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第17話 アルバム

 ぐでーっとする午後二時。

 太陽が雲に隠れ、その陽光を遮っている。

「そういえば小さい頃の自分って覚えているの?」

 美羽は不思議そうに尋ねてくる。

「ん? どうだったかな」

 俺は疑問に思い首をかしげる。

「そういえばアルバムがあったっけ」

 幸いにも卒アル以外にも家族とのアルバムがあったはず。

 押入れから引っ張り出し、机の上に並べる。

「これくらいかな?」

「わぁあすごい量だね」

 そこには大きなアルバムが六つくらい並んでいる。

「俺の姉貴が写真好きで、よく撮ってはみんなに見せていたよ。将来はカメラマンになる! って」

 苦笑気味に言うと美羽も華やいだ笑顔を見せる。

「そうなんだ。じゃあさっそく拝見」

 そう言って一番上のアルバムに手を伸ばす美羽。

 パラパラとめくると俺の小さい頃の写真があらわになる。

 少々恥ずかしいが、恋人には知る権利があるだろう。

 ……知ってもらうのは気恥ずかしいが。

「あ。おもらししている」

「え!?」

 びっくりして裏返った声で反応してしまう。

「ほら」

 美羽が見せてくれた写真には確かに子どもの頃の俺と一緒に湿った布団が写っている。

「おいおい。なんていう瞬間を撮っているんだよ……」

 こんな恥ずかしいことはない。

 こそばゆいを通り越している。

「ふふ。かわいい」

 そんな意見を言う辺り、美羽もそうとう好きだな。

 ペラっとめくる美羽が声を漏らす。

「あ」

「なになに? 今度はどんな写真が……」

 言い終える前に見るとそこには誕生日ケーキを前にする子どもの頃の俺がいた。

「誕生日、祝おうね?」

「……お、おう」

 今までも友達の頃から祝ってはくれていたが、それとは別件なのだろう。

 きっと《《彼女》》として祝たいのだろう。

 それは俺も同じ。

「美羽の十二月二十六日も忘れていない」

「ふふ。大輝は六月六日だものね。そろそろだね」

「ああ」

 そのときは盛大に祝ってほしい。付き合って初めての誕生日。気持ちが高ぶるのも仕方ないだろう。

 いつものメンバーで祝うのではなく、二人っきりで、か……。

 やばい。にやついちゃう。

 俺こんなことでも浮つくんだな。

 ぱらりとアルバムをめくる。

「七五三だ可愛いー!」

「雑に褒めるなよ」

 幼馴染みの美羽は覚えていないらしい。

「えー。いいじゃない。可愛いんだから」

 まあ、言われて悪い気はしないけど。

 でも女子の〝可愛い〟は当てにならない時が多いんだよな……。

 前も可愛げのないゾンビブタのキーホルダーをぶら下げていたし。

 飯田いいだも美羽も、なんで女子はあんなに〝可愛い〟を連発するのか。

 はなはだ疑問である。

「七五三といえばあの長い飴だよな」

「千歳飴だっけ? 好きなの?」

「味はあんまり覚えていないんだが、特別感があって好きだったな」

 苦笑いを浮かべていると美羽は美しいものを見るような目で写真を見つめている。

「そっか。こうして大きくなっていったんだね」

 感慨深そうに呟く美羽。

 確かにその通りだと思う。

「それは美羽も同じだろ」

「そう、かもね……」

 両親に愛されて育ち、学校ではやんちゃをし、こうして愛おしい彼女と出会えた――これが奇跡でなくてなんだと言うのだろう。

 必然が、偶然が重なり奇跡になる。

 最初からなんでも持っているわけじゃない。生まれてきた者には祝福を。

 そんな当たり前が俺と美羽を優しく暖かく育ててくれた。

「これから美羽ともっともっとはぐくんでいきたい」

 その時間があってもいだろう?

