第24話 カラオケ(テレビゲーム)
美羽がスマホでゲームをしている。イヤホンをしているので話しかけづらい。
どうやらリズムゲーのようだ。
タッタッとリズムよくタップしている。
うまい。
後ろから終わりを見届けると、美羽は唐突に口を開く。
「歌いたい」
「え」
「カラオケのゲームあったよね?」
「ああ。やるか?」
俺はゲームを引っ張りあげて起動させる。
二つコントローラーを取り出し、片方を美羽に渡す。
カラオケのゲーム・カラオケキングスを起動させると、美羽は箱からマイクを取り出す。カラオケ用のマイクだ。
「どのモードにする?」
カラオケキングスには三つのモードがある。
自由型。自由に曲を選んで歌うだけのモード。
順位型。歌った曲を記録し、オンラインでランキングを競うモード。
緩急型。一曲の中で曲調が変動し、スローになったり、スピードアップしたりするので、それに合わせて歌う。最後は100満点の評価が下されるモード。
この三つを並べてみると美羽は自信満々にない胸を張る。
「ふふーん。わたしはランダムモードをするよ!」
「え。でもこのモードはけっこう難しいよ?」
「大丈夫よ。わたしはできるもの」
美羽がここまで自信満々なら文句は言えまい。
「分かった。ランダムモード起動!」
「言葉に出さなくてもできるよ?」
「なんか、こっちの方が格好良くない?」
「ふふ。そうかもね」
否定せずに受け入れてくれる美羽。やっぱり彼女は優しい。
「曲は何にする?」
「〝幸福な天使のテーゼ〟にするわ」
自信満々な彼女に目をパチパチさせる。
驚いたのだ。
ここまでやる気のある美羽は初めてみた。
「じゃあ、行くよ」
曲を流すと美羽が歌い出す。
歌い出しの始めでいきなりテンポアップ。それに食いついていく美羽。そのあとにスローダウン。すぐにリズムを整える美羽。
この早さは!
最難関リズム。
ランダムモードの難易度をランダムにしていた結果、一番難しいリズムになっているらしい。
どんなにカラオケが得意な人でも潰れてしまう――そんな危険なリズムなのだ。
まるでジェットコースターのように急変していくリズム。
合間合間に入る普通のテンポに躓きそうになりながら、声を張り上げる美羽。
歌い終えると美羽は肩で息をし、汗ばんだ額をハンカチで拭う。
「す、すごい。すごいよ! 美羽」
オンラインでネットにつながると世界上位のランカーの中に入ってしまった。これはこれですごいのだが、美羽は気にした様子もない。
採点は97点。
「むぅ。100点じゃない……」
「そんなところで維持を張るな。普通は80点だって難しいのに……」
俺は美羽の態度に感慨深いような、呆れたような、そんなため息を漏らす。
「ん。次、大輝の番」
「え。できるかな?」
俺はそんなに歌うのは得意じゃない。
たまにイケボと言われるが、それも油断していると、出てこない。
「まあ、でもやってみるか」
俺はランダムモードで歌いだす。
曲は〝T〟。とあるアニメの主題歌だ。
美羽も知っているこの曲。
歌い始めると、最初はスローダウンから入る。そして開始8秒でテンポがアップに入る。俺は切れそうな声でアップテンポに食いつく。
上がってくる体温。
切れる息。
身体の全神経を逆立てて曲を歌いきる。
終わった。
点数は89点。
「すごいじゃない。大輝もやるぅ~♪」
「あー。しんどい」
テンポの変わる歌はどうしても大変だ。
それに加えて俺の選んだ楽曲との相性も最悪だった。
歌いきった感覚にフーッと息が漏れる。
「ん。じゃあ、次はランキングモードで」
まだ歌い足りない美羽はゲームを操作する。
ランキングは単に機械が点数をつけるわけじゃない。世界中の人が評価を下し、そしてランキングとして反映されるのだ。
「はいよ」
俺はもう歌わないだろう。
