第46話 白猫ララのひみつ
馬車に乗ってしばらくすると、殿下からスヤスヤと寝息が聞こえてきた。視察に結婚式に、いろいろと気を使って疲れていたのだろう。そっと上着をかけておいた。
「ねえ、ララ。昨日はどこに行っていたの?探したのにいなくて、心配したんだよ」
『ごめんにゃ。昨日朝に近くの森に行ったら、変な気配がしたから追っていたにゃ~』
「変なって、まさか断罪の原因の?」
『う~ん、結局分からなかったにゃ、途中まで辿っていたのにゃ、でも泥にはまって見失ってしまったにゃ、そこから朝までもがいていたのにゃ~』
「え、それって元の姿に戻ったらよかったんじゃ?」
『はっ、最近この姿に慣れていて思いつかなかったにゃ~~元に戻っていたら、原因も捕まえられたかもにゃ~』
可愛い前足で頭を抱えるララは猫にしか見えない。正直私も最近ララは白猫と思っていた。まあ、しゃべっている時点で猫ではないのだが……
『王宮に着いたらルールに相談して、対策をねるにゃ。それまで寝るにゃ~』
そう言って、私の膝の上に丸くなって寝てしまった。ララの体温でポカポカしてきた私もすぐに眠りに落ちた。だから、殿下のつぶやきは耳に届かなかった。
「…猫がしゃべった……?」
帰路は、途中の観光地に寄ったり、視察をしたりしながらゆっくり帰ってきた。時折殿下がララをじっと見ていることがあったが、普段、王宮と学園しか知らない私は、観光に夢中になって余りその事を気にしてなかった。
馬車は7日かけて、王宮に到着した。不思議と帰ってきた。と思ってしまった。人生の半分以上を王宮で過ごしてきた。すでに、ここが私の帰る場所になっていたのだろう。
『ルールと話してくるにゃ~』
ララはすぐに部屋を飛び出していった。
「元気ねララは。私はさすがに疲れたよ」
毎日が新鮮な景色だった。王宮は広いから閉じ込められているとは思ってなかった。ララがいくら束縛されていると訴えても、そんなに息苦しく感じてなかったのだ。
でも、今回外に出て思った。外の世界は、とにかく広い。王宮にある本では得られない知識の宝庫だ。見て触って感じて得るものは兎に角わくわくが止まらないのだ。そう、初めての欲だった。今の殿下なら、この気持ちを伝えたら、分かってくれるかもしれない。
それはほんの少しの希望だった。鳥かごの鳥が、少しだけ空を飛んで、空の広さに憧れるような、でもやっぱりかごの鳥は外に出られないみたいだ。