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第19話 勉強

 俺は毎日勉強をしている。それは好成績を維持するため。美羽に突き放されないためでもある。

 眼の前にいる可愛い子が美羽だ。

 えーっとここはdy/dx=nx^n-1だから、こっちはdy/dx=yだよな。これであっているのか?

 不安になりつつも勉強を続ける俺。

 俺が進学を目指すあそびたい亜素日体(あそびたい)大学は世界有数の偏差値を持つ難問校だ。これでいけるのか……?

 美羽は隣でうたた寝を始めている。さすが天才。普段勉強していないのに満点を採るなんて。さすが才女。

 その才は凡人の俺では計り知ることができない。

 その間にも問題を解いていく俺。

 才能を、努力で上回ってみせる!

 そんな意気込みのもと、俺は美羽をライバル視している節がある。

 永遠の友であり、ライバルであり、恋人である。それは譲れない。

 俺の境地だ。

 俺がその頂きに手を伸ばす。

「美羽のいるところは高いな」

 言葉を漏らす。

 俺にとって追いかける存在。それが美羽だ。

「んん……? おはよ、大輝」

 膝の上に寝ていた美羽が伸びをし、寝ぼけ眼をくしくしとこする。

「起きたか」

「~~!」

 自分の格好に驚いたのか、顔を紅潮させる美羽。

「あ。わ、わたし、重かったよね。ごめん」

 そう言って膝枕から立ち上がる美羽。

「いや、そんなことないぞ。可愛い寝顔が見られて大満足だ」

「もう、もう、もう! いつもそうなんだから!」

 顔を赤くして照れるように言うもんだから全然否定されている気にも、怒っているようにも見えない。

「今は勉強中だ。美羽もやるか?」

 ふるふると首を振る美羽。

「わたしはいいの。大輝こそ、勉強見てあげようか?」

「いい」

 負けず嫌いな俺はここで「お願いする」とは言えなかった。

 俺のダメなところだ。

「そう。なら、わたしラノベ読んでいるね」

「ああ」

 そう言って俺の部屋にある本棚からラノベを一つとる美羽。

「……」

 勉強に集中している俺の隣でペラペラとラノベを読む美羽。

 嗚呼。この時がずっと続けば――いや、勉強はしたくないが――美羽が隣にいるだけで嬉しい。

 俺はそっと手を伸ばし、美羽の頭を肩に誘う。

 すんなりと受け入れ頭を任せてくる美羽。

 ドキドキして勉強ははかどらなかったが、気持ちは多幸感でいっぱい。

 嬉しいよ、美羽。

 勉強も半分を過ぎた頃。

 美羽がラノベを閉じて本棚へ戻すために立ち上がる。

 ネコのチャオがゴロゴロと泣きながら、俺の足下にすり寄ってくる。

「むぅ。そこはわたしの席なのに……」

 ネコに嫉妬するあたり、美羽もそうとう俺のことが好きらしい。

 これはたまらん。

 気持ちが高ぶりつつも、俺は次の勉強を進める。

「あと少ししたら終わるからな。もう少し待ってくれ」

 美羽に向けてそう言ったが、チャオが甘えるのはやめない。

「もう!」

「美羽!?」

 俺があぐらを掻いて座っているところに割って入って、あぐらの真ん中に座る美羽。

「え。え! ちょっ、ちょっと!」

 これでは勉強ができない。

 何よりもいい香りが鼻をくすぐる。

 暖かな西日が部屋の中を照らす。

「いいじゃない。わたしたち恋人なんだから」

 まだ社会の勉強が残っているのに!

