第81話 アナ様は女神様のお気に入りです
「あの、マリア姉様、今なんと言いましたか?」
「急なのですが、アナ様は女神様のお気に入りになりましたと、言いました」
食後の紅茶を飲みながら、ブラッド様もまじえてアナ様に詳しい話をしている。ブラッド様がアナ様にしたのは、あくまで手紙の誤解を解くところまでだった。
「わたくしが女神様の加護を?ありがたいことですが、急にどうしてですか?」
「それについては、私が話そう。王家の恥をさらすようで情けない話だが、政変後、離宮に幽閉同然で見張らせていた叔父が、新年の混乱に乗じて、離宮から逃げた。きっとアナリスが来ることを知って、何らかの妨害をするためだと思う。それで、今年送った手紙に来たら困る、迷惑だと、誤解をさせるようなことを書いてしまった。すまなかった」
「そうでしたか。急に来るなと言われてしまい、てっきり意中の相手でもできてしまい、私が来ることが迷惑なのだと悩んでおりました」
「いや、決してそんなものはいない。私が心を寄せるのはアナリスだけだ。政変の時も、あなたからの手紙でどれだけ勇気づけられたか」
「まあ、うれしいですわ。わたくしもブラッド様だけです」
二人は両想いのようだ。ああ、甘酸っぱい雰囲気にこちらまで照れる。
「……それで、だ。何も持たないアナリスを守りきることが不安に思っていたところ、そこの猫…ララ様がお気に入りを了承して頂き、アナリスに加護を授かることが出来た」
「ララですか?」
「そこは、気にしないで。アナ様」
「そうですか……それで今後どうされるのですか?何か危険なことが起こるのですか?」
「まだ動きをつかめてなくて、警戒することしかできないのだ」
「そうだな、相手はアナリスか僕のマリアを狙う可能性もある。僕の妹や婚約者を狙うなんて、ローズウィル国を敵に回す気満々だよね」
「そこは穏便に処理したいと思っております。狙う前に捕らえるのがいいのですが、今のところ手がかりもなく、かと言って大っぴらに捜索するのも国の内情が悪いと知られることになり、それはそれで相手に有利に働きそうなのです。幸いなことに、ルール様もお戻りになって、協力してくださるそうなので、いくらかは進展しそうです」
「ユリゲーラの神は、人前に出るのか?」
「私限定ですね。14歳の時に偶然お会いして、愛し子となりましたが、そこからはよく会っていました。最近はローズウィル国のラーラ様が心配だと、ずっとそちらへ行っていたようですが……」
「……そうなのか、それは我が国の女神が、迷惑を……」
ララをチラリと見て、アロ様は言った。ララは知らん顔でクッキーを食べている。暢気な猫である。