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ドーンオブスレイヤー  作者: チュン
一章:魔獣討伐の旅
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第015話 「大仕事」

 半年程が経過した。季節は移り変わり、山はすっかり冬の様相となっている。

 この辺りは雪こそ降らないが、草木には霜が降りて冷たく凍てついていた。吐く息も白く凍る。 

 この半年間、ロジャーは今までとは比べ物にならない程多くの仕事をした。

毎日夜になると師匠がどこからか仕事の依頼書を持ってくる。それを翌日にこなすのだ。

 初めの内は採集等の雑用もあったが、ひと月もすると正式な依頼しか来なくなり、主に魔物の討伐をこなす事になった。

 そこからは来る日も来る日も討伐の依頼である。近隣の魔物化した野生動物は一通り相手にしたくらいであった。


「おう、俺は出掛けるぞ。いつも通り小物の依頼は頼む」


 いつも早朝になると師匠が仕事に出ていく。ロジャーは依頼の書を確認して、距離と難易度的にこなせそうな魔物の討伐に出かける事になっている。

 小物というのはサイズの事だ。魔物の大きさが小さいものを主にロジャーが出向いて討伐する。

 多くの場合、大きさは討伐の難易度に直結する。仙術流派は小さく素早い敵に強い。その反面、大きな体躯を持つ敵には相性が悪い。

 ある程度高度な奥義を見に着ければ何とでもなるらしいが、それはまだロジャーには無理であった。


「よし、こんなもんかな」


 討伐に出る際は所持品を確認する。

 初冬の頃は寒さへの対策を忘れて散々な目に合った。防寒着の予備、毛皮の毛布などは必須だ。

 雨が降った時に荷物だけは濡らさないよう包む為の油紙や、消耗品の籌木ちゅうぎ等も抜かり無い。

 所持品の確認が終えたら庵を出る。この毎日にロジャーは最近慣れてきていた。

 最近といえば近頃分かってきた事がある。

 ロジャーは今まで知らなかった事だが、師匠はこれまでもずっとこのような依頼を全て一人でこなしていたようなのだ。

 空を高速で飛び回り、近隣は元より大陸各地で八面六臂の活躍をしていながら、夜はしれっと庵に帰ってきて何食わぬ顔をしていた。

 それでも師匠は別段隠していた訳ではないようだ。これまであまり仕事の内容について話をしなかっただけである。

 ロジャーが主に魔物の討伐をするようになって、色々と尋ねたい事を師匠に聞く機会が増えた。すると興味深い話が次々と飛び出すのだった。

 そういった話の断片的な内容をつなぎ合わせて後で考えると、どうやら師匠はとんでもなく広範囲に活動している。

 実は途方も無い位多忙な人だ、と段々判ってきたのだ。

 ロジャーは考える。ここまできてやっと、自分は少しだけ師匠の役に立てるようになってきたのではないかと。そう考えると少し嬉しくもあった。

 まだ師匠のやっている仕事と比べたら全然大した事が無いだろう。しかしこういう一歩一歩の積み重ねで、自分もやがて大きく成長していけるのかも知れない。

 まだ若いロジャーにも、遥か先を行く師匠の背中が見えたような気がしてきていた。



□■□■□■□■□■□■□■□■



 そんな日々が続いていたある日の事。


「依頼だ。今回はいつもと訳が違うぞ」


 どうせ気を抜くと死ぬとか言うんでしょう。とロジャーは予想した。


「大物が相手だ。死ぬなよ」


 ほらやっぱり。と一瞬思ったが、雰囲気がいつもより重く何かが違う。ロジャーは神妙な面持ちになった。

 師匠が蝋で封をされた羊皮紙を取り出す。

 ロジャーには知り得ない事であったが、蝋の刻印はある貴族家のものであった。それを師匠は乱暴に開けて羊皮紙を広げる。


「チッ。相変わらず古風な地図寄越しやがって。今時羊皮紙だぜ・・・・・・まあいい、見ろ」


 精巧な地図が描かれていた。少し意図的に歪曲してあるような絵だとも思えた。

 地図にはX印がいくつかあり、師匠が指差してあれこれと説明してくれる。それによると今回は大分遠方の仕事となるようだった。


「今回はお前一人じゃない。単独ではちょっと荷が重すぎるからな。勿論俺も先行して調査する」


 聞けばこの依頼はここウェスティア王国の、スティリア地方を治める貴族、ウェストリコ公爵家からのものだという。

 ウェストリコ公爵家は城を持つ有力貴族で、この地方の実質的な支配者である。

 それが複数流派の魔物狩りに合同で取り掛かるよう、指示を出したのだ。

 今回はロジャーを含めた三名の魔物狩りで、一つの仕事に当たらせる事になったと師匠は言った。


「とにかく大分北の方だ。かなり歩くぞ」


 ウェスティア王国最北端に位置する城塞都市ウェストリコ。そこから更に北上すると、北方からの異民族襲来を防ぐスティリア砦がある。

 砦の向こうは未開の地。大小様々な部族が領土の取り合いをして、過去幾度となく武力衝突を繰り返してきた混沌なる危険地帯だ。

 現在も広大な範囲のどこかで、常に小競り合いが続いている。


「この数年、度々怪物が現れ荒らし回って被害が出ているそうだ」


 スティリア砦の北、その地域を差して師匠は言った。

 多くの目撃証言から、怪物はキマイラという人工的に作られる魔物で、獅子の頭と山羊の胴体、毒蛇の尻尾を持った合成獣魔である事が判ったという。

 王国の宮廷魔術師団がかつて軍事目的での利用を考え研究を行っていた、と文献に残っている魔物だ。

 しかしその後、危険過ぎる為に合成獣魔は作成を禁止された。

 本来なら存在しない筈の合成獣魔が何故現れたのかは不明だが、ウェストリコにとってこれは都合が悪い事態だった。


『魔物を送り込んで我らの領土を侵すなら、相応の代償を払う事になるぞ』


 既に複数の北方部族から連名でこのような警告が届いているという。

 こんな高度な合成獣魔を作り出せるのはウェストリコに違いあるまい、と疑いの目を向けられているのだ。

 このままでは普段小競り合いをしている各部族が一時休戦し、一致団結してウェストリコに報復してくる恐れまで出てきた。

 王国としては軍を動かして事態の収拾をつけたいところだが、それをすると領土侵略と取られ本格的に戦争になってしまいかねない。


「そうなっても最悪、ウェストリコの軍事力なら当面はどうにかなるだろうがな」


 余計な禍根を作るのは将来的に見て宜しくない、というのが王国側の弁だった。勿論本当のところはさだかではない。

 実際に戦うとなると敵がどんな手を使ってくるか、その被害はどの程度になるかなど未知数である。

 そこで各地の魔物狩りにウェストリコの封書が回ったという訳だ。

 キマイラは巨大な体躯をしている癖に神出鬼没で潜むのが上手いらしい。本来なら人海戦術で捜索し、軍隊のような大人数で討伐するしかないところだろう。

 だが魔物退治の専門家に任せれば万事解決だ。軍を動かすより遥かにコストが安く、少数精鋭の魔物狩りならば北方部族を刺激する事も無い。

 こんな仕事を押し付けられる側は堪ったものではないが、王国側にとっては実に都合が良かった。 


「キマイラは大きいって話でしたけど、どの位の大きさがあるんですか?」

「ああ、精々大き目の納屋か小型の家程度だってよ」


 そんなのと対峙したら、一発で殺されてしまうのではないか。ロジャーは険しい顔をした。



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