第48話 side王太子アロイス 落ち込む
「ああ、もう少し言い方があったよな。厳しい言い方だったか?なあ、チャールズどう思う?」
先ほどマリアが逃げて行ってしまった。少し考える時間を置いた方がいいかと、あえて追いかけなかった。
「殿下、さっきからずっと同じ質問ばかりして、書類が止まっていますよ」
チャールズが横に新たに書類を積んだ。鬼だ。マリアの故郷について行ったため執務が溜まってしまっていた。でも、マリアの幸せそうな顔をたくさん見られたので満足している。目がまわる忙しさも今は甘んじて受け、励んでいた。そこに、先ほどマリアが訪ねてきて、定期的に外に出たい、と言ってきたのだ。僕が言ったことは正しかった、でも、それではマリアは納得できないのだろう。後で、様子を見てちゃんと話し合わないといけないな……
ドンドンドンッ
激しいノックの音に何かあったとわかる。
「入れ、どうした?」
護衛が扉を開け、中に入ってきたのはマリアの侍女のマーサだった。
「突然の訪問お許しください。殿下、これがお嬢様の机にございました」
マーサが、紙を一枚差し出した。受け取りサッと読んで愕然とした。勝手にマリアが出ていったのか?探すなだと?
「それで、とりあえず使用人や侍女にお嬢様の行方を探すよう指示し、王宮を隈なく探させたのですが、今のところ発見されておらず、急ぎ殿下にお知らせを……」
マーサは真っ青になって震えていた。彼女の乳母でもあったマーサにさえ黙ってどこかに行くなんて……。
僕は、魔力を王宮中に巡らせマリアのオーラを探した。そういえば、初めて会った時もこんなことをしたな。しかし、今回は、王宮のどこにも虹色のオーラは無かった。
「まさか、本当に王宮から出て行った?」
「門番の男にも確認はしました。お嬢様が出て行った記録はなかったのですが、昔、お嬢様が門番に聞いた、と嬉しそうに話されていた中に、王宮を出るなら荷馬車に隠れるといい、という話がありまして、もしかしたら……」
「……」
王宮を出た、さすがに僕の魔力でも王都全体を探すのは不可能だ。どうする⁈その時一匹の猫のことを思い出した。もしかしたら……
「マーサ、王宮中の者に、白猫のララを探させろ」
「え、ララでございますか?」
「いいから、頼んだぞ」
白猫はすぐに見つかった。大体の行動パターンを使用人が把握していたのだ。
白猫は、中庭のベンチで幸せそうにチョコケーキを食べていた。確か猫はチョコレートを食べると中毒をおこして最悪死ぬのでは???
「おい、ララ。マリアが王宮から出て行った。お前、居場所が分かるんじゃないか?」
『にゃ~~』
「そうか、あくまで猫だと?でもお前の食べているのはチョコだよな?猫は食べないぞ」
『にゃっ⁈』
「いいかげんにしろ!こっちは急いでいるんだ!!お前がしゃべれるのも知っている」
『……ばれてたにゃ~?アロイスのくせに私に命令なんて生意気にゃ~』
白猫は半眼でこっちを睨んできた。全身に重い圧力がかかった。畏怖で背中に汗が流れた。でも、マリアのことが心配で焦っていた。
「頼む、マリアの場所を教えてくれ。見つかった後で何でもするから!!」
『ん~仕方ないにゃ~あとで雷くらい落としてもいいかにゃ~』
「は?」
雷?殺す気か?白猫は前足を上げて抱っこしてのポーズをとった。恐る恐る抱き上げた。
『風魔法使えるにゃ?街の屋根を渡って、上からの方が早いにゃ、馬だと細い路地は無理にゃ。結構危ない状態だから急ぐのにゃ!』
「は?危ないだと⁈」
体に風魔法を展開して、急いで屋根を飛び越えながらララの指し示す方向に進んでいった。この辺りは街の中でも特に治安が悪い場所だった。まさかここにいるのか?
「ああ、近くで見ると可愛い顔してるじゃねか。何して遊ぼうか、なぁお嬢様?」
男二人に追い詰められ、震えるマリアを発見した。許せない。僕はマリアの前に着地した。
「ねえ、もしかして死にたいのかな?」
突然現れた白猫を抱えた僕に、男たちは怯み、僕の顔を見て驚いた。
「あ、あ、アロイス殿下⁈は?なんで??酔いが回ったか?」
僕の絵姿は、王都中で売られているため、どこかで見ていたのかもしれない…。ちょっと面倒だが、僕のマリアを泣かせたのだ。このままにはしておかない。僕は拘束魔法を男たちにかけ、あとから来た護衛に引き渡した。
その間マリアはずっと俯いたまま、僕の方を見なかった。ララは何故か僕の腕の中だ。マリアを抱きしめたいのに、少し邪魔なのだ。
「殿下、勝手な行動をしてすみませんでした……」
逃げ回ったせいで、髪も服もボロボロになってしまったマリアが頭を下げた。
「王宮に戻ったら、ゆっくり話をしよう」
「……はい、分かりました」
その時、白猫が僕の方を見上げて、にやりと笑って言った。
『ねぇ、アロイス~。約束忘れてないにゃ~?』
「え、ララ。しゃべったらバレるよ……。約束???」