第76話 隣国ユリゲーラ国へ行きましょう
ジャコブ大神官様は、沢山の苦言を残し去っていった。
「要は、マリアを隣国へ連れて行くなと言っているんだ。回りくどく長々と説教して」
殿下は、余程ジャコブ大神官様が苦手なようで、辟易したようすだ。
「大神官様のおっしゃられていることもわかるのです」
私は、加護のペンダントを触りながら言った。
「でも、やっぱりそこまで自由を奪われたくはありません。これもありますし、アナ様とユリゲーラに一緒に行きたいです」
「勿論さ。マリアは自由にしたらいい。僕がしっかり守るよ」
「アロ様、ありがとうございます」
過保護だった殿下が、少しずつ歩み寄り信頼して、私のしたいことを応援してくれるようになった。なんて、幸せなことだろう。
そして、2年生が終わり、冬の長い休暇に入った。アナリス殿下が隣国へ旅立つのは、来年早々と決まっていた。今年がアナ様と過ごす最後かと寂しく思っていたが、アナ様の一言で少し元気になれた。
「あら、マリア姉様、あちらの学園も長い休暇はありましてよ。毎回かどうかはわかりませんが、一年に一回はこちらに戻ってきますわ」
今は、来年の出立準備の打ち合わせも兼ねたお茶会をしていた。今日は、アロイス殿下は執務が立て込んでいて欠席だった。
「さすがに輿入れすればそうはいきませんが、学園にいる間は好きにさせていただきますわ。あくまで、留学ですから」
「よかったです。もう会えないかと、寂しく思っていたのです」
「帰ってきますわ。それに、マリア姉様たちの結婚式には必ず出席いたします。アロ兄様が暴走したら、止められるのはわたくししかいませんもの」
「はい、アナ様にはたくさん助けていただきました。本当に感謝しています」
「わたくしも、マリア姉様にはたくさん遊んでいただきました。小さい頃から本当の姉様だと思っておりますわ。それは、これからも変わりません」
「アナ様、私もそう思っています。私が王宮で寂しくなかったのは、アロ様やアナ様、アレク様がいて、一緒に遊んでくれたからですもの」
王宮で、皆に見守られながら、一緒に成長した。陛下も王妃様も、私たちを温かく見守っていてくださった。小さい時は、王妃教育も大変で、自分の置かれた立場に目がいっていなかった。でも今なら分かることもある。私はとても恵まれた環境で、王宮の使用人に至るまでに、大切に守られて生活していたのだと。