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第82話 作戦会議をしましょう

「それで、今度開かれる、アナリス王女とアロイス殿下、マリアローズ様を歓迎する晩餐会なのですが、おそらく何か仕掛けてくるのでは、と思っています。アロイス殿下とマリア嬢は晩餐会の2日後には帰国予定ですし、叔父も焦っていると思います」

「確かに、マリアを狙うならそこしかないかもしれないな。では、その前にマリア、ユリゲーラの王都でデートしないか?」

「そ、それは危険ではないのですか?」

ブラッド様が焦って質問した。確かに、デートは危険かも……でも、ユリゲーラの王都か。楽しそうだな。

「はい、デートしたいです」

「そうか、では明日行こうか。少し派手に動けば、もしかしたらいいオマケまでついて来るかもしれないし」

「いいのですか。危険なことが起こる可能性もあるのですよ」

「そうだな、まあ、大丈夫さ。それに出来れば僕たちが帰る前に、アナの憂いは取り除いておきたいからね」

「アロ兄様、ありがとうございます。でも、くれぐれもお気をつけて」

「ああ、もちらんさ。マリアも一緒だからね、無理はしないよ」


そして次の日、私とアロ様はお忍びデートに王都へ向かった。お忍びと言っても、王宮内の人たちには、明日行くんですよ。と情報は流しておいたし、護衛も一人しかいない、と付け加えておいた。ちなみに護衛はルルーシェ様がかって出てくれた。

なので、同じ歳3人が町中をぶらついている形になり、デートというより、修学旅行のような気分だ。それでもユリゲーラの王都は、ローズウィルとはまた違った雰囲気で、おとり作戦のことはすっかり忘れて楽しんでいた。特に気に入ったのは、ユリゲーラ特産のユリの花の香水だ。とりあえず、自分用と王妃様、母様、アナ様、リリーにもお土産として購入した。頼めば、ローズウィルまで届けることも可能だそうで、香水以外にも石鹸や入浴剤も種類がたくさんあった。こっちはマーサたちのお土産にたくさん購入した。重くなってしまったので、王宮まで届けてくれるよう依頼した。

すっかり目的を忘れて観光気分を満喫していると、アロ様がスッと私に近づいてきた。どうやら、怪しい人物が近づいてきているようだ。


フードを被った男が3人ゆっくりとこちらに距離を詰めてきた。アロ様とルルーシェ様が、目立たないよう路地裏の方へと逃げていく。王都のど真ん中で戦闘は避けたい。

何とか小走りで、裏道の目立たないところまで来た。男たちは自分たちが追い込んだと思っているようだ。にやにやと笑っている。

「おい、ルルーシェ。お前顔分かるのか?」

「ああ、分かるよ」

「この中には?」

「いないね」

「だよな、自分では来ないか。じゃあ、仕方ない、捕まるか」

アロ様はゆっくりと男たちに手を挙げてみせた。

「降参だ。手荒な真似はしないでくれ」

男たちは手早く私たちを後ろ手に縛り、目隠しをして馬車に乗せた。どこかに連れていかれる様だ。ここまでは作戦通りだ。

「ごめんマリア。大丈夫?」

こっそりアロ様が聞いてくれた。私は小さく、はい。と返した。目隠しされて、手も縛られているが不思議と怖くなかった。きっとアロ様がいてくれるから。

どれくらい走ったのか分からないが、それほど長く感じない程度走って馬車は止まった。ゆっくり引き下ろされ、歩かされた。目は見えないが、鳥の鳴き声や、森のような匂いがするので、どこかの別荘かもしれない。

ギィッと扉の軋む音がした。きっと長く使われていない屋敷なのだろう。少しカビ臭い匂いもした。

「はいれ」

男性の声がして、扉が開いた音がした。ここで目かくしがとられた。眩しさに目を細めてみると、30歳前後ぐらいの青白い顔の男性が座っていた。確か第二王子のユリウス様が31歳ぐらいだったと思う。

「はじめまして、マリアローズ様。ユリウス・ユリゲーラと申します。お会いできて光栄です。そして、アロイス殿下。手荒な真似をして申し訳ない」

「ユリウス殿、これはどういうことですか?このようなことをされれば、我が国とユリゲーラの関係が崩れるとは思われなかったのでしょうか?」

「それは、そうでしょうな。でも、それすらどうでもよくなったのですよ。長い幽閉生活で妻は絶望しながら死にました。そして息子は今、病で苦しんでいます。助からないそうです。もう、何もかもどうでもいい。でも、最後に、復讐してやりたくなったのですよ」

「誰にですか?」

「さあ、誰でしょか?愛し子になった甥のブラットフォードでしょうか、それとも異母兄でしょうか、それともこんなことになった自分にでしょうか?兎に角、全部壊したくなった。病の息子にだけは申し訳ないと思っていますよ。あの子には私しかいない」

「……何がしたいのですか?」

「ただ、腹が立ったのかもしれません。私たち親子が幽閉され苦しんでいるのに、甥のブラットフォードは隣国から美しい花嫁を迎え入れると聞きました。世の中は不公平だ。一度の過ちを許してはくれない。もし、甥が愛し子になっていなかったら、あちら側にいたのは私たち親子だったかもしれないのに」

「……」

「それで、私たちをさらってどうするのですか?」

「どうもしませんよ。少しの間監禁されていてください。そうすれば、すこしは王家も困るでしょう。所詮、私は小物なのです。母の生家にそそのかされて王の座を狙えるような器ではなかった。それなのに、夢を見てしまった。そうですね、私は自分を憎んでいるのかもしれません」

そういってユリウス様は頭を抱え込んでしまった。アロ様もここまで戦意がないと、攻撃も出来ないのか、じっと考え込んでいる。ルルーシェ様も何かを考えているようだ。

「あの、息子さんは……?」

「……隣の部屋で寝ているよ。医師ももう匙を投げ、治癒魔法師でも治らないと言われた。私が出来るのは一緒に死ぬぐらいだね」

「……私を会わせて下さい」

「まさか、どうにかできるというのか?」

「お約束はできませんが、お願いします」

「ああ、どうぞ会ってやってくれ」

そう言って、隣の部屋に案内された。ウィリアム王子は8歳だそうだ。政変中に生まれ、ほとんどを離宮で幽閉されて生活していたそうだ。

可愛らしい男の子がベッドで眠っている。だが、頬はコケ、ぐったりと横たわっている姿は、見ていて胸が締め付けられる。私は王子のそばに座って手を取った。そして、いつものおまじないをした。この子が元気に走れますように。幸せになりますように。アロ様たちも私のことを止めたりしない。きっと同じ気持ちで見守ってくれていると思った。

かなりの時間、祈り続けていた。外からは夕日が差し込んで、辺りをやさしく照らしていた。ウィリアム王子の頬が薄紅色になっている。ルルーシェ様を振り返ってみると、頷いてくれたので、きっと病気は完治したのだろう。

「……父さま?」

可愛い声でユリウス様を呼ぶ。ユリウス様はゆっくりとウィリアム王子に近づいた。

「……ウィル、苦しくはないのか?胸は痛くないのかい?」

「う~ん、大丈夫。嘘みたいに楽になったよ」

「そ、そうか。良かった…」

「父さま、泣かないで。僕元気になったんだよ。喜んでよ」

「ああ、マリアローズ様。ありがとうございます。これで私はどうなってもいい。喜んで妻の元へ行きましょう」

「勝手に死なれては困ります。叔父上」

「ブラットフォード殿下、早かったですね。もう少し時間稼ぎできると思っていましたが、やはり優秀ですな」


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