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第47話 初めての反抗期

「え、定期的に外に出たい?なぜ?」

「いろいろなものを実際に見て感じたいのです」

「来週からリリアーナ嬢の領地に遊びに行くよね」

「はい、その様な事を、今後増やしていきたいのです」

「それは、無理だ。君は女神の愛し子だ。外に行くということはそれだけ危険なことも増えるんだ。学園や王宮以外のところに行くときは、護衛を付け、警備も強化しているんだよ。今回の移動もかなりの護衛がついて来ていたのを見ているよね。リリアーナ嬢のところに行くのも事前にかなり打ち合わせしているし、人も物もかなり動いているんだ。マリアなら分かってくれるよね」

「…はい、分かりました。無理を言ってすみませんでした……」

 殿下の言っていることは正論だ。そう分かっている。でも、気持ちが拒絶した。

広い空を知ってしまった鳥は、狭い鳥かごが安全だと言われても、一度知ってしまった空を忘れることが出来なかった。息苦しさを感じて、そのまま殿下の前から逃げてしまった。

「あ、マリア……」

殿下が声をかけたけど、振り向かずにそのまま逃げだしたのだ。

殿下は知らないけど、加護のペンダントもあるし、もともと女神の加護もあるのだ。だから自由にどこにでも行きたい。

ずっといい子でいた。我儘も言わず、王妃教育も頑張った。王宮以外のところに行くこともせず、ずっと王宮に引き籠っていた。それでいいと思っていたのに、今はそれが嫌だと思ってしまっている。


部屋へ戻ると、学園の制服に着替えた。夏季休暇中も、用事で登校する生徒がいるため、この姿で街を歩いても不自然じゃないと思った。私が持っている服はどれも目立ってしまいそうだから。そして、置手紙を書いた。

【少し出かけます。探さないでください。マリアローズ】

なんだか家出のような文章になってしまったが、気持ち的にはそうだ。一人で出かけて、無事に帰ってきたら殿下も外出を許してくれるのでは?そう思ったのだ。

 

そして、王宮裏にある荷馬車止めまできて、止まっている荷馬車の中へ隠れた。6歳から王宮に住んでいるので、どこに何があるかは、ほとんど把握していた。ここは、王宮に食材などを運ぶ業者が荷馬車を止めておく場所だ。きっとこの荷馬車はそのまま王宮を出ていくだろう。入るときは厳しく調べられるが、出ていくときはほとんど何も調べない。と、門番のおじさんが、小さい時に私に教えてくれたのだ。

しばらく待つと、ガタンと荷馬車が動き出した。門番が声をかけるが、良く知った業者なのか、ほんの数秒で荷馬車は門を出て行ったのだ。

「やった、私王宮を一人で出たわ。あとは、少し冒険してから帰って、ちゃんと出来るって証明したらいいのよ……」

その時の私は、初めての冒険にドキドキワクワクしていた。冷静な判断なんて無理だったのだ。

荷馬車が止まったので私は慌てて降りた。ここがどこかも確認してなかった。

「ここ、どこかしら?いつもリリーと行く王都なのは判るのだけど、なんだか雰囲気が違うような……まあ、歩いていたら知っているところに出るかな?」

そう、私はこの時気づいてなかった。自分の前世は、平和で治安のいい日本で、危機管理はあまり気にしてなかったことを。そして、転生前も含めて私は王宮で、アロイス殿下をはじめ王宮の使用人に至るまでに、大切に守られて生きてきたことを。

「…あれ、行けば行くほど王都っぽくない場所に来ているような…なんだろう嫌な予感しかしない……これも迷子って言うのかな?結構歩いたよね、来た道を戻る…」

その時、後ろに嫌な気配を感じた。何?お酒臭い…

「おう、その制服、ローズウィル学園だよな~。お貴族様のお嬢様~」

「えっ……」

「俺たちと遊んでくれるのか~?」

私は一歩後ろに下がった。そこには酔った二人連れの男が立っていた。どうしよう、これってまずいよね? 親切に道を教えてくれるパターンじゃない気がする。逃げなきゃ。

「あ、あの、急いているので、失礼しま~すっ!!」

そう言って、とにかくダッシュした。でも、この制服とにかく走るのには向いていない。普段お嬢様は、走るなんて行為は必要ない。だから、スカートが足にまとわりつくこともない。男たちが追ってきたが、あちらも酔っているためすぐには追いつかれない。早く人がいるところへ逃げないと……

「待て、逃げられると思うなよ~!!」

男たちが怒鳴りながら追いかけてくる。距離もかなり近づいてきた。息も苦しいし、足も限界だ。でも、止まったらどうなるの?まさか殺される?女神様の加護ってどこまで有効なの???私は必死で走ったが、とうとう行き止まりに追い詰められてしまった。

「手こずらせやがって、どうしてやろうか……」

男の内の一人が手に小さなナイフを握った。

「ひっ……」

恐怖で声が出ない。目から涙がにじんだ。走った体はどくどくと血が巡って、鼓動が大きく耳元で響く。男たちが少しずつ近づいてきた。

「おお、近くで見ると可愛い顔してるじゃねえか。何して遊ぼうか、なぁお嬢様?」

その時だ、空から白猫を抱えたアロイス殿下が降ってきたのだ。

「ねえ、もしかして死にたいのかな?」


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