第018話 「価値観の違う相手」
ロジャーはケイオスに予定の遅れを説明した。
「本来ならすぐに出発したいところなんですが、流石に今日のところは一日休んでおきましょう。水や食料、消耗品などの点検をして、足りない物があれば持っていくように用意しないと」
ここまで長旅だったというケイオスを休ませないのは流石に酷だ。彼が来なかったのであれば今日ここを発てと師匠に仰せつかっていたが、来たのだから予定は変更である。
遅れているとはいえ、ロジャーは一日休む事を提案した。
「そうだな。疲れ切っているからゆっくり休ませてもらいたい。それと、丁度もう水も食料も尽きてしまっている。何かもらえると助かる」
ケイオスは事も無げに提案を受けた。遅れた事に対してまるで悪びれた素振りは無い。
「あのー、その荷物の中には、何か飲食物が入ってないんですか?」
ケイオスが床に置いたリュックサックは、何が入っているのか分からないがパンパンに膨れ上がっている。普通考えたら相当量の水と食料が入っていて然るべきに見えた。
「ああ、これは錬金術の素材とポーションが大半さ。まだ実験段階の薬も持って来た。蒸留器、乳鉢、すりこぎと、他にも必要な物は全てある。これならどんな場所でも大抵の事は出来るぞ」
ケイオスは自慢気に道具を一つずつ出して並べて見せる。
「どうだい完璧だろう?」
「それ持って行くんですか? 水や食料、その他消耗品はどうするんですか?」
ロジャーの顔が引き攣った。
「大丈夫、持てるだけ持っていくさ。しかし悪いが、少し私の分も君が持っておいてくれないかな?」
「えっ、僕が?」
「ここには君と私しか居ないだろう? 他に誰か居るように見えるのか?」
「いや、居ないですけど」
「じゃあ決まりだろう。他に方法は無い」
お互いが全く要領を得ない感じの会話が続いていく。
ロジャーは目の前の男が自分とは異なる理解不能な価値観を持つ相手である事を、ひしひしと感じ始めていた。
「私は高価な錬金術の薬品や道具を管理する。その他ありふれたつまらない物品は君が管理するんだ。適材適所、これこそ適切な役割分担と言えるな」
その独特な論理には、下手をすると少し納得させられそうになってしまう。
ロジャーは曖昧にハァと返事を返した。
「えと、じゃあ、ケイオスさんの水と食料は僕が持って行きます。でも・・・・・・」
だがロジャーの携行出来る量にも限界がある。自分の分に加えてケイオスの分まで背負うとなると、どうしても必要な物の総量が少なくなってしまうだろう。
これでは道中での補給がそれだけ多く必要になる、とロジャーは彼に伝えた。
「どのみち補給は必ず必要になるさ。それが早いか遅いかだけの違いだろう? その代わり、これだけの貴重な品々が我々の助けになるんだ。これで正解だと後に分かるさ」
自信たっぷりに彼は言った。ロジャーは納得いかない気持ちを抱えたままだが、こうも当然のように押し切られてしまうと反論出来なかった。
「さあ、そんな事よりも私は今とても空腹だ。とりあえず食事がしたい。何かあるかな?」
「僅かなら米と野菜があります。他は全部荷物の中に入れました」
「ではそれをもらうとしようか。どこにあるんだ? 早く出したまえ」
ロジャーは食事の支度に取り掛かった。米を炊くやら、野菜を切って煮るやらで結構手間がかかる。
こういう作業は慣れている自分が全部やった方が早いと考えて、ロジャーはケイオスに休んでいて下さいと伝えた。
ケイオスは師匠の蔵書に興味を持ち、それらを大人しく読み始める。
この日はこうして過ぎていった。
二人は食事を取ってゆっくりと休み、次の日に備えた。




