第58話 マリアローズと半神ラーラ ②
何度も、湖の畔で会った。少しだけあった罪悪感も消えた。腕を組んで虚ろな目のアラン王子と歩く。それでも幸せだった。
森を歩いていると、娘が現れた。アラン王子が愛しているあの娘だ。
「アラン様を返してください!!」
アラン王子の目に少しだけ揺らぎを見つける。幻術が解けかけている?
「なぜ?この人は私のモノよ。邪魔をするなら排除するわ。――死になさい!!」
アラン王子は渡さない。殺してしまったらいい。
私は、ナイフ取り出し娘に襲いかかった。倒れた娘の上に乗り、振り上げたナイフを胸に突き立てようとした瞬間、ドンッと横から衝撃を受け、私は地面に倒れこんだ。
「私のカーラに何をする!!」
ああ、幻術が解けた。早く目を見て、もう一度……焦れば焦るほど上手くいかない。
「私を見てください!私を愛してください!!」
「無理だ、私はカーラを愛している。二度と私の前に現れないでくれ!次は容赦しない」
ああ、駄目だ。もう幻術はかからない。私は一人なのだ。フラフラと森の奥へ歩いていく。体が重い、心が真っ黒に染まる。闇堕ちが始まったのだ。もうどうでもよかった。このまま闇堕ちすれば、守護しているローズウェル国がどうなるのか?それすら、もう考えたくなかった。私はただ愛されたかっただけなのに…
遠くの方で、男神ルールの声がしたような気がした。
次に目覚めた時、われは黒いモヤになっていた。
どうやら、男神ルールが半神を異世界から連れて戻り、半神に戻したようだ。ローズウェルは崩壊していない。
われは、闇堕ちしたときの何か、なのだろう。心が痛い。訳もなく怒りが沸き上がる。衝動のままに人を呪いたくなる。ああ、われは深い闇に堕ちたのだ。
だが、力が無かった。はじき出されてほとんどのものが消え去っていた。ああ、愛しく憎いアラン王子。あの娘と幸せになるなんて許さない。
われは王宮へ向かって飛んで行った。そして、王宮の端にある庭にたどり着き、ひっそりと咲く薔薇にとり憑いた。薔薇は少し黒くなった。それから少しずつ薔薇が黒く染まっていく。少し力が戻って来たようだ。
われは、この庭の庭師に干渉した。少しずつ意識を奪っていった。庭師を使ってアラン王子を害そうと思ったのだ。ところが力が戻るまでに時間を要している間に、アラン王子はこの国の王になっていた。王は女神の守護契約に守られる。王妃もそうだ。この力ではアランやカーラは害せない。口惜しい。ああ、憎い。苦しみをどうしたら与えられる?
この庭師は、たまにほかの庭にも出かける。そこで、たまたま見つけた少女。女神の愛し子だ。ラーラが愛し子を?この愛し子は、アランとカーラの子供、第一王子の婚約者だった。
そうだ、この少女を害したら、ラーラは悲しむだろう。この王子も少女を大切に思っているようだ、さぞ苦しむだろう。勿論二人も。ああ、いい考えだ。
庭師を操り、少女を害したが、力がまだ足りない。少女は死ななかった。庭師も正気に戻ってしまった。ああ、悔しい。もう少しの時間が必要だ。
この黒い薔薇が大きく育って、力が戻ったら、そうだ、今度はこの第一王子を操ろう。王子を操って違う女と恋人にしようか。そしてこの愛し子を害させよう。この少女が死んだ時に、われは優しいから王子を正気に戻してあげよう。きっと心が壊れてしまうね。その王子を見て、二人も苦しむはずだ。ああ、そうしよう。
愛し子は女神の加護があるけど、われも元は同じ女神だもの。きっと女神の加護の力は通じまい。
ああ、はやく、はやく力が欲しい。
こ、これは、黒い女神様の記憶?だから、私は断罪崖落ち死亡エンドになったの??
この感じだと、本体の黒いモヤは今も私たちを狙っているということ……?
女神の加護は効かない。でも、今は5柱の加護のペンダントがあるわ。でも、きっと諦めてはくれない。何か仕掛けてくるつもりよね?
ところで、今私はどうなっているの?このまま目覚めないなんてことは……??
それって、断罪崖落ちと変わらないわ。詰んだの??誰か教えて!!
その時、殿下の焦っている声が聞こえた。
「おいララ、もう10日たったぞ。何故マリアは目を覚まさない!」
『ん~もう目覚めてもいいにゃ~。黒いモヤの気配もなくなったにゃ~。やっぱりアレをするしかにゃいのかにゃ?』
「アレとは、なんだ?」
『お姫様の呪いをといて、目覚めさせるアレにゃ』
「だから、なんだと、」
『王子様のちゅ~にゃ』
「な、なにを……」
『このまま目覚めなくていいのかにゃ?いつもなら邪魔する私が許すのにゃ。ブチュッとやっちゃってにゃ~!!』
キャー何言っているの⁈ ララ!!