「そう言えば、美羽の得意教科ってなんだ?」

 すべてオール100点を取る美羽だ。どこが得意なのか、あるいは全てと応えるのか、気になる。

「ん。わたしは……理科だね」

「理科……! 俺と同じだ!」

 でも逡巡しゅんじゅんしている様子があったけど……。

「あ。俺に合わせてくれたのか?」

「そういうこともある」

 美羽は俺の胸に頭を預けて言ってくる。

 そんなに俺が好きなのか。嬉しいけども。

「でも本当はどれが好きなんだ? 教科」

「うーん、と。わたし、そこまで好きな教科ないんだよね」

「え」

 誰でも好きな教科があると思っていた俺にとって驚きの発言だ。

「大輝は理科の中で何が好き?」

「俺は化学か、生物だな」

 化学式を覚えたり、生物の緻密な構造が面白いと思う。

「それ羨ましいなー」

 いつも満点をとる美羽がそんなことを言う。

 まるで自分には興味ある教科がない、と言わんばかりのテンション。

 それが少し引っかかった。

「そんなもんかね?」

「うん。好きがあるって素敵なことだよ。もちろん大輝の執筆も」

 俺がWEB小説投降サイトで小説を書いていることは美羽だけに話している。他には知らない人ばかりだ。

 まあ、武雄たけお飯田いいだあたりには話してもいいのかもしれないが。

「わたしも……。まあいいっか」

 気恥ずかしそうに頬を染める美羽。

 何を恥ずかしがっているのか、分からないが、俺は美羽を抱きしめる。

 ずっとこうしたかった。

 胸に頭を預けていた美羽だからこそ、できることだった。

「暖かい。わたしも執筆始めようかな」

「小説を書く、って言うのか?」

「うん」

 その言葉に熱が籠もる。

 同じ世界を共有できるのは嬉しい。

 執筆の難しさ、面白さ、そして学び。

 俺と美羽はいろんなことを、同じ時を過ごしている。それがたまらなく愛おしい。

 愛らしい美羽をつかんで離さない。

 天才の彼女に俺は付き従うナイトでありたい。

 彼女の思いを大切にしたい。

 でもそれはどうやって叶えられるのか。

 気持ちだけでは守れない。それは分かっている。

 だからこそ、俺は美羽を守りたい――。

「俺、美羽のナイトになる」

「ナイト……? 騎士さま?」

「ああ。それで、俺は美羽を大切にしたい」

 抱きしめたまま、左右に少し揺れると美羽は甘えたような声を上げる。

「もう、しょうがないなー」

 嬉しそうに顔をほころばせる美羽。

 こんなに可愛い彼女がいて俺は幸せだ。

「わたしのナイトさま」

 甘えた声を上げる美羽に、ついギュッと抱きしめる。

「わたし、あんまり抱き心地よくないかも」

「え。なんで?」

 俺は訳も分からずに疑問符を浮かべる。

「だって、貧乳だもの……」

「え? なんだって?」

「貧乳だもの!」

 その言葉にくらっときた。

「貧乳いいじゃない! 俺の好きなタイプだよ!」

「え。ロリコン?」

「いやいや、貧乳=ロリコンではないだろ!」

 俺は必死で否定する。

 ここでロリコン認定されるのだけは避けねば。

「美羽だって貧乳だけど、年齢は同い年だろ?」

「それもそっか」

 納得してくれた。ありがとう神様仏様!

 しかし、俺に頭を預けているとやはり髪の毛に触れる。

 キューティクルの整ったさらさらとした髪を手ぐしでく俺。

「髪の手入れ、大変だろうに」

「だって大輝は長い髪が好きでしょ?」

「それは……そうだけど……」

 洗うときも乾かすときもかなりの時間がかかると聞く。

 好きな人のためにずっと長い髪を維持するのは、それだけ好きということ。

 パンク寸前の俺の頭に美羽の整った顔立ちが見える。

 後ろを振り返った美羽。

 気がつけば美羽の形の良いふっくらとした唇が近づく。


 ――その唇に触れてみたい。


 そんな欲求を抑え、俺はノートを前に突き出す。

「ふふ。かわいい」

「なんでそうなる」

 俺は目線を逸らし、美羽をしっしと追い返す。

 ノートを広げて、先ほどの勉強の続きを再開する。

「もう。彼女がかまってあげているのに」

「それは、ありがたいけど……」

 誰のために勉強していると思っているんだ。

 いや、自分のためか。

「もう。そんなんだからモテないんだよ」

 美羽はラノベを手にして俺の背中に背中をくっつける。

「いいんだよ。美羽にさえ、モテていれば」

「もう。もう! そんなんだから……!」

 たまらなく愛おしい彼女がいるんだ。これ以上何を望む。

「そんなあなただから好きなの」

 美羽はそう告げると、ラノベをペラペラとめくり始める。

 赤くなった顔を見せずに。

 俺、今猛烈に幸せだ。

 これも美羽のお陰か。

 絶対幸せにしてやる。

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