第87話 sideシャルル・ハリス公子の事情 ①
白猫ララを学園で偶然見かけたとき、僕は後先考えずに頼み込んでいた。
「お願いがある。マリアとゆっくり話がしたい。告白したいんだ。このまま国に帰っても、今までと同じで、誰のことも考えられないと思う。頼む」
『わかったにゃ。マダムロロのチョコレートプラチナパッケージで願いを聞くにゃ』
「え?」
確か、マダムロロは、今王都で人気のチョコレート店で、プラチナパッケージと呼ばれるチョコの詰め合わせは、一日限定10箱の入手困難な品だと聞いたことがあるが。
「無理にゃ?」
「いや、善処するよ」
そうして、従者に頼んで10日目に奇跡的に入手することが出来た。連日早朝から列に並んでくれた従者には、特別手当を与えた。
そして、それを白猫ララに渡した。
「わかったにゃ。機会をつくるにゃ。でも、チャンスは一回だけにゃ。タイミングはこっちに任せるのにゃ」
「感謝するよ、ララ」
まさか、穴に突き落とす形で話すタイミングをつくるとは思ってもみなかったけど……
とりあえず告白は出来た。後は、返事だけど……
そう、僕は白猫に頼み込むほどに焦っていた。もう残された時間が無かった。
2年生の後期が終わって、僕は例のごとく従者に頼まれる形でカーネル王国に帰国していた。だけど、今回の帰国は、いつもと様子が違った。陛下に帰国の挨拶に向かう途中、王宮内がザワザワしているような気がした。
「陛下、ただいま戻りました」
「おお、シャルル、よく帰った。息災でなにより。ところで、想い出の君とはどうなっているのだ?」
想い出の君とは、マリアローズのことだ。昔、命を助けてもらった女神の愛し子のマリアにどうしても会いたかった僕は、1年間の約束でローズウィル国への留学をもぎ取った。でも、1年はあっという間過ぎ、マリアへの想いは日を追うごとに募っていった。
「なんでも言う事を1つきくので、あと2年間留学したい」
子供の約束のようなことを担保に3年間の留学を許してもらった。マリアと結ばれる、そんな勝算は限りなくゼロに近いのに。
ただ、マリアと何気ない日常を過ごすことが止められないだけだ。未練だらけの僕を、陛下だってわかっているはずだ。
「……まだ、頑張っていますよ」
「そうか……ところで、そなたにとって良い知らせと、悪い知らせを伝えねばならん。どっちから聞きたい?」
この国の陛下は、少しお茶目な一面を持っている。普段は強面で、座っているだけで威厳に満ちているのだが……
「では、良い方から」
「そうか。……第一王女キャサリンの結婚が決まった」
「そ、それは、おめでとうございます。これで、カーネル王国も安泰でございます。それでは、悪い知らせとは?」
「キャサリン王女は、ウィンドル侯爵家の長男サミエルのところへ降嫁することになった」
「は?どういうことですか?キャサリン姉様は陛下のたった一人の子です。王子はいないのですから、降嫁ではなく王配を迎えるのではないのですか?」
「なあ、シャルルよ。ローズウィル国へ行くため、何でも私の言う事を1つきく約束だったな」
嫌な予感に、背筋に冷たい汗が流れた。
「シャルル、そなたを次の王とする。王太子になってくれ」
乾いた笑いが出てきた。
「冗談ですよね。そんな、いくら僕が甥だと言っても、父は臣籍降下して王族ではないのです。それを今更……」
「そうだな、シャルル。だが時代の流れには逆らえないのだ。5歳でそなたが奇跡的に健康になり、神のお気に入りにまでなった。国民に人気もある。次代の王はそなただと国民は期待しておるのだ。それにいくら臣籍降下していても、そなたは直系の王子だ」
「でも、キャサリン姉様が……」