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ドーンオブスレイヤー  作者: チュン
一章:魔獣討伐の旅
29/94

第029話 「守衛とコネリー」

 シェナビアは更に北にあるウェストリコという街までの、中継地点のような街である。

 元々は民家の点在するただの集落だったが、そこを往来する旅人や商人達が段々住み着いていった。

 茶屋が建ち宿が建ち、宿場町として栄え始め、そこに商店が増えていって大きな街となったのだ。

 ロジャー達はウェストリコで師匠と待ち合わせをしている。旅に遅れが出ているので、本来なら急ぎ北へ向かわねばならない。

 しかし今は三人共に疲れ果てていた。このシェナビアで少し滞在して休み、英気を養う必要がある。

 街に入る前から色々と話し合い、まずは宿を取って食事を取ろうなどと相談していた。

 街の入り口に着くと守衛が二人立っていた。スケイルアーマーを着て鉄兜を被り、鉄槍で武装している。

 守衛がこちらを睨んでくるので、ロジャーは魔物狩りの証を見せた。


魔物狩り(スレイヤー)か、珍しいな。フン、行け」


 ロジャー達は会釈してそこを通り過ぎようとした。

 すると何やら揉めている声がする。


「勘弁して下せぇよ旦那!」

「大きい声を出すなよ! なあ、俺達は友達だろ? それともお前は友達だと思っていなかったのか? 悲しいぞコネリー」


 その声に目をやると、老人が捕まっているのが見えた。

 街に入る前は見えなかった建物の影で、守衛が老人を捕まえている。

 老人は見た感じ、商人のようだった。ポケットがいくつもついたベストを着ており、肩掛けの大きなカバンを腰に下げていた。


「お前最近怪しげな薬を売りさばいて、荒稼ぎしているらしいじゃないか」

「いやいや! そんなに儲かっちゃいませんやな。これ以上絞られたらおまんまの食い上げだ」

「うるせぇ! 通行料だ、二十シルベン出せ! それで勘弁してやるよ」


 老人が胸倉をつかまれた。言う事を聞かなければ殴るつもりだろう。

 ロジャーは止めに入ろうかとも思ったが、今は全員が疲弊しきっている上に相手がこの街の守衛だ。老人には悪いが、厄介事に首を突っ込んでいる余裕は無い。

 もしかしたらあの老人にも悪いところがあって、ああして捕まっているのかも知れない。

 ロジャーは自分に都合良くそう考えて歩き始めた。


「なあ、通行料がかかるのか?俺達は払っていないぞ」


 ロジャーが振り返ると、アーロンが揉め事に加わっていた。


「あぁん? 何だテメエ! 見世物じゃねぇぞ!失せろ!」


 ゆすりを邪魔された守衛は怒りも顕に牙を剥く。


「いや、今通行料とか言っていただろ。おーいロジャー、通行料だってよ!」


 アーロンが呼ぶので仕方無くロジャーが駆けつけた。


「えぇと二十シルベンだと言っていたぞ。俺等三人分で六十シルベンって事だな。・・・・・・合ってるよな?」


 自分は計算が出来るんだぞ、と得意気な顔だった。

 彼は村長シゲンから、人間の里の決まりは遵守するようにと言い付かっているのだ。


(ああもう、何やってんの!)


 ロジャーは変に生真面目なこの男に苛立った。  

 お金はロジャーしか持っていないので、この旅の間の費用はロジャーが払うしか無い。

 面倒な事に首を突っ込んでくれたものだ。だがもうここで出さなければ確実にこじれると思ったロジャーは、財布袋から金貨を一枚取り出した。

 本来なら銀貨を出すべきだったが、金貨しか持っていないのだから仕方無い。

 旅の路銀にはかなり余裕があった。

 金銭感覚の壊れている師匠が、十ゴールドもの大金を気前良くくれたのである。しかもこのお金は何に使っても良いと師匠に許可をもらっていた。


「お前ももう大人だ。でっけえ街に行ったらよ、夜ちったあ外に出て、大人の店で羽を伸ばしてこいや」


 と師匠が言っていた。

 大人の店が何なのかロジャーには知る由も無かったが、とにかく自由に使って良いお金だ。ここで払ってしまっても問題は無いだろうと考えた。

 アーロンがその金貨を受け取って、守衛に差し出す。


「スマン、それで払うから釣りをくれ」


 ゴールドは庶民的感覚からすると、普段見るのも珍しい。守衛は驚いて目を丸くした。


「どうした? 早くしてくれ。俺達ゃあ腹が減ってるんだ」

「・・・・・・嫌がらせかこの野郎。ゴールドの釣銭なんて持ってねえよ」

 

