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第67話 sideローラ・アシュレイ男爵令嬢 黒いモヤに願いを

 私はローラ・アシュレイ。産まれた時から心臓に病を持つ男爵令嬢です。

 最近、いつ亡くなっても不思議でない、と治癒魔法師からも匙を投げられました。

 半年後には、憧れのローズウィル学園に入学できるのに、このままだとずっとベッドから離れることが出来ず、それどころかそれまで生きていられるかもわからないようです。

 絶望が私をつつみます。小さい頃から、ほとんどベッドの上だけで生活していました。唯一の楽しみは、この国の王子アロイス殿下の絵姿をながめる事でした。小さい頃に父が買ってきてくれたのです。それからは、絵姿が販売されるたびに買ってきてくれます。

 殿下は私の1つ上の学年です。きっと学園に通えれば、動いている殿下を見ることも出来るはずです。婚約者のマリアローズ様にも憧れていました。女神の愛し子様であるだけでなく、いろいろなことに取り組まれ、それが新聞や情報誌に載っているのを読むのが楽しいのです。1つしか年齢が違わないのに、次々と素晴らしいことをするなんて本当に尊敬しています。出来る事なら、二人に会いに学園に通いたいです。


 夜中に激痛で目が覚めました。いつもの発作ではないほど心臓が締めつけられます。どうやらもう学園に行くことは無理なようです。

「……生きたい……会いたかった……」

 最後に出た声を聴きながら、目を閉じようとしたときです。目の前に黒いモヤのようなものが浮かんでいるのに気がつきました。

 黒いモヤは私に言いました。

〈われが力を与えようか?生きたいのなら、われの言葉を聞け〉

「私は生きたい……アロイス殿下に会いたい」

〈その願い叶えよう。その後はわれに従え。さもなくば死はすぐに訪れるぞ〉

 私は生きたかったので、すぐに頷きました。

 黒いモヤが体の中に入ってきました。濃い茶色の髪色が、真っ黒に染まり驚きましたが、それよりも驚いたのは、苦しかった呼吸が楽になり、重かった体が羽のように軽くなったことです。生まれて初めての感覚でした。

 

 翌朝、一人で家族のいる食堂へ歩いて行きました。家族は髪色を見て驚き、一人で歩いていることにさらに驚きました。

「奇跡が起こった。女神様に感謝いたします」

 両親と弟は喜んでくれました。ずっと迷惑をかけていることは知っていました。神殿の治癒魔法師に払う寄進も、普段飲んでいる薬代もずっと家計を圧迫していました。それでも、私のことを家族は優先してくれていました。これで迷惑をかけずに済むと、ホッとしました。

 驚くことはもう一つありました。私が聖女になったのです。体が弱くギフト判定も判定不可能となっていたため、聖女だと言われた時は、本当に驚きました。ジャコブ大神官様が我が家に来られて、神殿に通うことが決まりました。何もかもが夢のようでした。


 そして春になって、私はローズウィル学園に通うことが出来たのです。あれから、私の中の黒いモヤは何も言ってきません。このまま平和な学園生活が送れそうで安心したのです。

 目の前に、マリアローズ様とアロイス殿下がいました。ドキドキしながら、マリアローズ様に話しかけました。アロイス殿下には、とても話しかけられませんでした。

 マリアローズ様はとても素晴らしい方でした。私にも優しく接してくださり、神殿のこともわかることは答えてくださいました。

 そして、アロイス殿下は胸が高鳴るほど素敵な方でした。憧れの殿下には緊張して話しかけられなかったのが残念でした。


 次の日、不思議なことが起こりました。面識のない男性に突然告白されたのです。男性の婚約者だという方がすごい剣幕で怒っています。私は怖くておろおろしてしまいました。

 男性が無理やり私の手を引っ張りました。どうしていいかわかりませんでしたが、その時驚くことが起きたのです。

「やめないか。アシュレイ男爵令嬢が怯えている。君には婚約者がいるだろう」

 アロイス殿下が、私を背中に隠し庇ってくれました。私は思わず殿下に縋り付いてしまいました。心が歓喜したのです。


 それから何故か、男性から言い寄られることが増えました。私に心当たりはありません。男性が言い寄ってきて、婚約者が激怒するのです。本当に不思議です。でも、嬉しいこともありました。殿下が仲裁に来てくれるのです。私は殿下に会えるのを楽しみにしていました。

 マリアローズ様に相談に行くと、アロイス殿下にも会えるので、頻繁に行くようになりました。初めの頃は、会えるだけで満足していました。でも、最近は更に少し物足りなく思うことがありました。

 そんな時、嬉しい出来事が起こったのです。先生に頼まれた資料を探していると、アロイス殿下が部屋に入ってきたのです。殿下は焦って部屋から出ようとしましたが、扉が開かないようです。私は殿下に近寄りました。殿下に触れたかったのです。

 殿下は、一瞬身を引きましたが、その後に抱きしめてくれたのです。驚きましたがそれ以上に幸せでした。殿下は私を好きになってくれたのだと思いました。

 でも、違いました。殿下は心からマリアローズ様を愛していました。

「僕のマリア、君だけが僕のすべて。愛しているのは君だけだ」

 私の心は黒く染まりました。殿下の心が欲しくてたまらなくなりました。そして、意識が何かに引っ張られたのです。黒いモヤの声が聞こえました。

〈われの声に従え。アロイスを誘惑するのだ〉


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