第49話 アロイス殿下に雷を落とすようです
白猫のララは、殿下の腕の中からひらりと飛び降り、私の方まで歩いてきた。
「なに?ララ。殿下と話しているけど大丈夫なの??」
『バレちゃったにゃ。でもいいにゃ、雷を落として全部無かったことにするのにゃ~』
「はっ?雷を落とすって、あれ冗談じゃ……」
殿下もあせった様子で聞き返している。
『冗談じゃないにゃ~本気で、全力出してみるにゃ~』
「ダメ!!やめて!お願い、殿下が死んじゃうっ!!」
焦る私に、ララはフフ~ンと笑って、可愛い手を上げた。
『束縛男に天誅にゃ~~~』
細く長い雷が、殿下の頭上めがけて落ちてきた。
「キャ~殿下!!」
パッとあたり一面が真っ白な光に覆われて消えた。思わず目をつぶった私は、恐る恐る目を開けた。そこに驚いた顔の殿下が立っていた。
「……」
「あっ……そうか……加護のペンダント。よかった~」
「何がどうなっているんだ?確かに雷が落ちてきたのに、何も?加護のペンダント??」
「あの、私とお揃いで、殿下にお渡ししたお守りのペンダントなのですが、実は、5柱の神々が加護を付与しているのです」
「5柱の神々?加護が……は?」
「黙っていて申し訳ありませんでした。あまりのことに、どう説明していいか分からなくて、ただのお守りとして渡してしまいました」
「そんな国宝級以上のものが……」
『そうにゃ~マリアも同じものを着けているのにゃ。さっきの男たちも襲ってきていたら弾き飛ばされていたにゃ~。さらにマリアは女神の愛し子にゃ~そう易々とは害されないにゃ~。アロイスが束縛なんてしなくても、安全なのにゃ~』
「そうか、安全か……」
『そうにゃ、でもアロイスが王宮から出さなかったせいで、マリアは世間知らずで危なっかしいのにゃ~、今回のことだって、知識があれば避けることは出来たのにゃ~。その機会を奪い続けたのがアロイスにゃ~。閉じ込めて守るだけがいいわけないのにゃ』
「……僕のせいで……」
「ち、違います殿下のせいじゃないです。もうララ。やめて。……私がそれでいいと思っていたのです。でも、外に出て、やっぱり外の世界を知りたいと思ったのです。今日はご迷惑をおかけしましたが、ちゃんと出来るようになりたいです」
殿下は何か考えていたようだが、先ほどの雷に驚いた住民たちがぞろぞろと集まってきたため、急いで王宮へ帰ることにした。
「あとで、アリアの部屋に行くよ。執務をチャールズに押しつけて来てしまったから、少し遅くなるけど、待っていて欲しい」
そう言って、去っていった。私はララと部屋に戻ってきた。
部屋に入ると、侍女のマーサとキャシーが泣きながら怒っていた。
「ごめんなさい、二人とも。すごく反省しています」
「ええ、お嬢様、私共の心臓を止めるおつもりですか?寿命が縮む思いがいたしましたよ」
「そうです、お嬢様。王宮中の使用人がお嬢様の心配をしていたのです。それはもう、大変だったのですわ」
「そうだったのね、あとで皆様にもお礼と反省を伝えておくわ」
「このようなことは二度とごめんです。今度されるときは、私共をお連れ下さいましね」
「一緒に来てくれるの?」
「もちろんでございます。どこまでもご一緒いたします」
「ありがとう、二人とも」
「ねえ、ララ。さっきの雷わざとよね?」
『ん~にゃにが~?』
「殿下が死なないって、分かっていて雷を落として、加護のペンダントのことを教えたんでしょう?」
『そうにゃ~。でも、どこまで安全かはやってみないと分からなかったにゃ~』
「えっ、それって死なないまでも、怪我とかしていたかもってこと?」
『ん~そんな感じにゃ~、無事で良かったにゃ~』
「実はララ、アロイス殿下に怒ってない?」
『前ほどは怒ってないにゃ~、でも今回外出を反対したのはイラッとしたにゃ~。過保護、束縛を愛情だと勘違いしているのはいただけないのにゃ~』
「過保護も束縛も、ちょっとは嬉しいのよ。大切にしてもらえているのも本当だし」
『甘いのにゃ、そんなこと言っていたらアロイスが調子に乗るにゃ。もっと自分自身のやりたい事を主張しないとダメにゃ~』
「うん、頑張って気持ち伝えるね」
『その意気にゃ』
「あ、ところで、アロイス殿下にどこまでバレているの?女神様ってことは?」
『大丈夫にゃ~。そこまでは気づいてないのにゃ。たぶん、しゃべれる猫、女神の使い魔くらいに思っているのにゃ。そのまま誤魔化したらいいにゃ』
「あはは、そっか。いつバレたんだろうね」