そう思い美羽の歌う姿を見ることにする。
「選曲は〝世界のいじわる〟で」
「え。なにそのマイナーな曲」
俺は聞いたこともない曲を聴くことになる。
でもゲームでは大抵有名曲にスポットがあたる。入っている曲は2千を超えるのだが、その中でもマイナーな曲を選ぶのだから、美羽の感覚は分からない。
始まるとリズムよく流れてくる社会風刺な歌詞。曲調はとても早く、息継ぎの瞬間がないような気がするほどだ。
でも美羽はそんな中、負けじと音を出し続けている。
聞いたことのない曲なのに、どこか懐かしさを感じ、気持ちが高ぶってくる。
ああ。これが美羽の力なのか。
そう思い、歌に寄り添い歌を楽しんでいる。
そんなことまで手に取るように分かる歌い方。
まるで優しく包み込むような音圧。
チャチャチャとリズムよく聞き心地の良い声。
たった三分の中に喜怒哀楽が含まれているような曲。
歌い終えた頃にはもっと聞いていたくなるようなふわふわした感覚。
どれをとっても最高のできと言える――が。
「うーん。もうちょっと頑張れたかな……」
美羽の評価は厳しいらしい。
機械による一応の点数がつく。
98点。
ひゅっと息を呑む。
こんなに高い点数は初めてみた。
俺がいつも歌っている時や、武雄はいつも60点代だからだ。
「美羽。すごいじゃん。やっぱり音大に入ったら?」
ふるふると横に首を振る美羽。
「それじゃあ、大輝と離ればなれになっちゃう」
可愛らしい言い分だが、これではもったいなく感じる。
「今の時代、WeTubeもあるし」
世界的な動画配信サービス。
確かに音大に通っていなくても今の時代ならメジャーデビューできる。そんな人を何人も見てきた。
でも、やっぱり大学でていると違うのでは? と思ってしまう。基礎を学ぶべきと考えてしまうのだ。
そんな人の可能性を俺のせいで潰すのはもったいないんじゃないか? そう思えてくる。
でも美羽にはお構いなしなのかも。
あくまでも趣味の延長線上だろうし。
「まあ、美羽がそれでいいなら、いっか」
「うん。じゃあ、今度は大輝の番」
マイクを向けてくる美羽。
「え。俺はいいよ」
美羽の後で歌うのは気が引ける。
「大輝の声も聞きたい。イケボで歌って?」
「……分かったよ。歌うってば」
上目遣いで、可愛い彼女にねだられたら誰だって歌うしかないだろ。常識的に考えて。
俺は〝パッチマン♪〟を選曲し、リズムに合わせて歌い出す。
「パッパッパッ、パッチマン。パッパッパッ、パッチマン。ウィアーパッチマン!」
ノリノリで歌い始めると、それしかみえなくなっていた。
この曲に全力で歌う。
これは美羽のため。
自分のため。
歌い続ける。
歌唱能力は高くないが、生まれ持ったイケメンボイスがある。こればかりは親に感謝している。
感謝の気持ちを込めて歌う。
すべての縁に感謝し、今美羽と一緒にいられる幸福をメロディに乗せる。
美羽の目がキラリと輝く。
その瞬間、全てがどうでも良く感じた。
美羽さえいればいい。
そう思えた。
歌い終えると美羽が拍手をし、採点を待つ。
80点。
「おお。俺の中では最高得点だ」
「かな。わたしの中ではもっと高いけど」
「美羽がそう言うなら、そうなのかもな」
ふふふと笑い合う俺たち。
「じゃあ、最後にフリーモードで自由に歌おうか?」
「サンセー!」
美羽が笑いを浮かべながらマイクを手にする。
流れていく曲は流行の曲。
確かCMでも流れている、とてもポピュラーな楽曲だ。
美羽と俺は何度か歌い、楽しんでいた。
歌い終えたあとの水がおいしく感じられた。
「美羽。あと一曲、デュエットいける?」
「ん。大輝と一緒ならどこまでも」
「ついてきてくれ」
美羽と俺は最後に一曲歌い終えると、満足感からか、高揚した気持ちになった。
これはこれでいい経験だった。




