第6話 無事転生できたようです
私は慌てて頷いた。―――次の瞬間、眩い光に包まれた。
「お嬢様、マリアローズお嬢様朝ですよ。起きてくださいませ」
侍女のマーサの声がする。何だか悪い夢を見ていたような気がする。それに最近マーサは腰を痛めたとかで朝の支度はキャシーがしてくれて……その二人も家が没落と同時に解雇されて……そこでハッと覚醒をした。
「ああ、手小さい、マーサが若い!やった~生きてる、とりあえず生きてるわ」
自分の手を見ながらそんなことをブツブツつぶやいていたら、マーサに寝ぼけて夢うつつなのかと勘違いされ、とびきり冷たい水を用意されてしまった。誤解だ、うれしくて少し変なテンションだっただけだ。仕方ないので冷たい水で洗顔を済ませた。
「お嬢様、本日は午前中に建国神話及び歴史の先生がお見えになります。午後は殿下とのお茶会でございます。良かったですね。大好きな殿下とお過ごしできますよ」
「殿下とお茶会、…そうだった」
私は6歳から王宮に部屋を賜り家族と離れて生活していた。身近な者といえば領地から一緒に侍女としてついて来てくれたマーサとキャシーだけだった。ほぼ休むことなく朝から夕方までダンス、マナー、歴史や文化を学ばされ、夜は予習復習、私は辛くて泣いた。
そして半年が過ぎたころ限界が来た。領地で自然の中、自由に暮らしていた少女には王宮は余りにも過酷な環境だった。もちろん、5歳までも王宮にいくための勉強は家庭教師から受けていた。それでも領地には優しい両親も居たし、頼りになる5歳上の兄もいたのだ。
心が悲鳴をあげていた。逃げ出したいのにそれも出来なかった。家族を困らせることになるのだと幼いながら理解できてしまった。自分の部屋にいることができなくなった。息がつまる、呼吸が楽にできる場所を求めてこっそりと部屋を出た。どこをどう歩いたのかわからないまま小さな庭の端に蹲った。ふんわりと薫る緑のにおいに領地を思い出し、鼻の奥がツンとした。そこからはとめどなくあふれる涙に呼吸が苦しくなった。
どれだけの時間そこにいたのかは憶えていないが、隣でカサリと音がした。誰かが来たのだ。咄嗟に叱られると思い身を固くしたが、その人物はゆっくりと隣に座った。
「もしかしてマリアローズ?」
可愛いボーイソプラノの声がした。子供だ。王宮に子供がいるとなれば自ずと誰かはわかる。特にここは王族が住まう奥宮に近い場所のはずだから。
確か同じ年の第一王子アロイス殿下。2つ下に第一王女のアナリス殿下4つ下に第二王子のアレクシス殿下だったかしら?さすがに2歳の王子ではないということはわかった。
この方がアロイス殿下?