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第53話 side王太子アロイス 古狸と対決する

「これはこれは、王太子殿下自ら神殿にお越ししていただけるとは、嬉しい限りです。それで、どの様なご用件でしょうかな?」

 この狸爺、用件も何も呼び出したのはお前ではないか。心の中で思ったことは顔に出さず、にっこりと微笑んだ。

「ご無沙汰しています、ジャコブ大神官殿。このところ公務が立て込んでいまして、なかなかこちらへ来る機会がありませんでした」

「いえいえ、多忙なことは重々承知しておりますぞぉ。何せ、こちらへ女神の愛し子であるマリアローズ様をお連れ願いたいと再々お伝えしておりますが、王太子殿下が多忙なため、マリアローズ様もお越しになれない。の一点張りでしたからなぁ、ふぉふぉ」

「…それで、火急の要件と伺って、多忙をおして参ったのです」

「そうですか、それはそれは。わざわざありがとうございます。いやぁ何、最近妙な噂を耳にしましてなぁ。街に聖女マリアなる女性が、奇跡の御業で怪我や病気を治すとか?聖女と言えば、治癒魔法師の最上級を指すもの。神殿の管轄ですが、我々が把握している聖女3名の中にマリアなどという名前は見当たりませんでした。不思議ですなぁ。我々の知らない聖女がいるなんて、それこそ聖女を語る大罪人ではないかと、王太子殿下にご相談したかったのですぞ」

「ぐぅ、そうでしたか」

「容貌も聞き及んでおりますぞ。ピンクブロンドの髪に、空色の瞳の可愛い少女だとか。マリアという名前も、一人思い当たるような、違うような…」

「……」

「王太子殿下は心当たりございませんでしょうか?神殿としましても、聖女を語ることを黙認するには、それ相応の何か…いえいえ、強要などではございませんよ」

「わかっているのだろう。そう遠回しに責めるな。事情があって、女神の癒しの力を使う必要があった。だが、女神の愛し子だとバレるのはまずい。そこで聖女ということにしたのだ。そのあとも、マリアの希望で時々街の診療所で、女神の癒しの力を使って奉仕活動をしている」

「奉仕…それは寄進なしに癒していると……勿体な…ごほんごほん。それは、素晴らしい志ですな。タダで平民を……」

 神殿は、神官である治癒魔法師を使って、治療を行い寄進してもらうのだ。その中でも最上級の聖女に治療してもらうのは、貴族でも無理をしないと払えない金額だと聞く。言いたいことはわかる。だが、女神の愛し子が国民から金をとる⁈おかしいだろ⁈第一、そんなことマリアが納得しない。そこで、勝手にやらせてもらっていた。まぁ、バレるよな。

「そうだ、あくまで平民だ。神殿の利益は守られるはずだ。そちらは貴族や富豪相手にしか治療しないのだから。それに、神殿は国にありながら、平民にはあまり人気がない。貴族や金持ちばかりを優先して治療するのだ、仕方あるまい。だが、聖女と名乗り、マリアが奉仕するのだ。平民は神殿に感謝するだろうな」

「ほう、なるほど」

「さらに、学園を卒業すれば、マリアは王太子妃として国民の前に出ることになる。聖女マリアの正体が、女神の愛し子だと、国民は知ることになるだろう。神殿の象徴である女神の愛し子が、国民に奉仕をしていたという事実は、神殿に対する考えを改めるには十分だろう。これは、ジャコブ大神官殿が望んでいたことではないのか?」

「それはそれは、ありがたいことですな。王太子殿下も、ご立派になられた。昔は、僕のマリアを神殿に渡さないと、実にお可愛らしかったですのになぁ、ふぉふぉ」

 それは、6歳の頃の話だろう!! いつまで子供扱いするのだ。

「……それで、どうなのだ」

「ようございます。聖女マリアを正式に神殿で認めることにいたしましょう。こちらからお願いしようと思っていたことでございます。話が早くて助かりますなぁ」

「くっ……そうか、ではそのように手続きを。僕…私は執務に戻る」

「今日は多忙な中、ご足労いただきありがとうございました。王太子殿下に女神の祝福がありますように」

 この古狸め。全部計画通りなのだろう。こちらもあえて化かしあいに乗ったのだ。マリアが聖女として正式に活動するためだ。そう、あくまで乗ってやったのだ。負けてない。



「殿下?お疲れですか?」

 マリアが心配そうにのぞき込んでくる。

「そうなんだ、大きな古狸にいじめられたんだ」

「まあ、狸に?それは大変でしたね」

「ああ、とても疲れたんだ。癒してくれるかい?」

 腕を広げてマリアを包み込んだ。真っ赤になったマリアが小さくつぶやく。

「アロ様、お疲れ様です。大好きです」


 一緒に街に行くようになって、アロとして行動していると、マリアも殿下と呼び掛けられない場面が多い。アロ様と呼び掛けることに慣れてくれたのか、二人きりの時にはアロ様と呼んでくれるようになったのは嬉しい誤算だ。

 

「ああ、僕も愛しているよ。古狸からも必ず守るから。ずっと一緒にいようね」

「ふふ、狸からですか。ずっと一緒にいたいです。私も守りますから」

 ああ、この可愛い宝物を絶対に守りたい。

強かになりたい。あの古狸からも守れるほどに。


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