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ドーンオブスレイヤー  作者: チュン
一章:魔獣討伐の旅
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第017話 「自称天才の男」

「さて、どうしようかな・・・・・・」


 その後何事も無く昼が近づいて来ていた。

 ロジャーは霞を食って布団でゴロゴロしていたが、そろそろ行かなければならない刻限が迫っている。

 すると丁度その時、玄関をトントンと叩く音がした。

 

「誰か居ないか?」

「あっ、はーい」

 

 きっと件の人物であろう、とロジャーは急いで玄関口を開ける。

 そこには青白い顔をした長身の男が立っていた。


「アイザック氏の庵はこちらで良いだろうか?」

「そうです。お話は聞いてますよ。貴方がケイオスさんですね?」


 男は見た目の年齢は二十代後半、少しウェーブのかかった長髪で、髭は生やしておらず端正な顔立ち。

 黒いフード付きのローブを身に纏っているので体型は分からないが、長身で雰囲気的に痩せ型だなと感じた。

 端的に言って美形である。これならさぞかし女性にモテるだろうな、とロジャーは思った。


「如何にも。私こそ闇流派ダークネススタイルの真祖返りと評されるケイオス・アインドルフ・ルノーゼスファウンゼン・フォン・ジュノーシュタット・リヒテンハイドだ」


 彼は右手を差し出した。


「ケイオスと呼ぶ事を許すよ。覚えておいてくれたまえ。君は未来の王と話をしている」


 ・・・・・・口を開かなければ、と訂正しておこう。ロジャーは内心ガッカリした。


「あ、ああ。初めまして」


 差し出されたままの右手を見て、とりあえず握手を交わす。


「えーと、予定では一昨日来られる筈だった様ですけど、何かあったんですか?」

「フッ! よくぞ訊ねてくれた! 実は大変だったのだよ」


 話すところによると、魔物化した狼に追われて逃げ回っていたのだそうだ。それを無駄に大仰な身振り手振りで話すので、ロジャーは変だと思い聞き返した。


「えっ? あの、ケイオスさんって魔法使いなんですよね? その程度の魔物なら、魔法で何とかならなかったんですか?」


 魔物化した狼など、ロジャーは初めての依頼で群れを討伐しているくらいだ。強力な魔法を使えるなら、むしろ簡単に倒せる筈の魔物である。

 

「だーかーら! 今どうして何とかならなかったのか、その経緯を説明しているのだろうが! 途中で話の腰を折らないでもらいたいな!」


 ケイオスは嫌悪感を露わに強く言い返してきた。


「あ、はい。すみません」


 ロジャーはとりあえず謝ったが、どうも腑に落ちない。


「私はヴァンパイアの真祖に匹敵する魔力を持っている。私程の脅威的存在ともなると、専門の敵対者が存在するのだ。知っているかね? 忌々しいヴァンパイアハンターとかいう奴等の事を」


 ヴァンパイアハンター。その存在は師匠から教わった事がある。ロジャー達魔物狩りとはまた違った、吸血鬼のみを討伐する専門家だ。


 少々特殊な存在であり、偏執的なまでに吸血鬼を憎み、追い詰め、無残な殺し方をする異常者が多いと聞く。

 

「そこで、だ。この私程の天才ともなると、奴等を欺く秘薬を作り出す事に成功してしまったのだよ。我ながら自分の才能が恐ろしい。フッ」


 そう言うとケイオスはローブの内側、ベルトに下げたポーチから小さな薬瓶を取り出して見せた。


「これを飲めばどんな吸血鬼でも人間と変わらなくなる薬だ。吸血衝動を抑制し、普通の食物だけで満足出来るようになる。どんなハンターでもこの私を吸血鬼と見抜くのは不可能だ」

「へぇ。凄いですね」

「そうだろうそうだろう。この薬は今まで誰も作り得なかった秘薬中の秘薬だ。もっと褒め称えてくれても構わないぞ」


 人差し指を立てて目を瞑り、得意気にそう言うケイオス。


「・・・・・・で、結局狼に追われたのは何故なんです?」

「ここまで説明して分からないのか? 君は察しが悪いな。私は今や完全に普通の人間と変わらないのだ。つまり吸血鬼である事に起因する魔法的能力は使えない」


 ロジャーは嫌な予感がしてきた。


「例えば闇の魔法全般、それから吸血鬼の持つ精神幻惑系、ヒュプノシス能力など一切使えない」

「すると、何が出来るんですか?」

「何も出来ないのだよ。今の私は無力だ。まあ人間の魔法使い見習いに出来る程度の、簡単な生活魔法くらいなら何とかなるがね」


 じゃあ何をしに来たというのだろうか。ロジャーは絶句した。とてもこれからの任務の助けになるとは思えない。


「いや、生活魔法ってあの、もし戦う事になったらどうするんです? 僕は自分の身ならともかく、貴方を守って戦う事は出来ませんよ?」

「大丈夫だ。私も身の保身だけには自信がある。そこは気にしなくて結構だ」


 その自信は一体どこから湧いてくるというのだろう。ロジャーは困惑した。


「言い忘れたが、錬金術ならこの身体でも使えるぞ。薬品各種なら豊富に用意出来るだろう」

「ああ、それは良いですね。怪我をした時は頼りになりそうです」


 もうダメかと思ったが、ギリギリで取り得があったのは喜ばしい限りだ。


「得意とするのは主に毒薬だ。呼吸器を焼くポイズンミストポーション、シンプルに毒殺用の高濃度ポイズンポーションなど、最高品質を約束しよう」


 取り得なんてどこにも無かった。この人は使えない方向に偏り過ぎている。

 ロジャーは絶望した。出発前から厄介な人が来てしまった。聞いていた話と大分齟齬そごがある。これからを考えると、不安に頭を抱えるしかなかった。


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