 俺はにこりと微笑むと美羽も呼応するようにうなずく。

「俺たちは愛情を育んでいくんだ」

「恥ずかしい言葉は、ずるい……」

 かぁあと耳まで真っ赤にする美羽。

「いいじゃないか。俺と美羽しかいないんだし」

 二人っきりという免罪符があれば、何でも言える、何でもできる気がした。

「これ小学校のときの写真?」

 この頃だよな。本島へ美羽が引っ越していったの。

 再会できて、どんなに嬉しかったことか。

「あー。そうだな。武雄たけおが写っているだろ?」

「え! これ武雄くん!?」

 武雄。

 大塚おおつか武雄。

 今でこそ大柄で筋骨隆々な男だが、小学生の頃は俺よりも小さい貧弱なもやしっ子だった。

 それがいつの間にか俺を抜き大人を抜き、今の190cmの巨漢を手に入れた。

 そんな武雄に対抗しようとしていた俺だが、すぐに武雄には勝てないと知る。

 しかし、アルバムで見るとやはり別人だな。

「でも大輝はあまり変わらないね」

「そうか? 負けないよう、筋トレはしているんだが……」

 俺は困ったように頬を掻く。

「そうじゃないの。顔つきが可愛い」

「言われてもわかんねぇ……」

 俺には分からない世界が美羽には見えているらしい。

 ペラっとめくるアルバム。

「おっ! 運動会か。懐かしいな」

「高校でも大会あるみたいね」

「ああ。でも運動部の奴らが活躍するんだろ? 俺の出る幕ないじゃん」

 文化部である俺には活躍する場がない。もっというと運動部が活躍するために競技大会があると言っても過言ではない。

「大輝の活躍するところ見たかったなー」

「いやいや、今なら運動部の奴らに負けるって」

「いい線行くと思うよ」

 美羽は本気でそう言うが俺は運動が苦手だ。

 確かに筋トレはしているが、それだけだ。

 特別得意なスポーツがあるわけでも、ましてや運動部の連中みたいに本気になれるものがあるわけでもない。

 ペラっとアルバムをめくる。

 そこには俺と武雄が肩組みして一緒にゴールする瞬間が収められていた。

「ふふ。こんなときから仲良かったんだね」

「ああ。そうだな。思えば長い付き合いだな。うん」

 かれこれ十年近い付き合いになるのか。

 ホント巡り合わせって分からないものだ。

 武雄がいい奴だったから続いたものの、悪い奴だったらどうなっていたことか。

「そういえばどうやって通っていたの?」

 俺の地元は小さな孤島だ。漁村だ。

 そこから大きな島の小学校に通うには船が必要だった。

「親父の船で送り迎えをしてくれたんだ」

「それって大変そう……」

 美羽は困ったように眉根を寄せる。

「まあ仕方ないさ。漁村だったし」

「大輝は漁師にならないの?」

 それはごくごく実直な感想だった。

 親が漁師なら子も漁師になるだろうという安直な考えだ。

 ふるふると首を横にふると俺は口を開く。

「今どき、漁師なんて売れないのさ」

「そうなの? 一次産業は消えない職業なのに?」

「みんな外国産の安いやつを買うから国内でとれた魚や牡蠣は売れ残るんだよ」

 悲しい話だが、みんな質よりも量を選んだのだ。

「ふーん。じゃあ大輝はなんになりたいの?」

「分からない。これから決めていきたいと思う」

 俺は本音で語ると美羽はアルバムに目を落とす。

 そこには漁師の父と一緒に写った写真がある。

 漁船の前で大きなカレイと一緒に映る俺。

 漁師を目指していた頃の俺がそこにはいた。

「美羽の将来の夢は?」

「ふふ。ひ み つ」

 唇に指を当てて妖艶にただずむ美羽。

「まあ、俺にも秘密の夢があるけどな」

 将来、美羽と結婚し子宝に恵まれること。そして両親みたいな素敵な家族生活を夢見ている。

「むぅ。隠し事なんてずるい」

「おあいこさまだろ?」

 美羽は体を寄せてくる。

 俺の耳元に顔を近づけると、ささやくように呟く。

「わたしの将来の夢は、大輝と結婚すること」

「〜〜〜〜っ!」

 甘い吐息とともにこそばゆい気持ちになる。

 気恥ずかしさで顔が真っ赤に染まる。

 美羽も同じく顔を赤くして離れる。

 このままじゃ引き下がれない。

 言え! 言うんだ!

「お、俺の夢は美羽を幸せにすることだ!」

 今度は俺が伝える番だった。

「〜〜っ!」

 耳まで真っ赤にし、身をよじる美羽。

 気恥ずかしさはあるものの、俺の気持ちをしってほしかった。

 それは美羽も同じだったのか、ニマニマと口元を緩める。

 なんだか照れてしまう。

「ま、まあ。その前に高校卒業だな」

「そ、そうね!」

 日和ひよった二人はごまかすように乾いた笑いを浮かべる。

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