 金貨を受け取らず、守衛が立ち上がって鉄槍を構える。


「もういい! 行け! 邪魔をするんじゃねえ!」


 騒ぎを聞きつけて後ろに居た二人の守衛も駆けつけてきた。


「おい! 何をやってる!」


 ロジャー達は三人の守衛に囲まれる形となった。

 何やらきな臭い雰囲気になってきた。ロジャーは顔をしかめ、これ以上揉めてくれるなと祈る。


「ん? 通行料は払わなくて良いのか? てか危ねえな。刃物を顔に向けんなよ」


 槍の刃先を無造作につかむアーロン。


「あっ、この野郎、離せ!」

 

 守衛は槍を引っ張ったが、まるで万力で挟んだように動かない。

 そうこうしている内にキィン! と金属音が響いて、槍の刃先が折れてしまった。


「あー! やっちまった。意外と脆いなコレ」


 アーロンは槍の刃先を地面に軽く投げた。少なくとも周りにはそう見えた。

 しかしドッ! という異様な音を立て、投げられた刃は踏み固められた地面に根元まで埋まってしまった。

 もうどうにも取り出せそうにない。

 周囲の全員が何という怪力だ、と目を丸くしてそれを見た。

 

「弁償するぜ。これで新しいのを買ってくれ」


 全員が呆気に取られる中、アーロンはそう言って金貨を再び差し出した。

 守衛は驚いて固まったままだ。


「あ、えーっと。これじゃあ多過ぎるのか? でも釣銭は無いんだよな? う~ん面倒臭ぇ。じゃあそこの爺さんの通行料も一緒に払うって事で」


 アーロンは金貨について非常にざっくりとした価値しか知らなかったが、それが大変高価である事は知っていた。だからこれで良いだろうと当たりをつけたのだ。


「通行料ってのは、俺達払わなくていいってさっき言ったな? じゃあ、ここを通っても良いよな?」


 そんなものは元より払わなくても良かったのだが、アーロンは馬鹿正直に信じて律儀りちぎに聞いた。


「ん? 何かおかしな事言ったか俺? これで良いんだよな?」


 守衛達は呆気に取られて固まっている。


「あ、ああ・・・・・・」

「よし、じゃあ行くぜ。お~いそこの爺さん、通してくれるってよ!」

「へ、へい! コイツはありがてえ!」


 老人は助かったとばかりに着いてきた。

 三人と老人は街へと入っていく。


「・・・・・・何者だ? アイツ等」


 金貨を受け取った守衛が呆然として呟いた。


「魔物狩りだってよ。良かったじゃないか、そのカネで新しい槍を買えよ。もう古くなってガタが来てただろ?」

「おい、新しいのを買ったとしても大分残るだろ。今日は皆で飲みに行こうぜ! もちろんお前の奢りで! ギャハハハ!」


 三人の守衛は臨時収入に舞い上がってしまい、ゲラゲラと談笑を続けた。

 そこへ大柄な男が顔を出す。

 鉄の鎧を着た巨漢だ。背には戦斧を背負い、角つきの鉄兜を被っている。


「おいテメェ等! 何だ? カネがどうとか言ったか?」

「ヒッ、お頭!」

「今、何があった? 隠したらブッ殺すぞ」

「は、はい。実は・・・・・・」


 三人の守衛は今起こった事を話した。

 その結果金貨は没収され、槍は中古の錆びた物を手渡された。研ぎ直しには骨が折れそうである。

 巨漢の男は地面にめり込んだ刃を見て唸る。


「大した力自慢のようだな。しかし、これくらいなら俺にも出来る」


 親指と人差し指で埋まった刃をつまみ、引っ張ってそれを引っこ抜いた。常人では不可能に見える芸当だった。とてつもない怪力だ。

 大きく振りかぶって刃を地面に投げつけると、ドッ! と先程と同じ深さまでそれは埋まった。

 フン! と満足そうに息をついてから、巨漢が声を張り上げた。


「野郎共! 俺達は舐められたら終わりだ。奴等を見つけ出せ。そしてカネを巻き上げて来い」


 三人は冷や汗をかいた。もし命令に背けばどうなるか分からない。


「死にたくなかったらな!」


 三人共慌てて駆け出した。あの魔物狩り達を見つけなければ酷い目に合う。どんな理由をつけてでも、カネを巻き上げてお頭に持って行かねばならない。

 しかしあの魔物狩りの大男は見るからに強そうだった。奴を脅して金を払わせるには、街中の仲間を集めねばならないだろう。

 冬の日差しは傾き易い。早くしなければあっという間に夕方になってしまう。彼等は急いで街を駆けずり回った。


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