第79話 ブラッドフォード王太子殿下が冷たいのですが
「あの、アロ様。少し気になることがあるのですが……」
「ああ、僕も気になることがある。1つはそこの猫が大人しいことなんだが……」
『なんにゃ、別の神の国に来たから少し大人しくしていただけにゃ。行きの馬車もアナがいたから寝ているしかなかったにゃ。しゃべらないのに慣れて、猫になりきってたにゃ』
「そうか……元気ならいい。それで、もう一つはブラッドフォード王太子殿下のアナに対する態度がおかしいような気がして……」
「そうです。私も気になっていたのです。その態度のことをアナ様も言わないのです。ということは、何か理由を知っていそうだと思いませんか?」
先ほどのブラッドフォード王太子殿下の、謁見の態度は決していいものではなかった。普段礼儀に対して、しっかりとした考えを持っているアナ様が何も言わなかったことが、逆に何か知っていそうだと思った。最近来た手紙に何か理由が書いてあったのではないだろうか?だからずっと暗い顔をのぞかせていたのでは?
アナ様は、入居する部屋の確認でこの場にはいないが夕食前には合流する予定だ。私とアロ様は王宮の庭を散策中だ。ローズウィルは薔薇が国花で、庭にも薔薇が多いのだが、ユリゲーラ国は国花のユリが多い。濃厚な甘い匂いと色とりどりのユリが咲いている風景は圧巻だ。庭を見るだけでここが異国なのだとわかる。
「ところで、魔術師ルルーシェは何故ここに来たのだ。今はどこに?」
『あれのことはいいにゃ。ここの王太子の知り合いなのにゃ』
「……知り合いなのか?本当に謎しかないやつだ」
噂をすれば……、向こうの方に二つの影が見えた。ルルーシェ様とブラッドフォード王太子殿下だ。二人は木陰で何やら言い合っていた。ケンカしている様にも見えるが、王太子殿下とケンカできるほどの仲なのかしら?そして、ルルーシェ様と目が合ってしまった。
「丁度いいところに。おい、ララ!」
突然、ルルーシェ様がララを呼んだ。白猫を呼びつけてどうする。とブラッドフォード王太子殿下が驚いている。まあ、それが普通の反応だろう。
『うるさいにゃ。何か用かにゃ』
ララは普通にしゃべっている。勿論、ブラットフォード様の表情は固まった。まあ、そうなる。
「お前、自分に借りがあるよな。というか、ほぼ貸ししかない」
『……何が言いたいのにゃ。今更返せと言われても困るのにゃ』
「いや、返せ。今すぐに」
『……何をするのにゃ?』
「簡単だ。アナリスをラーラのお気に入りにしろ」