第020話 「副作用」
早朝からケイオスの容態次第で出発しようと考えていたロジャーだが、やはり酷く酩酊して動けない様子だった。
結局昼近くになるまでその状態で、何とかケイオスが意識を取り戻したのは半日以上が経過した後の事だ。
その間ロジャーは火を絶やさないようにして、防寒具の毛皮をかけ彼の身体を温めた。
また食事を用意してから彼を起こし、それを食べるよう介助を行った。
その甲斐あって、やがてケイオスの体調がやっと復活。何とか立って歩けるようになった。
それから食器や寝袋と毛皮など荷物を片付けて、やっと出発する事が出来た。
「ハァ、ハァ、ロ、ロジャー君! ちょっと休憩しよう!」
だが数刻|(一刻=三十分)も歩かぬ内にケイオスがへばり出す。
「だ、駄目だぁ。病み上がりにこの坂道はきつ過ぎる」
流石にロジャーの顔には焦りが浮かび始め、無言で先を行く。
申し訳程度に歩幅は緩めてやり、ケイオスが何とか追い付けるようにして山の中を進んでいった。
「これは薬の助けを借りるしかないか・・・・・・」
流石にこの台詞は聞き捨てならない。先を行くロジャーは振り返り、慌てて叫んだ。
「ケイオスさん! もう変な物を飲まないで下さいよ!」
貴方を起こすのにどれだけかかったと思ってるんですか、と苛立ちながらも聞こえないように呟く。アホかと。もうあの妙なポーションを使われては敵わない。
「わ、分かっているさ。そんなに怒らなくてもいいだろう?」
全然分かってないじゃないかとロジャーはため息をついた。
この人は本当に体力が無い。それに根性無しだという事が段々ロジャーの頭の中に刻み込まれてきている。
「あの薬、出してください。ここで捨てて行きましょう」
ロジャーは詰め寄った。
「フィーバーポーションを? ダメダメ。あれはとても高価な材料を使用しているんだよ。それを捨てるだって? 君は物の価値というものが判らないのか?」
「じゃあ二度と僕の前であの薬を出さないでもらえますか。次、見たら瓶を叩き割りますからね」
「そんな事をしたら弁償してもらうぞ。三十シルビンはかかるから覚悟したまえ」
釘を刺されたケイオスだが、毅然とした態度で言い返してくる。
「とにかくヤバい薬を飲むのは止めて下さい! もう大分予定から遅れているんですよ! これ以上は本当にまずいんです!」
「だからこれ以上遅れないようにする為の措置なんじゃないか。まあまあ。落ち着きたまえよ、ロジャー君」
珍しく激昂したロジャーだが、ケイオスが両肩をつかんでなだめると少し大人しくなった。元来の性格が素直で、あまり荒々しく怒るタイプではない。
「いや、容量を違えただけなんだよ。次は服用する量を減らすから大丈夫だ」
「駄目です!」
そんな大人しい人間ですら激昂して反発する程に、ケイオスは厄介な男だった。
それからしばらくは火に油を注ぐような言い合いになったが、ケイオスが頑として譲らなかったのでロジャーは諦めた。
「ああこんな事やってるなら、座って休んだ方が良い。時間の無駄です」
「そうだねそうしよう。物事は前向きにやっていかなきゃ進んでいかないよ」
前向きにやってるけど進まないじゃないかと心の中で悪態をつきながら、ロジャーはうんざりした様子で腰を下ろした。
もう師匠に会ったらこの人の事をボロクソに言ってやろう。そうすれば大幅な遅れが出ても言い訳にはなるかも知れない。そう考える事でなんとか堪えていた。




