第51話 デートに行きましょう
「おはよう、マリアよく眠れたかい?」
「おはようございます。アロイス殿下」
実はドキドキして、あまり眠れなかったです。耳元でおやすみなんて、破壊力抜群です。
「あ、はい、眠れました」
「そう、良かった。じゃあ、今日午後から出かけられるかな?」
「え、出かけるのですか、午後に予定は入っていませんが」
「じゃあ決まり。デートしよう」
「あ、え、デート?あのデートですか?」
「そうだね、恋人がするデートだね。いろいろ試したいこともあるから、午後に迎えに行くから待っていて。服装もこちらで用意して届けるから」
従者が届けてくれた衣装は、商家のお嬢様風な衣装だった。確かに、私がいきなり街娘は、いかにも変装になってしまうが、これならばいいところのお嬢様だ。間違ってないし、街からも浮かない、目立たないだろう。
今日の殿下は、金髪にメガネをかけるようだ。メガネ男子もカッコいいです。
「お待たせマリア、じゃあ行こうか?」
王宮の立派な馬車ではなく、小さめの目立たない馬車に乗り込む。
「たまにお忍びで街の様子を見に行くんだ。いつもはロイドと行っていたんだけど、マリアが外に出る練習にもいいと思って、今回誘ってみたんだ」
「街にお忍びですか?」
「そう、陛下も若い頃はよく行っていたと聞いた。自分の目で国民を見ることが大事だって。公務だとみんな緊張して素の顔を見せてくれないし。それで、少人数で動けるロイドと行っていたんだ。ロイドと僕なら護衛も必要ないしね」
「そうですね、ロイド様も殿下に負けないほど強いと聞いています」
「そうだね。本来ならマリアを少人数で行動させるなんて考えられなかったんだけど、これの存在を知ったから」
殿下は、手で加護のペンダントを撫でた。
「これがあれば、絶対ではないにしろ、ほぼ害を与えられる可能性はない。ならば、マリアの願いを出来るだけ叶えてあげたい。僕と一緒にという条件になってしまう上、執務もあるから頻繁には無理なんだけど、どうかな?」
「ありがとうございます。嬉しいです。私のために忙しい殿下の時間を奪うのは心苦しいのですが。外に出られるなんて夢みたいです」
「僕もマリアと出かけられるのは嬉しいよ。じゃあ、今日は楽しもう」
そう言って、殿下はいろいろなところに連れて行ってくれた。
「マリア、ここの店の煮込み料理は絶品なんだ。今日は無理だけど今度来ようね」
「はい」
「あと、ここから先は治安が悪くなるから、一人で行ってはダメだよ。今日は少しだけ行ってみようか。道もガタガタのところが多いから、手をつなごうか」
サッと手を握られて歩いていく。比較的治安がそれほど悪くないと、説明しながら殿下は進んでいく。古い建物が多く、全体的に暗い雰囲気だ。小さい子供が遊んでいる。住民の子供だろう。下町っぽい?家族ぐるみで助け合いながら生きているようだ。
「少し近くに寄っていいかな?診療所の先生に用事があって」
「はい、もちろんです」
「たまに見学させてもらっているんだ。街の診療所も国民の大切な命を守る所だからね。今日は薬草を差し入れに持ってきたんだ」
「こんにちは、サム先生。頼まれていた薬草を持ってきましたよ」
「やあ、アロ君いつもありがとう。今日は彼女を連れてきたのかい?」
「はは、そうなんですよ。可愛いでしょう」
「はじめまして、マリアと言います」
「ああ、ようこそマリア、もしかして……」
その時入り口付近が騒がしくなった。どうやら急患のようだ。
「サム先生、大変だ!アンが二階から落ちたみたいだ。皆でここまで運んでくるから診てやってくれ」
板に乗せられた5歳くらいの女の子が運ばれてきた。頭と肩から血を流している。頭を打ったのかぐったりしている。
「……これは頭から落ちたのか、血は止められるがここでは応急処置しかできないぞ」
「ここ以外の医者なんて診てくれないよ。くそっ」
「あ、あの、私に少し……」
「ああ、お嬢様に何ができるんだ」
「僕のマリアを怖がらせないでくれないか」
「ああ、アロの連れか、すまない、気が立っていたよ」
「あ、あの、私に……」
「私からお願いするよ。今この場で治せるのは君しかいないだろう」
「サム先生、はい。頑張ってみます」
私は、少女の手を握って、目を閉じた。そう、するのはシャルくんにやったおまじないだ。ララが言っていた。癒しの力は純粋な祈りだと。だから、精一杯祈った。この少女を助けたい。このまま苦しませるのは嫌だ。ラーラ様お願いします。帰りにお菓子をたくさん買って帰ります。