩くより馬車で移動した方が楽である。お互いに渡りに船だった。
「あんた等、宿はもう決めたかな? ワシの行きつけの宿は一階が酒場になっとるんだ。そこで飯も食えるぞ」
飯と聞くと全員が早くそこへ行きたがった。
コネリーの薦めにより宿に案内されたロジャー達は、そこで部屋を借りた。
「やっと飯にありつけるな!」
だが一階に降りると酒場はまだやっていなかった。
「お客さん、もうちょっと待っててくれよ。もうすぐ店開けっからさ」
厨房では料理をする店主が大忙しで仕込みをしている。そういう訳で、仕方無く各々二階に上がった。
あてがわれた部屋は清潔な良い部屋だった。
ベッドに横になると途端に猛烈な睡魔に襲われて、ロジャーは気を失うように眠ってしまった。
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どれくらい眠ったのだろう。ふと目を覚ますとすっかり夜だ。
これはいけない、飯を食いっ逸れる。
ロジャーは慌てて部屋を出て、他の二人の様子を見に行った。
するとケイオスは自室に居た。
「さっきアーロンと下に降りたよ。私は酒を飲むより研究がしたいんでね。食事だけもらって、こっちに持って来た。アーロンはまだ下に居るよ。行ってみると良い」
ケイオスが言うには、ロジャーは声を掛けても全く起きなかったのでそのままにしておいたのだという。
ロジャーはケイオスの部屋を出て、一階に降りていった。
ガヤガヤと喧騒が騒がしい。大勢の客で酒場はごった返している。昼間見た時の閑散とした感じから想像できない混雑の仕方だ。
辺りを見回すと四人掛けのテーブル席にアーロンが座っているのが見えたので、そちらに向かった。
「おぉ。起きたか。飲み物はカウンターで注文してきな」
テーブルの上には料理が所狭しと置かれていた。
アーロンは既に沢山食べているようだった。ロジャーの腹がグウッと鳴る。
急いでカウンターで水だけもらって戻った。
それからは食べまくった。限界まで飢餓状態だった身体は、いくらでも食物を必要とした。
肉や魚など旅の間はろくに食べられないので、何を食べても美味しく感じられる。
ロジャーはテーブルに並んでいた料理をほとんど平らげてしまった。
アーロンが俺のも残してくれよと言ったが、もう無きに等しい。すぐに追加の料理を注文する。
どうせ勘定は自分が払う事になるのだ。そう考えるとロジャーは躊躇なく片っ端から注文していった。
「うっ、流石に食べ過ぎたかな」
そうなるまで止まらなかった。アーロンが笑っている。ここまでほとんど会話もせず、夢中で食べていた。
「ごめんアーロン、ちょっと注文し過ぎたよ」
既にテーブルの上は追加の料理で一杯だ。
「牛肉ペンネグラタンおまち~!」
そう言っている間にも、給仕娘が追加の料理を運んで来る。ロジャーは困った顔をした。
「無理するな。後は俺が片付けておいてやる」
アーロンはそう言って笑う。彼は体格が大きいせいか、まだまだいけるようだった。ロジャーは苦笑いするしかなかった。
そうして視線を外した時、酒場にスケイルメイルを着た男達が入ってくるのが見えた。短槍で武装しており、物騒で酒場に似つかわしくない。
昼間、街の出入り口に居た守衛達だ。何やらカウンターで店主と話をしている。
店主がこちらを指さした。
守衛達がこちらを向き、目が合う。
するとドカドカと足音を立てて彼等がこちらにやって来た。
「おい魔物狩りの男! ちょっと顔を貸せ!」
店内が一瞬静かになった。皆が一斉に注目する。
何の用だと聞いてもただ表に出ろ、こっちへ来いと喧嘩腰だった。このままでは店の人や他の客に迷惑がかかる。
ロジャー達は守衛について、店の外に出て行った。その後ろを野次馬がついてくる。
訳が分からないけど大事になってきたぞと、ロジャーは嫌な顔をした。
店外には二十人くらいの武装した男達が待ち受けていた。
「何だ何だ?」
「あの男、何かやったのか?」
驚いた野次馬達がどよめくのが聞こえてくる。
大勢が固唾を飲んで見守っている中、三人の守衛が槍を構えてロジャー達に近づいてきた。昼間会った奴等である。
「お前等はガデス一家を侮辱した! 許しを乞うなら良し! さもなくば捕縛する!」




