第50話 真夜中の訪問
「遅くなってすまない、マリア」
入浴をすまし、侍女のマーサとキャシーが自分の部屋へ下がって、半刻ほど過ぎたころ、殿下が私の部屋を訪ねてきた。ララは私のベッドの上で丸まって寝ている。
「いえ、遅い時間まで執務されてお疲れ様です。お話は明日でも……」
「いや、マリアが疲れてないなら、今日させて欲しい。このままだと気になって眠れそうにないし」
殿下は、ちらりとララに視線を向けた。
「そうですか、ではハーブティーを入れますね。侍女は下がらせましたので、私が入れますね」
カモミールティーを殿下と私の前に置いた。
「ああ、美味しいよ。ありがとう、マリアのお茶が飲めるなんて嬉しいよ」
「最近、マーサからお茶の入れ方を習っているのです。最近まで、お茶一杯自分で入れられなかったので。自分で出来る事が増えると、嬉しいのです」
「そうか、嬉しい……か。僕は君の可能性をずっと縛っていたんだね。何もさせず、与え続けて、それが幸せだなんて……ごめん、マリア。こんな僕のことはもう嫌かな……」
「違いますよ殿下。殿下がいるから頑張れるのです。一緒に並んであなたを支えたいと思うから、王妃教育も努力できるのです」
「そんな風に思ってくれていたんだな。僕も君がいるから王太子になれた。君に相応しくあろうと小さい時から努力してきた」
「嬉しいです。殿下」
「ねぇ、マリア。前からお願いしているんだけど、そろそろアロイスと呼んでくれないか?アロでもいいし、ほら、」
「あの、今ですか……ア、アロイ…」
白猫がガバリとベッドから飛び起きた。
『だ~~うるさくて寝れないのにゃ~アロイス!!』
「あ、ごめんなさい、ララ」
『アロイスは、もう部屋に戻るにゃ~これ以上聞いていたら砂糖吐くにゃ~甘あまにゃ~』
ララが、べぇ~と舌を出した。
「ちっ、いいところで邪魔を……」
「あ、でももうこんな時間です。殿下、お部屋に戻ってお休みください」
「そ、そうか、ではまた明日」
扉のところまで見送ると、殿下は、扉の陰でそっと私の頬にキスを落とした。
「おやすみ、僕のマリア。いい夢を」
『ん~どうしたにゃ~?マリア、顔が赤いにゃ』