第84話 シャルくんの態度がおかしいです
「マリア、おはよう。今日も可愛いね」
「……お、おはよう。シャルくん、どうしたの?」
「え、何が?」
「あの、可愛いとか突然言い出して、最近変だよ」
「そう?思ったことをそのまま言っているだけだよ」
今日も輝く王子様スマイルで、周りの令嬢から熱い視線を集めながら、シャルくんは平然と言い切った。いや、今までそんな事言ってなかったよね?明らかに3年生になってから態度が変だ。今までも、アロ様を挑発するような態度をとることもあったけど、冗談だと思っていた。でも今は、どこか真剣な声音にドキリとするのだ。
「僕のマリアから離れてくれないかな、ハリス公子」
「おっと、殿下。おはようございます。僕はマリアの友人でしょう?話しかけるのはいいのではないでしょうか」
「そうかもしれないが、最近の公子は度が過ぎるように思う。何か企んでないか?」
「ひどいですね。ただの挨拶ですよ。では、お先に」
「……マリア?」
「やっぱり、変ですよ。冬休暇の時に何かあったのかな?アロ様、心当たりが…?」
「あ、いや、ないよ」
歩いていくシャルくんのうしろ姿を見ながら、いろいろ考えてみたけど、私にも心当たりがなかった。
昨日の雨が嘘のように、今日は晴天に恵まれた。私たちは魔法薬の課外授業で王家直轄の森へ薬草採取に来ている。アロ様はどうしても抜けられない公務があるため欠席だ。アロ様は3年生になってから本格的に公務が増え、欠席することが増えた。
「リリー、こっちにマルマル草があります」
「マリア、気をつけてくださいね。昨日雨が降ったので、地面がぬかるんで滑りやすくなっていますわ」
「ありがとうございます。リリー」
久しぶりの外出に、少し浮かれていたようだ。3年生になり王妃教育も大詰めを迎えているので、放課後は王宮からあまり出られないのだ。最近ストレスが溜まっていた。
「……あっマリア、そこは!」
「え?あ……」
リリーの声に振り向こうとしたが、ズルリと滑る感覚とその先に少し大きな穴が見えた。えっこんなところに穴なんてあった⁈ふわりと浮遊感と共に体が下へ落ちる。
「マリアッ危ない!!」
シャルくんの声が聞こえたと思ったら、頭を抱きかかえられ、そのまま二人で落ちていく……これって死んじゃう??
ドンッ
強い衝撃に、一瞬目の前が暗くなった。
「マリア、マリア!大丈夫?」
「シャルくん、ここは?」
「ん~どこかの穴、洞窟のようだね」
「穴に……」
「結構落下したみたいだ。お互い加護がなかったら死んでいたかも……」
「でも、落ちてきたはずの場所に、明かりも見えないような気がするけど」
「なんか、閉じ込められたみたいだね」
「閉じ込められた??」
「幸いリリアーナ嬢も落ちたところを目撃しているし、そのうち助けが来ると思うんだけど……まさか、あの猫……」
「え、猫?」
「いや、なんでもない。とりあえず何処かに座ろうか。あまりここから動くのも得策ではないし、体力は温存しておこう」
そう言って、シャルくんは岩のところまで連れて行ってくれた。明かりはないのに、岩自体がぼんやりと発光しているようだ。とても幻想的な景色だ。
「岩に明かり苔が生えているみたいだね。暗くなくて助かった」
「あの魔法薬の材料の?」
「そうだよ。あとで採っていこうか」
「そうだね。せっかくだから、……くしゅんっ」
肌寒さにくしゃみが出た。そういえば、先ほど暑くて上着をぬいでしまっていた。ここは外よりかなり気温が低いようだ。
「これ、羽織っておいて」
シャルくんが自分の上着を肩にかけてくれた。
「でも、シャルくんが冷えてしまうよ」
「僕は大丈夫。君に丈夫にしてもらったから」
「ふふ、おまじないね。懐かしいな」
二人で岩に座って、あの頃の話をたくさんした。
「……」
急にシャルくんが黙り込んだ。何かを考えているようだ。
「どうしたの?シャルくん……」
「ねえ、マリア。僕と一緒にカーネル王国に来る気はないかい?」




