第013話 「告白、リーナ視点」
(リーナ視点)
さっきからあの男の弟子が何か言ってくる。
何なの、放っといてよもう。辛かったから泣いてるの。私に話しかけないで。
「僕は貴女が好きです。それで今日ここへ来たんです」
えっ?! 私は驚いて一瞬彼を見てしまった。目が合って凄く気まずい。慌ててすぐに目を逸らした。
「それで、その、つ、つき合ってもらえませんか」
何、何、何よもう! 何て言えばいいのか全ッ然分からない!
私はついさっきまで御師様にゲンコツをもらって、あの男に笑われて、それが悔しくて、御師様に理解してもらえなくて。心中ぐちゃぐちゃで泣いていた。
このタイミングに告白されても情緒グラグラでワケ分からなくなる。
・・・・・・一瞬見た感じは悪くない。そう思ってしまった。
真っ白な髪は異様だけど、ある種美しくも見える。ちょっと男らしさは無いけど、顔形は端正で整っていて綺麗だ。中性的な顔。
もしかしたら武骨な男性より良いかも知れない。私は怖い男性は嫌いだから。
いやいやそうじゃないでしょ。とにかくいきなりそんな告白されたって、こっちは心の準備が出来てないんだって。
「あ、その、あの、今後は、何度でも、ここへ来ますから。用事を作って。だから今、お返事を無理に、してもらわなくても・・・・・・大丈夫、です」
当たり前よ! こんな急に言われて、はいつき合いますなんて言える女が居ると思ってるの?
・・・・・・でも、う~ん。面倒だな。何度も来るですって。わざわざ用事を作って。これはきっとしつこく来るわ。そういうの迷惑だって思わないのかな。
なまじ容姿は悪くないから困る。一々心を乱されたくない。
私はここに遊びで居るわけじゃない。御師様に仕える修行中の身だから、男性に惑わされるような事があってはならない。
段々冷静になってきた。そもそも私は・・・・・・。
「あんな人の関係者は、嫌です」
「え? 今、何て?」
言ってやった。何て? なんて聞き返してきてるけど、聴こえたでしょ。
あんなぶっきらぼうな男の弟子となんて絶対嫌なの。
「貴方は悪い人じゃないでしょうけど、あの人のお弟子さんなんですよね?」
分かったら黙って帰って。私は続けてはっきりつき合えない事を伝えた。
大分ショックを受けている様子でちょっと可哀想ではあったけど、だからといってここで折れる訳にはいかない。
もうこれで話は終わり。そう思っていると、突然彼が素っ頓狂な声を上げた。
「あっ、あっ! じゃあ! 僕は師匠の弟子を辞めます!」
「えっ?!」
何を言っているのこの人?!
「それなら僕は師匠の弟子を辞めます。そうしたらつき合ってくれますか?」
「えぇ・・・・・・そんな事をして大丈夫なんですか?」
私にとって師弟関係というのは、血の繋がりは無くとも親子関係に等しい。この人にとって、家族と別れる事は大した事じゃあ無いのだろうか。
それとさっきからヤケにグイグイ来るのが怖い。目を輝かせて嬉しそうに迫ってくる。ヤバいオーラが出ているような気がする。
「大丈夫です。よく考えてみたら僕に何の損も無い話です。問題ありません」
えっ、それどういう意味なの。不穏な事言いながら晴れやかな顔しないで。
「僕と逃げませんか。僕はリーナさんを一生大切にします」
「わ、私はここに居たいんです! 逃げるだなんて必要がありません!」
やっぱり変だこの人。何か重大な勘違いをしている。
まさか強引にさらっていく気? 近づかないで欲しい。私は両手を前に出して横に振り、必死に否定した。
「大体貴方はステラ聖教の信徒ではありませんし・・・・・私おつき合いするなら信徒の方、ってずっと決めていますから」
そう、だからつき合えないの。これで分かって!
「じゃあステラ聖教に入信すればつき合ってもらえるんですか」
「ええっ?! 入信するんですか?」
この人マジで言ってるの?
これにはグラッときた。だって上級信徒になる条件を満たせるのだ。
見ず知らずの他人が宗教に入信したり改宗したりするっていう事は滅多に無い。
だから信徒を増やす為に、教団では誰か一人を入信させ、上級研修を受けると上級信徒になれるというルールがある。
上級信徒になると扱える奇跡も一段階上になるのだ。一般信徒とは一段上の存在と認識されるようになり、教団内部ひいては社会的に見ても位の高い聖職者として信頼される地位となる。
私の心は葛藤した。打算で高速回転したともいう。
上級信徒! でも駆け落ちなんて困る。容姿はまあまあ好みの範疇。だけどあの男の弟子! そこを我慢すれば上級信徒! いやその前に駆け落ちはなぁ・・・・・・。
麻の如く乱れる私の心。
それを見透かすかのように彼が突いてくる。
「はい。リーナさんとつき合えるなら何だってします。貴女は僕の女神です」
「め、女神様だなんて恐れ多い! いけませんそんなの!」
ステラ聖教の信徒において、神を僭称するのは大罪だ。私は必死に否定した。でもここまでお世辞を言われると流石に照れる。
さっきから私は手を前に出して、彼を何とか制止させようとしている。それでも彼はグイグイ近づいて来て、今や私は少し仰け反るような姿勢だ。
ちょッ! もう! ああああ近づかないでって!
もういっそつき合っちゃえば。でもあの男の弟子だし! いやそれでも信徒になってくれるのなら、この容姿はドストライクと言えなくとも優良物件だわ。
いや、騙されている可能性は? さっきはヤバいオーラを発していたじゃない。
そーよそーよ。危ないところだったわ。
「でも私は貴方の事を何も知らないし、いきなりそんな・・・・・・」
私は断ろうとした。けど自分でも驚く程出てきた声は弱々しくなっていた。
「僕の事ですか? じゃあ、教えたらいいんですね?」
一体何をする気なの?! このままじゃ押し切られてしまいそうだ。こんなヤバい事って無い。いつの間にか私は抵抗出来なくなってきていた。




