第019話 「錬金術のポーション」
次の日の朝。
ケイオスが二日遅れて到着したのでロジャーは気が急いていた。
あまり遅れると師匠にどんなお叱りを受けるか分からない。
日の出すぐの早朝からケイオスを叩き起こし、身支度を整えるとすぐに庵を出発した。
鬼哭き村は東に山をいくつも越えた所にあるという。途中何度か野宿もせねばならないだろう。
「ロジャー君! ちょっと! ちょっと待ちたまえ!」
「また休憩ですか? まだ一刻も歩いていませんよ」
ケイオスはよく庵まで来れたな、と思う程に体力が無く、すぐにへばって座り込むのでロジャーは辟易した。
「当たり前だろう。今の私は人間だ。山道では息も上がる」
奇遇ですね僕も人間ですよ、とロジャーは言いたくなった。
「ハァ、ハァ、これは駄目だ。アレを使うしかないか」
ケイオスはリュックサックから薬瓶を取り出して、それをグイッと飲んだ。
「ぐうぅッ! ・・・・・・よし、行けるぞ!」
すると途端にシャキッとして、急に立ち上がり足早に歩きだした。
あっという間にロジャーを追い抜いて先を行き始めたので、慌てて後を追う。
錬金術のポーションというものは本当に凄い物で、そこから夕暮れまで平気で歩き通してしまった。
「ケイオスさん! そろそろここらで野宿にしましょう!」
ずんずん先に行ってしまうケイオスを呼び止める。休憩無しで歩き続けた為、今やロジャーの方がへばりそうになっていた。
山の中でもう辺りは真っ暗である。身体は疲れ切っていたが、早急に火を起こして野宿の準備をしなければならない。斜面でも比較的開けた場所に荷物を置いた。
「君は先を急ごうと言っていたじゃないか。もっと先に行かないか?」
やけに鼻息荒くケイオスがそう言うのでロジャーが答えた。
「夜の山道は危険です。肉食の獣は夜目が利きますから。気温も、大分低くなってきました。火に当たって身体を温めなければ」
冬の山はしんしんと冷えている。二人の吐く息が白い。
元々吸血鬼だからケイオスは夜道に慣れているのだろう。寒さにも強いつもりでいる。
しかし今は彼も人間の身体だ。薬の効いた感覚で大丈夫だと思っていても、実際には身体が寒さに耐えきれる訳ではない。このまま休まず歩いては危険だった。
「薬が切れないんだ。身体が熱い。このまま地の果てまで歩いて行けそうだよ」
「知りませんよそんなの! 変なのを飲まないで下さいよもう!」
「ぐうぅッ!熱い! これは駄目だ。解毒剤! 早く飲まないと!」
ケイオスがポーチから薬瓶を取り出す。
「大丈夫なんですかそれ?!」
ロジャーは顔をしかめた。
錬金術で作った薬というのは多くの場合副作用がある。身体にとって毒である事が多いのはロジャーも知るところだ。
薬の毒性を更に薬で打ち消していくのは危険だ、と師匠に教わった事がある。
ケイオスは解毒剤を勢い良く飲んでからこう言った。
「ロジャー君、じきに私はすぐ気を失うだろう。近くで火を焚き、温めて欲しい」
それだけ言うと膝から崩れ落ちるように倒れて動かなくなった。白目を剥いて、口から泡を吐き続けていた。




